60.5. アデルマリアの迷い
私はアデルマリア・ベフォン。元は中級貴族でしたが、今は事情が事情で魔族の奴隷をしております。魔族に買われるなんてとても屈辱的でしたが、意外にも自由に生きることができており、魔族に行かされている事実さえなければ良い日々を過ごしています。
最近来た子がよく魔族と親しくしています。病気でもあるのか部屋に籠りっきりでして、魔族の子が食事を運んでいるのを目にしました。なぜあんなにも嫌悪すべき魔族と一緒にいられるのか私にはまったくわかりません。わかりませんが、ここで一番強くて年が上なフリストにすらあの子は勝ってしまう変な子なのです。
「やぁ、アデル。君は今日も庭の手入れかい?」
「そうよ。フリストはまた剣のお稽古?」
「そうだ、あいつを今度はぼこぼこにするためだからな!」
どうやらフリストは年下に負けたことが相当悔しかったようです。しかも複数人で囲んで卑怯な戦いをして負けたのです。面目丸つぶれで、仲間内でフリストの地位は落ちていったそうです。
私は毎日庭の花々を手入れしています。元のおうちで私は美を磨くためにお庭の手入れをよくしていました。元のおうちのお庭よりもこの城のお庭は大きいので少々大変です。しかし、アリストもなk何もやることがないのでお庭の手入れぐらいしか一日にやることがありません。
私がお庭の手入れをしていると魔族と稽古をするあの子の姿が見えました。あの子も魔族も目で追いきれないくらい早く動いており、目で追っていると目が回ります。あのような動きができる子にフリストは勝てるのでしょうか。仲良さそうに稽古をしている二人を見て私は少し羨ましくなりました。私はここに来てから何不自由なく生きています。しかし、彼らのように輝いた生き方をできてはいません。魔族は忌むべき存在なのに・・・あの子は私たちの常識を破っていきます。なんだかもやもやします。
稽古をする姿を見たからか余計にもやもやしていました。その日はあまりよく眠れませんでした。
☆
次の日、思い切ってあの子に話をしに行こうと思いました。朝、起きているだろう時間に訪問をしました。
「失礼するわね。」
ノックをして入るとすでに着替えていたあの子が待っていました。
「わざわざ訪問されるとは何かありましたか?こうしてお話しするのもお久しぶりですね。」
「ええ、そうね。今日は・・・そうねぇ、あなたと魔族の関係について話に来たの。」
「あぁ、そんなことですか。」
彼は少し肩を落としました。それと同時に目が厳しくなります。私がこんなにも悩んでいるのにそんなことと言われてしまい少しむっとしました。
「他の子たちがあなたのことを良く思っていないことはご存じで?」
「えぇ、魔族とつるんでいるやつと見下されているのは知っていますよ。」
「知っていてなぜそのようなことができるのですか?魔族は忌むべき存在です。アリストでまだ習っていなくともお父様やお母様にそう聞いてはいませんか?」
私がそう言うと彼は少し苛立ちました。なぜ苛立っているのかまったくわかりません。年下の男に少し怖いと思うのは変なことでしょうか。彼の放つ雰囲気はまったく幼い同じくらいの子とは違います。
「私の常識は非常識だとわかっております・・・。しかし、物事の本質も見極めずに否定してしまうのは愚か者のやることだと思うのです。」
そう言われてむっとするよりもなぜか落ち込みました。私にも私の心の中が分からなくなってきています。
「忌むべきものをどうやって忌むべきものと見ないようにすれば良いのでしょうか。私にはまったくわかりません。」
「うーん、私にとって生きるもの全て生き物としてしか捉えていません。魔族も生き物ですから。まして感情があり、一緒に食事をとり、笑いあえるのです。彼と共に過ごす時間は楽しい。私はあの魔族の子をとても信頼しています。これでどうやって忌むべき存在と思えるでしょうか?」
私は彼の言葉に何も言えなくなりました。そこにいることが辛かったので退席させてもらい、部屋に戻りました。私が羨ましいと感じたのは笑いあう彼らの姿でした。私はどうしたら良いのでしょうか。まだまだこのもやもやは解けそうにありません。
おまけなのに長めに書いてしまいました。アデルマリアは悩んでいます。どのような答えを出すかはまだわかりません。