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第95話 赤泡の久土

 目が覚めたら俺は自分の机に突っ伏していた。あれ? 確か廊下で長宗我部と会ったような……うーん記憶が曖昧だ。なぜか頭に包帯が巻かれているし。

 まあ気にしないでおこう。昼休みだ。……こ、声をかけよう。何か話さないと。


「久奈、一緒に昼飯食べない……?」


 必死に笑顔を向けて誘うも久奈は完全に俺を無視。無言で立ち上がるとお弁当箱を持って金城の席へと向かっていく。ぐはっ。


「舞花ちゃん、食べよ」

「いいよー。……久土はいいの?」

「嫌」


 ぐはっ!?


「やあやあ直弥きゅん、僕と食べないか」

「来世まで黙れ」

「来世まで!?」


 結局、麺太と二人でランチ開始。


「保健室に運んだはずの直弥が学年一の怪力娘に運ばれてきた時は何事かと思ったよ」

「だから黙れようるせぇな俺は今久奈の様子を伺うので忙しいんだボケ」

「あらやだ親友の口が悪い」


 麺太が幸せそうに焼きそばパンの焼きそばだけを咀嚼する傍ら、俺はチラチラと久奈の様子を伺う。


「ツーン」


 目が合うと露骨にそっぽ向かれた。がはっ!?


「さっきから直弥は吐血してどうしたのさ。血を吐きたい年頃?」


 そんな年頃があってたまるか。口から血を吐くってリアル世界だとヤバイからな。

 ……そう、今の俺はヤバイ状況に陥っていた。

 久奈が口をきいてくれないどころか嫌そうに顔を背ける、俺を嫌っている。なんてことだ。口から血が溢れて止まらない。


「あああぁ久奈……がふっ、がふっ」

「いやそんな咳するノリで吐血しないでよ」


 久奈に嫌われたきらわれたキラワレタ……あいつに嫌われるだなんて、そんな、あがががが。


「久奈……ああ……っ」

「死にそうな顔しないでよ」

「いっそ死にたい……」

「死んじゃ駄目だって。柊木さんに会えなくなるでしょ」

「幽霊として常に見守るに決まってんだろ」

「即答。健気だのぉ。あ、幽霊って存在するのかな?」

「知らん。黙って食べろ」

「僕は幽霊の気配を感じたら呪われる前にズボンを下ろすようにしているんだ」

「それ効果あるのかよ」

「うん、見られていると思うと興奮する」

「そっちの効果じゃねーよ」


 ただの変態だろ。幽霊もドン引きだ。

 いいから黙ってくれ。お前みたいにヘラヘラ出来る状態じゃないんだ。


「恥部を露出すれば幽霊も怖がるはずさ。つまり襲われない。僕って頭良い~!」


 鼻高々に焼きそばパンの焼きそばを頬張る麺太の話はもう耳に入ってこない。思うのは、あの子のことだけ。

 辛い、辛すぎる。幼馴染をやってきて十年以上の間、些細な喧嘩はあったにせよ久奈から嫌いと言われたのは初めてだ。


「でも可愛い幽霊なら会いたいよね。幽奈さんみたいな美少女が麺の湯気と共に出てきたらいいのにっ」


 昨日言われた時、視界が全て黒に染まった。暗くて黒い深淵でもがき苦しみ、どれだけ絶望に打ちひしがれても闇の中から抜け出すことは出来ない。


「美少女幽霊に対して僕は言うんだ。『この手打ち麺を食べてごらん、美味しさのあまり昇天して成仏しちゃうよ☆』ってね!」


 ショックのあまり飯を食べることが出来ない。水を飲むことも息を吸うことも、生きることすら辛い。

 隣にはいつも久奈がいた。それが今は、いない。いないんだ……っ。


「その後僕は除霊の伝道師ならぬ麺道師として女子からモッテモテ。昼は飲食店で麺食い、夜は合コンで面食いの優雅な日々を過ごすのさっ」


 嘆こうとも現実は変わらない。いくら話しかけてもあいつの態度も変わらない。

俺は嫌われたんだ……。

 死にたい。死でこの絶望が消せるなら死んだ方が……ぎぎぎぎ。


「それでねー、って直弥聞いてる?」

「……を……せ」

「え?」

「俺を、殺せ……あへへへぇ」

「な、直弥?」


 ああ、駄目だよ俺えぇ、人生で一番辛いんだわあああえぉぼぐじのちょぁぉうぃ……!


「殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ俺はがぽぽぽ」

「直弥がまた泡吹いてる!?」

「がふっ」

「と思ったらまた吐血! 泡と血を同時に吐いて……だ、誰かAEDと除霊師呼んできてぇ!?」


 午後の授業も俺は保健室で過ごし、その後『赤泡の久土』というあだ名が追加されたらしい。











「……ねえ久奈ちゃん、久土と仲直りしなくていいの?」

「いい。なお君、嫌い」

「死にそうな顔でそんなこと言わないでよ……」

「…………なお君……」

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