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第98話 あいつの涙が何よりも辛い

 俺が座るテーブル席そばの通路に立っているのは、久奈。ひひひひひひひひひひひ、久奈!?


「なんでここに……」

「あたしが誘ったの」


 金城が久奈の背後から顔を出す。その顔は渋め。苦い顔で俺と火藤さんを交互に見てく……って、久奈?


「……」

「美味しい~っ」


 久奈が無言で火藤さんを見つめ、火藤さんはそれに気づくことなくパフェに夢中。

 え、あ、久奈の顔が……あの、無表情は無表情なんだが妙に曇っているというか機嫌が悪そう……。

 てか言おうよ俺! 正直に話すって決めたじゃないか。


「聞いてくれ、この前の件は」

「なお君は……火藤さんとデート中?」

「へ?」

「……二人きりで」


 で、でぇと? いやいや! なんで俺が火藤さんとデートしなくちゃいけないんすか! あ、今この状況?


「火藤さんが怪我をしちゃって。だからここで休もうと」

「火藤さん元気そうだよ」

「あー、パフェを奢ってあげたからじゃないかな」

「……なお君が奢ったの?」

「そうだけど」

「なお君が火藤さんの為に奢ったの? 二人きりで」

「二人きりは別に関係ないだろ」

「……」


 久しぶりの会話。けれど久奈は俺の方を見ない。じっと火藤さんを見つめて、火藤さんはパフェしか見ていない。

 おい、おい気づこうぜ委員長ぅ! 俺もなぜかは分からないけどあなたを渦中に変な空気になっていますよ!? いつまでストロベリーの甘さに舌鼓しているんだあぁ!


「落ち着こう、うん。俺の話を聞いてくれ!」


 まーて待て待て、空気に飲まれて言いたいことも言えないポイズン状態に陥っている場合じゃねぇ。ちゃんと言うんだ!


「さっきまで委員長の仕事をやっていて、その時に火藤さんが怪我したんだ。だから一緒に帰って、で、火藤さんが足痛いって言うからここで休もうと俺が提案して今に至る。マジで!」

「……」

「それとこの前は本当のこと言わなくてごめん! あの時、えっと、俺が火藤さんを抱きかかえた時なんだけどさ」

「ふえぇ」

「んあ!?」


 拙いながらも必死に説明する俺を邪魔する火藤さぁん!?

 見れば、パフェをこぼしていた。かとぅー!? 使えない右手で無理に食べようとしたのか。お馬鹿っ。ポンコツやめい! タイミング考えろ!


「ご、ごべんなざい、警察には言わないでぐだざい」

「だから言わないって! またお巡りさんを呆れさせるつもりか! あぁもうテーブルが……」

「なお君」


 っ、と、そうだ久奈だった!


「警察って? 火藤さんと何かあったの?」

「あ、ああ、それもあったな」

「それも? それもって何」

「火藤さんと帰っていたら交番で警察に事情聴取されたんだ」

「……二人で帰っていたの?」

「へ? いや、まあ、その時も二人で帰っていたけど」

「仲、良いんだね……」


 久奈の顔が曇る。あ、ヤバイ待ってこの流れヤバイ、嫌な流れになっている。

 な、なんでこうなる。なぜこうも上手く事が運ばないんだ……!


「仲が良いっつーか偶然だ」

「……じゃあ、あーんしていたのも偶然なんだ」

「っ、見てたのか」


 ち、違うんだって。誤解だ。


「火藤さんが怪我しているから食べさせただけだよ」

「……」

「というか火藤さんは関係ない。久奈が怒っているのは俺が嘘をついていたからで」

「く、工藤君パフェが溶けてます。早ぐ食べざぜで……!」

「がああぁ今忙しい! パフェくらい後でいくらでも頼んでやるしあーんしてやるから待ってて!」

「火藤さん火藤さん、どうして火藤さんばかり……」


 ひ、久奈?


「どうして……? なお君は火藤さんみたいに大きな声で泣く子がいいの? 感情の起伏が激しい子が好きなの? そんなこと、私聞いたことない……」

「何を言っ」






「なお君はおとなしくて静かな子が好きなんじゃなかったの……? ねえ、なお君……!」


 おとなしくて静かな子……? 久奈は何を言って……


「だから、だから私はずっと……っ」


 見慣れたセミロングの黒髪が揺れる。踵を返し、俺から顔を背け、店の扉から去っていく。

 視界に映った横顔には見慣れない悲しげな表情が浮かんでいた。一筋の涙が流れ雫となり落ちた。

 ……今、久奈が泣い……っ、


「待って!」


 追いかけようと立ち上がる。

 しかし慌てすぎたせいか、隣に置いた自分の鞄にぶつかって体はバランスを崩した。


「ぐぬへぇ!?」


 顔面から床へと崩れ落ちてしまっ、痛い!?


「ぐおおおおぉ鼻がああああぁ……!」


 痛い痛い痛いこれ痛い! 鼻折れたかも。バキって音が内側から聞こえた!?

 っ、痛がっている暇ないだろ。追いかけるんだよ!


「久奈……!」

「ちょ、久土、落ち着きなって」

「落ち着いていられるか!」


 俺の腕を掴もうとする金城の手を振りほどく。直後、鼻血がポタポタと。赤い点々が大きな円になる。

 痛む鼻を押さえて、だが痛みは引かない。

 そしてそれ以上に……胸が張り裂けそうなくらい痛かった。


「ほらこっち向きなって……うん、大した怪我じゃないと思う」

「金城、そこをどけ」

「だーから落ち着いて。まずは鼻血を止めないと」

「どけよ!」

「く、久土」


 ふざけている場合じゃない。本気で追わなくちゃいけない。だって、だって……っ!


「久奈が泣いていた、っ、っ!!」


 泣かせない。笑わせる以上に俺がしなくちゃいけないこと。

 あいつに悲しい顔はさせたくなかった。あいつの悲しそうな涙はもう見たくなかった。


「ふええぇ!? く、工藤君鼻血が」

「いちいち泣くな!」

「ひぐっ!?」

「大体、テメーのせいで……っ、ごめん」


 火藤さんは悪くないだろ。八つ当たりしてんじゃねぇよ俺。

 八つ当たりも自省も今することじゃない。何度も言わせんな馬鹿直弥。


「動いちゃ駄目だって」

「どけ」


 鼻を押さえて金城を押さえのけて足を動か……っ、眩暈が、


「あ」


 足をくじいてよろける。なんとか踏ん張ろうと力込めるも俺は、俺の首は、テーブルの角へ衝突した。


「ぐにちゅ!?」

「無茶するからだってば。最近の久土は頭を打ちつけたり吐血したりして体力が底尽きて、って久土?」


 だ、駄目だ俺、待て。今は駄、あああ、あ……!?


「あへあへ」

「……久土?」

「いほぼいえあん~が~」

「……燈ちゃん、マニュアル本貸して」

「は、はい」

「確か奇声モードへの手順は……あ、ああ、そゆことね」

「うっひえびにをにゅをにゅ」


 視界が歪んで喉が絞まって声が詰まり、目の奥がぎゅうぎゅうと圧迫されるように痛みが走って……口も体も上手く動かない。

 ぐ、ぐぅ……動け、動いてくれ、ちく、しょー……! 俺は、久奈を追……


「まー、丁度良いか。安静にしなくちゃいけないし。ね、鼻血が止まるまで休ん……久土?」

「ぐ、あ、あ……!」

「奇声あげてくるせに……なんて悲しそうな顔してんのよ……」

「あへはええ」

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