9.過激派の襲撃
父が出ていったすぐ後、見知らぬ侍女が入ってきた。侍女の顔はすべて覚えたのに、知らない人が入ってくるのは何か違和感があった。
「やっと見つけた・・・。」
怪しい。明らかに獲物を見るような目をして僕を見つめている。
「あなた様はミトロファン様の生まれ変わり。しかるべき場所に移動されるべきです。」
もう黒ですね。怪しいどころか真っ黒。この不審人物は、僕を抱き上げて連れ出そうとする。これはやばい。身を守る術を考えなければ。そう考えている内に、廊下へと出る。初めて部屋の外に出た。やばい、考えろ。考えれば道は開ける。
誘拐犯は廊下に出たとたんダッシュをして廊下を駆ける。中々に長い廊下できれいなカーペットがしかれている。やはり金持ちなのか、ツボやら絵やらが展示してある。いやいや、そんなこと考えている場合ではなかった。
外につながる裏道のようなところを抜け、階段を降りる。開けた庭に出た。その先には馬車がとめられている。これに乗せられたらもう見つからないかもしれない。そうだ、魔力を使ってみよう!ゆっくりと魔力を体に巡らしていく。急激に巡らせるとと酔ったような気分になり、気持ち悪くなるだ。すでに実験済みである。
「くっ、魔力が漏れ出している。何をされるのですか?」
誘拐犯の顔が苦痛に歪み始める。他人の魔力を感じると基本的は痛みが生じるようである。だが、残念ながら馬車についてしまった。痛いからなのか、ミトロファンの生まれ変わりであるはずの僕を馬車に投げ込んだ。いろいろやわらかい素材のものが入っているからよかったものの、そうでなかったら下手すると死んでしまう。
「早く出せ。」
誘拐犯は御者に命令だけして馬車に乗らず、どこかに消えていった。馬車が揺れはじめ、どこかに連れ去られて行く。不安な気持ちが胸に広がり、怖くなった。家族に会えなくなることが怖かったのだ。
そんな気持ちになったら体が光り始めた。なんだかやばい気がする。魔力が膨れ上がり体外に排出されていく。このまま魔力が失われるのはまずい気がした。こんなに魔力が溢れるなら魔法使えないかな?ふいにそんなことが頭をよぎった。
よし使ってみよう。どんな魔法がいいだろうか。目的は2つ、馬車を壊しこれ以上遠くに行かないようにすること、それから誘拐されている事実を周知すること。しかし、もし町を破壊する規模の魔法を打ち出してしまったなら、後で家族に迷惑をかけてしまう。そこで浮かんだのが雷だ。狭い範囲で攻撃することができ、イメージしやすい。上空から雷が降るイメージをする。
次の瞬間、バチッとした音と共に人と馬の悲鳴が聞こえた。首が回る程度に周囲を確認してみた。どうやら馬車の荷台はバラバラのようだ。積み荷は焦げ焦げである。野次馬が集まりだした。
「なんだなんだ?」
「今、雷が落ちなかったか?」
「とりあえず兵士に連絡しろ。」
「赤ん坊がいるぞ!」
どうやら目的は果たしたようだ。知らぬ人に抱き上げられ、これ以上連れ去られないだろうと思い、安堵する。困ったのは抱き上げている人の服が臭いし汚い。すぐに兵士がやって来た。
「何があった?」
「突然の落雷で馬車が壊れたみたいです。」
「その赤子は?」
「馬車の中にいたようです。赤ん坊以外は死んでいます。馬すらも。」
「・・・。その赤子の身元を確認せよ。」
なんとか助かったようだ。魔力を使ったからか眠くなってきた。まぁいいか。寝よう。
ミトロファンの狂信者はこの世界にたくさんいます。