61.氷の奥に
ぐっすり寝たら疲れがだいぶとれた。それなのに朝からアデルの話し相手をして大変不快な気持ちになった。言いすぎてしまったかもしれないが、まぁこれ以上仲良くなることもないだろうからいいかと思っておく。それより今日はコルトスターに呼び出されているのだ。コルトスターの私室に向かう。ノックをして部屋に入る。
「待っていたぞ。」
コルトスターは重たい表情をしていた。話す内容が重いだろうと予想していたが、実際こう見ると予想以上に重そうだ。
「お話とは何でしょう。」
「本題に入る前に、なんだ、その、とてつもない危険に晒してすまなかったな。儂の完全な読み違えだ。そのせいで部屋に籠ることになってしまい・・・。」
「いやー、部屋から出れなかったのはそれだけじゃないですよ。あんなにわんわん泣いてしまい合わせる顔がなかったのです。恥ずかしかったので・・・。」
「なぜ子どもが泣くことを恥ずかしがる?」
あ、まぁ確かに。僕は今そういえば子どもだった。コルトスターはなんだかんだ心配してくれていたようだ。なんだかほっこりする。
「では、本題について話すぞ。まず・・・あの分厚い氷についてお主に話そうと思う。」
信頼してくれたのだろうか。少しうれしい気持ちになる。思わず表情がにんまりしそうになったので顔を
グニグニと揉んでごまかした。
「何をしているのだ・・・。まぁ、いいか。あの分厚い氷の奥にはデルフィナ、儂の・・・・・・嫁がおるのだ。」
ほほう、嫁を助け出そうとしているのか!何だか照れてるコルトスターに笑ってしまう。あれ、デルフィナってジェーヴォの言ってたあの絵の人か。美しい嫁を助けようとしているとかなんか羨ましいねぇ・・・。
「あの氷に閉じ込められてもう2年になる。まだ生きていると感じるが、そろそろあの氷を解かさないと彼女が死んでしまうのだ。」
「それなら火の魔導でバーって燃やしてしまえばいいではないですか?」
「そんなことをしたらデルフィナまで燃やしてしまうではないか!そんなことができたらこんなに悩んでおらん。」
ですよねぇー。だからってあんな魔術具ではいつ終わるかわからないぞ・・・。
「いろいろ調べ尽くした結果、仕方なく人族の使う魔術具なぞに頼ることになったのだ。しかし、このままでは間に合わないのではないかと思ってな。」
「それでわざわざ供給する人を増やすために奴隷を?」
「そうだ。たまたま野盗に襲われている人族を連れてきたのが始まりだったがな。」
うーん、子どもの奴隷を使うのもなんか裏がありそうだなぁ。
「なぜ子ども奴隷を使うのでしょうか?大人の方が魔力が潤沢ですよ?」
「・・・デルフィナがな、子どもが好きだったからな。」
そんな理由!?思ってた以上に嫁さん大好きなんだなぁ。効率はとっても悪いんだよなぁ。
「人族のところに野盗に襲われている一家を連れていったら奴隷にするといいと奴隷商から助言を得たのだ。その奴隷商は魔族にも斡旋していると聞いていたからな。」
んんん?よくわからないけど奴隷商に騙されてなかろうか。というか奴隷商になぜ聞いた!?そりゃそういう答えになるわな。
「そこの紹介で魔術具を作ってもらったのだ。特注でな。」
「それって・・・魔族用にですか?」
「そこまでは知らぬ。」
「あのーですね、たぶんあの魔術具は魔族用に作られていまして・・・。人族は魔族より魔力が少ないので魔力供給の時にバッタバッタ倒れるのですよ。」
「そうであったのか・・・。あの人族の子らに申し訳ないことをしたなぁ。」
あら、この人結構いろんなことに目がいっていないのだなぁ。言えば供給も楽になりそうだし。騙されやすいし。中々に純粋だし。なんか残念な人なんだぁ・・・。戦いの時にはめちゃくちゃかっこいいのに。
「だから、人族にやらせてもあの氷は対して解けませんよ。おそらくご主人様用に作られたわけではなく、魔族の平均ぐらいで作られていますから。それに改良すればご主人様用の魔術具にできますし。そうすればたぶんすぐ終わるんじゃないかと。」
「なんだと・・・。」
コルトスターが口を開けている。はぁ、頭をもっと使えばわかるのに。
コルトスターはお人よしです。嫁大好きです。不器用です。騙されやすいです。モフモフです。