53.喧嘩
数日後、図書室からの帰りで食堂に寄っていた。そこにいる料理人の魔族はテンスというウェアウルフであった。しばらく通って話しかけていたら仲良くなっていた。仲良くなったきっかけはジェーヴォが「悪いやつじゃないよ。」と僕のことを紹介してくれたからだ。
人族の子らがあまりいない時間を見計らって食べに来て、テンスとジェーヴォと話すのが最近の楽しみだ。ジェーヴォは来たり来なかったりなので少し残念だが。テンスは成人したウェアウルフで人族の料理や僕の元の世界の料理などに興味があるようだ。
ご飯を食べ終えて図書室から借りた本を持って行くために自室に戻っていた。しかし、部屋に入る前にフリスト達に遭遇し難癖をつけられていた。
「おい、お前魔族と仲良くしているだろう!」
「・・・。」
ワルーイの時同様に無視である。軟弱ものなんぞ相手にしない。あぁ、なんかワルーイを思い出していやな気分だ。
「おい、無視とはいい度胸だな!魔族の本なんて借りやがって!」
フリストの手下たちが積んであった本をひょいと持ち上げ投げ捨てた。奴らは意地悪そうに笑っている。残っていた本を丁寧に床の端の方に置き、投げ捨てられた本たちを回収しに行った。回収した本も端に置きゆっくりとニコニコした表情で奴らを見る。もうブチギレ状態である。
「ハハハ、本なんか大事にしやがって!軟弱ものが!魔族にへこへこしないと生きていけないのだろう?」
その瞬間に怒りのスイッチが入った。よーし、甘ちゃんどもにはお仕置きが必要だな。
「本を、叡智を大事にしないやつは許さない!!」
「トレゾールのくせに一丁前に怒っていやがる!少し痛い目を見せてやれ!」
そう言って手下たちが殴りかかってきた。はぁ、弱い者だ思っている奴にみんなで殴りかかる神経がわからん。とりあえず、投げ捨てられ、価値を踏みにじられた本に代わってお仕置きだ!
左手にスタンガンを用意する。あとは出力を抑えて避けながら当てるだけ!あっという間にフリスト以外がやられる。動きも遅いし戦闘のイロハもわかってない。アリストの体術クラスだと2組にもなれないんじゃないかな?4人もいて1人を倒せないとは・・・。
「ず、ずるしたろ!」
「なに?魔法使えるの知らなかったのか?相手の力量もわからないとは・・・年だけ上で、脳みそも魔力も何もかも私の方がだと気づかなかったのか?」
「好き勝手言いやがって!私は公爵家の・・・。」
最後まで言わさずにぶん殴った。軽く吹っ飛んだが、命に別状はないだろう。そのクソな面がもっとクソになるだけだ。
「ここで爵位なんて関係ないのくらいわからないから雑魚なんだ。」
手をパンパンと払おうとしたが、右手がなかったのでできなかった。フリストは僕の方を見ながら放心状態だ。よく見ると鼻血が出ている。ざまぁみろ!
やじ馬たちが僕のことを怖がっていた。やりすぎたかもしれないが、まぁこの奴隷生活上ではもはや目立たないとか気にしなくていいからなぁ。僕は本を拾ってスタスタと自室に戻っていった。
喧嘩というか一方的な暴力・・・。この事件をきっかけにますます魔族寄りになっていきます。