3.トレゾール
次の日、予定通りに兄がやってきた。兄はよほど楽しみだったのか走って僕の部屋までやってきた。
「ユースティス様、剣術でかいた汗を流してからにしましょう。アルチュール様に嫌われてしまいますよ。」
ユースよりも年上であろう少年が僕を抱き上げようとするのを止める。
「た、確かに。周りが見えていないのが私の悪い癖であった。くっ、アルよ、もうしばし兄のことを待ってくれ。」
ユースはどうやら聡明な子であるようだ。自分の悪いところをこの年にして認められる。僕にはできないので、精神年齢はさておき、兄として尊敬することにした。
ほどなくしてユースが先ほどの少年と共にやってきた。ユースが僕のことを抱き上げる。少年はにっこりと満面の笑みでユースを見守る。
「アルは本当にトレゾールなのだな。」
「そのようですね。しかし、ユースティス様が守って差し上げるのでしょう?」
「当然だ!父のような強く慕われる騎士なって国と家族を守るのだ。」
あらやだ、ユースったらイケメン。父の職は騎士のようだ。というか、子どもであるユースや僕が様づけされている感じからして偉いのだろうか。忙しいようだし。しかし、トレゾールとはなんであろうか。守ると言われる当たり弱みになることだろうか。・・・あぁ、右手がないことかな?まぁ、兄を立てる意味でも騎士にはならず、研究者になりたいものだ。
「ディリアス、アルはしゃべらないし、泣かないし、寝る時間も少ない。健康なのであろうか・・・?」
「大丈夫ですよ。トレゾールであること以外、アルチュール様は健康だと私の母が言っていました。乳母であり、医師の資格を持つ母の言葉ですから心配はいらないでしょう?」
「あぁ、そうだな。しかし、なんと小さい手か。」
手のない右手を触りながらじっと僕を見つめる。トレゾールの意味は間違ってないようだ。じっと見つめるユースの目は決意を秘めており、とてもまっすぐであった。その目を見ていると純真さに打たれた気分になる。自分が当初は研究のことしか考えていなかったのを恥ずかしく思った。
赤ん坊になって初めて自分が前世ではいろいろなことを学んでこなかったことに気付けた。
「アルの顔を見たらもう少し鍛錬すべきな気がしてきたぞ。ディリアス、付き合ってくれ。」
「喜んで。」
僕を丁寧にベッドの上におろして、サッと部屋を出ていく。それと同時に外で控えていたお手伝いさんが入ってきておしめを変えてくれた。おしめを変えられながら、赤ちゃんの内からユースのためにできることがないか考え始めた。純粋さに当てられて、少し僕も純粋になったのかもしれない。
とりあえず、次にユースが来たら、ユースに向かって微笑みかけようと考えた。前世では仏頂面の自分にできるだろうか?まぁ、ユースのためだ。練習しよう。幸い時間はたくさんある。
笑顔の練習をしながら時間をつぶしていった。
ユースは5歳です。少年ディリアスは7歳でユースの面倒を見ています。
書きためていたものを少しずつ流していきます。