44.起承転転転
目が覚めたら布をかぶせられているのか真っ暗だった。馬車にでも乗っているのだろうか、グワングワン揺れている。最後の記憶を思い出すとミトロファン信仰の過激派にさらわれたことがわかった。死にはしなかったが、どうにも良くない方向に事が進みすぎている。魔力を込めて抜け出そうとするが、なぜか魔力が出てこない。かといって枯渇状態でもない。おそらくそういった魔術具か薬を使われているのだろう。自分の無力さにグッタリする。
おそらく、お母様もお父様も無事ではないだろう。そう考えたら自然と涙が出てきた。ユースは逃げ切れただろうか。逃げきれても向こうの国が受け入れてくれなかったら・・・。暗く深い海へと沈んでいくような心地だ。しばらく揺れていると外で声が聞こえた。
「おい、金目の物を出せよ!命は惜しいだろう?」
「無礼者が!切り捨ててくれよう!」
何度か剣撃の音が聞こえた。野盗にでも襲われているのだろうか。何もできないのでとても冷や冷やしながら外の音を伺う。しばらくして数人の男が馬車の中に入ってきた。
「手こずらせやがって。あいつグリルとゼホンを殺りやがった!」
「騎士様相手じゃ仕方ねぇ。2人の犠牲で倒せたんだから儲けもんさ。」
「ん?これは人間が入っているぞ?」
バッと頭にかぶせられていた布を取られる。まぶしい。どうやら誘拐犯は負けてしまったらしい。これからの処遇がわからないのでとても怖い。
「こりゃあ・・・高く売れそうだな!金髪のガキなんざお貴族様にしかいねぇ。」
「奴隷商のところに行くか。これの他に金目のもんはねぇ。」
最悪だ。殺されはしないが、奴隷になるらしい。腕に魔術具がはめられており魔力が出ないのが確認できた。つまり、今の自分はただの5歳児だ。あがくのを諦めた途端、急に力が抜けた。ザダンカイらに殺されかけ、ミトロファン信仰の過激派に連れ去られ、挙句奴隷にされる。どれをとっても最悪だが、なぜこんなに事態は変わっていくのか。悪いほうへ。これが物語なら起承転結が成されていないクソストーリーだ。
野盗が僕を担ぎ移動した。野盗の乗ってきた別の馬車に乗せられる。また、グワングワン揺られながら移動する。もうダメだ。お父様たちと一緒に戦えばこんなことにはならなかったんだ。絶望しながら涙を流す。ずっと馬車に揺られ、縛られ、食事は与えられず、糞尿は垂れ流しである。人間の尊厳もへったくれもない。次第に思考はまともにできなくなった。奴隷商に売られた時には心がぽっくり折れていた。
落差が激しくてすみません。鬱な展開で第1章は終了です。このペースで章を分けると章がたくさんできそうです。




