30.下町
次の日、アリストがまた始まる。午前中は体術の授業で基本的な運動技能を高めた。午後は魔術の授業である。予定では、魔術基礎を詰め込んで、僕が学術の時間が暇なのでメタンを作るということになっている。
「・・・ということで魔術は・・・。」
エシェルトリアが言うことや黒板に書くものをノートに写していく。ノートが普及していたり、黒板があったりと文化水準は案外高い。
「・・・今日はここまでです。みなさんついて来れましたか?」
「は、はやい・・・。」
セレスとケルヴィンがヒィヒィ言っている。オルフェは涼しい顔をしている。フランシスカはまだノートを取っていた。
「フランシスカ、何を書いているんだい?」
「こ、ここ、こ、こ、これはみ、見ちゃだ、だ、だめです。」
真っ赤になりながらノートをバッと閉じる。まぁ、見せたくないものなら深く追わないほうがいいか。
「では、あなたたちには課題を出します。今日学んだディッテンを作ってきてください。期限は赤の日までとします。」
「「「えー!!!」」」
セレスとケルヴィン、フランシスカが嫌そうな顔で叫ぶ。あれ?これ結構簡単な課題じゃないか?ディッテンとは簡易な水を出す魔術具だ。水筒の代わりにもなるし、他の魔術具に組み込んでトイレになったり、基本的な魔術具だ。作り方は簡単。触られると塩水を出す謎の貝とそれをろ過してきれいにする葉を箱に入れるだけだ。箱は市販で売られている魔力伝導率の高いものを使えばいい。貝も葉もそこらへんに売っている。
「先生、まさか下町に自分で買いに行かなければならないのですか?」
「私はお金がありません~。」
「そうです、自分で買いに行かなければなりません。ケルヴィンにはお金を研究費として出しましょう。」
ケルヴィンはほっとしていた。セレスは文句をぶつぶつ言っていた。
「え?これそんなめんどくさいか?」
「私は稽古の時間がなくなっってしまうから怒っているのよ!」
おぉう、さすがラーム家だ。稽古命らしい。
「じゃあ、この後みんなで買いに行かないか?」
「わ、わ、わ、わ、わ、私はよ、よ、予定が・・・。」
「私も今日は稽古よ!」
「僕は行けますよ~。」
「私もだ。では、今日は男三人で買い物かな。」
なんとも言えない感じだが、とりあえず買い物に出かけることにした。
☆
下町に出かける。ファーレとオルフェの従者もついてきている。貴族街から出たことがなかったので、新鮮な感じだ。首都だからか人混みがすごい。興味本位で歩きで行こうと言ってしまったのは失敗だった。歩きは危ないので武器を装備していく。
「しかし、人が多いな。ケルヴィンは毎日ここをかき分けて帰っているのか?」
「いえ、いつもは抜け道とか裏道を使っています~。ただ、危険なところには行かれない方よろしいかと思われます~。」
確かに危険なところは避けたい。そもそもこうして歩いている際にナイフで刺される可能性もあるし、下町は危険がいっぱいだ。魔力を体に巡らせおく。しばらく行くと市場通りについた。
「ケルヴィン、どこに売っているんだ?」
「あちらの露店で貝も葉も手に入ります。」
2つとも食べられるので食材として売っている。
「いらっしゃい!ケルヴィン、貴族様なんて連れてどうしたんだい?」
着ている服の質が違うため、貴族と平民はすぐに違うことわかる。
「今日はそれとこれを買いに来たんだ~。」
「よろしくお願いいたします。」
「あらあら、お貴族様がそんなかしこまらないでください!」
平民の環境の方が僕は生きやすいかもしれないと思った。身分闘争で疲れなくてよさそうだし。貝と葉をいくつも買っておいて帰ることにした。ケルヴィンだけは違う道で帰っていった。
案外、平民と貴族で交流のある世界観です。平民も頑張れば貴族になれる世界ですから。