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第94話 久土哀楽

「よーっす直弥! 昨日帰りに寄ったラーメン屋が美味しくてさ~!」


 嫌い。大嫌い。幼馴染をやってきて、そう言われたのは初めてだった。


「今キャンペーンで大盛り無料をやってるんだ。今日一緒に行こうよっ」


 嫌いだってさ。あはは、俺のことが大嫌いだって……は、はは……。


「しかも周年イベントでなんとあの覆面戦隊メンクイジャーがやっ……ん? 直弥?」

「いひ、いひひ……」

「怖いよ!? どうしたのさ!?」


 近くか遠くか、定かではないが麺太らしき声が聞こえる。朝からうるさい奴め。

 ……朝? 今は朝なのか? そもそもここは教室なのか?

 分からない、昨日から意識が曖昧だ。昨日、嫌いと言われてから記憶が……俺は、俺はあああああああああああばばば。


「ぶぼぼぼ」

「直弥が泡吹いてる!? だ、誰かぁAED持ってきてぇ!」











 目が覚めると知らない天井が広がっていた。ベタな展開だ。


「あ、起きた」


 俺はベッドで寝ていたらしい。白衣を着た養護教諭の先生が声をかける。どうやらここは保健室。


「泡吹いて動かないからここに運ばれたの。覚えてる?」

「イヤぜンゼン覚えテないデス」

「声がおかしいよ。ヘリウムガスでも吸った?」


 吸っていません。もし吸うならパピコが良いです。パピコパピコパピコパピコパピコパピコパピコパピコあへあへ。

 思考能力が回復してきた。昨日ぶりの思考、自分に起きた変調について考える。

 いや、考える必要もないか。事実が一つ、ただそれだけ。俺は久奈に、


「嫌わレちゃっタよふえぇん……」


 思い出すだけで目からも鼻からも透明の液体が溢れて止まらない。


「よく分からないけど君キモイね」

「元凶の一つにアンタが穴を開けたせいなんだぞぉ……!」

「マジ? だからといって謝罪は絶対にしないよ」


 意識が戻ったなら教室に帰りなさい、と養護教諭は背中を叩いて俺を追い出した。

 心のケアも養護教諭の仕事じゃないんですか。俺は過去最大級のハートブレイクしてんだぞ。

 ……教室か。口は半開き、足を引きずって廊下を進む。ふと見た窓ガラスに映る自分の顔に生気はなかった。


「真っ白な顔してらぁ。はは、死にたいなあ……」


 久奈に嫌われた。久奈を怒らせてしまった。いつも一緒に登校していたのに、今日待ち合わせのエレベーター前にあいつの姿はなかった。たまらなく、辛かった……。悲しい、悲しすぎる。

 誰か俺を殺してくれ。久奈に嫌われた俺に生きる意味はない。


「お、久土だ」

「長宗我部……」

「スケキヨみたいな顔色しているけど大丈夫かよ」

「いや無理、断言する無理だ。なんか鈍器持ってきて。かち割りたいんだ、この頭蓋骨を」

「越えたいんだ、この山をみたいに自殺宣言するなよ」


 長宗我部はひき気味ながらも優しく俺の肩をポンポンと叩いた。こいつなりに励まそうとしているんだね。

 ……故に、怒りが沸き立つ。頭の回線が容易く千切れた。

 ふざけるな。お前に、俺の何が分かる。彼女がいるお前にぃ! 俺のぉ! 何が分かるんだってばよぉ!


「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」

「ど、どうしたんだよ」

「あへあはえざえごがぢぢゅうおうぷごえいにんぴぴぃぃ!」

「久土がおかしくなった……」


 彼女持ちのリア充に俺の気持ちが分かってたまるか。ぶひゅ、ぎえぐえお、えいげおごあんげおげいえごげおじゃおっほおおおお!


「今すぐ鈍器を持ってこい。さもなくば俺が俺を壁に叩きつける」

「どんな脅し文句だ。鈍器の有無に関わらず久土の頭は粉砕されるのかよ」

「あぁん? なんですかなその冷静なツッコミ。どうせやらないと思っているんだろうテメェあはぁん? オゥイェイ? 見くびるな、今の俺は」


 生徒で賑わう廊下。俺は壁に両手をつく。大きくかぶりを振るって一気に壁へと


「お、おい久土やめ」

「こんなことだって出来るんだぞぉ!」

「久土おおぉ!?」


 ドゴォン! 長宗我部の叫び、周りの悲鳴は衝撃音に掻き消される。何度も何度も頭の内側に響き渡って途切れることない。

 うむ、壁と頭蓋の衝突音はこうも重たく、そして痛いんだな。あぁでも頭突きをしている間は思考が消えてなんだか気持ち良いや。はは、あっはは。


「ははははっ、こりゃいいぜ! どうした俺の頭蓋、割れるにゃまだ早いぜ~?」

「やめろ久土! 死んでしまうぞ!?」

「刺激が足りねーなぁ、ほらほらコンクリートさんもっとぶつかり合おうぜ。どちらが先に壊れるか勝負だ」

「いやお前は既に精神が壊れてるから!」


 ドォン、ドォン、さらにドオォン。あっはははぁ! さすが壁は硬いねぇ! 我が国の建造技術の高さは天晴っ。

 んん? 壁さん赤く染まっているじゃんか。なになに照れてるの~?


「嗚呼、気持ち良い。死が近づいてくる感覚がたまらねぇ。ぎゃはは!」

「嗚呼……出血が止まらない。や、やめてくれ久土、友達が狂い弱っていく姿は見たくない」


 壁からうつったのか俺の視界も真っ赤に染まっていく。激しい痛みが額の表面に絶え間なく走り続ける。

 だが尚も意識は透き通るように真っ白。まるで空に浮かんでいるかのようだ。さっきまで哀しかったのに今は楽しい。楽しいいいいい!


「頭突き最高ーっ! さあリズムに乗ってドォンドォン! うっひひぃ」

「このままだと久土が死んでしまう……勅使河原、頼む」

「ぎぬへ!?」


 な、なんだ? 後ろから首を絞めら、あぐっ、が、が、息がぁ!


「何するんだ勅使河原しゃ、ん」

「勅使河原、そのまま久土を絞め落として」

「あにゅぐ!?」


 さっきまでクリーンだった意識が一気に暗闇へと落ちた。あがが、これガチの絞め方……がはっ。


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