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第92話 不安で不満、不穏な空気

 廊下を走る。全速力で駆け抜ける。


「ぶばぁ!? 無事、帰還……!」


 二年二組へ飛び込んだところでやっと安堵の息をつけた。ああ、安堵。ザ・安堵だ。

 隠れて、緊張し、バレて全力疾走、とさながらボス連戦のような出来事の数々に心臓が破裂しそうだったよ。人生で一番のピンチだった気がする。


「直弥……?」


 カップ麺を持った麺太がこちらへと寄ってくる。


「おお麺太。今はお前の麺臭でも心が安らぐ」

「な、何しているの」

「ちょっとマズイことがあってだな」

「マズイって、今の直弥の状態が?」

「は? 何を言」


 聞き返す前に気づいた。今の自分の状態を。

 保健室から教室まで、俺は火藤さんを抱えたまま走ってきた。現在進行形で火藤さんを抱きかかえた状態、ベッドの下に潜っていたから制服はところどころ汚れており、いかにも何かあった後みたいな……。


「直弥!? お昼休みに何をやってきたんだ!」

「ち、違う! これは違う!」

「何が違うんだどう見ても事後じゃないか」


 麺太がぎゃあぎゃあ騒ぎ、クラスメイト達もこちらを見て仰天だと言わんばかりに声あげる。

 あかん、これあかーん! 疑われて当然の要素が目白押し。なんとかせねば!


「火藤さん、弁明して」

「あうぅ」

「あうぅ、じゃなくて! ちょ、というか離れて。俺もう力入れてないよ!?」


 それどころか手を離している。だから離れないのは火藤さんが俺にしがみついているせいだ。なぜしがみつく、あなたはワンダで俺は巨像!?


「ちょっと直弥さーん、これは裁判沙汰でっせ」

「ご、誤解だ。俺とお前の仲なら分かるはずだ、俺はそんなことしない!」

「じゃあ聞くけど今までどこにいたのさ」

「……保健室」

「はいアウト、完全にアウトぉ」

「待って待ってホント違うって! 俺と火藤さんは体温計ヒートマッチをしていただけなの!」

「ちょっと何言っているか分かんないっすね」


 うっ、確かに。で、でも……でもぉ!


「ひうぅ、工藤君速くて怖かった……」

「それとなく誤解を生みそうな発言やめて!?」











 火藤さんを引き剥がした後、皆へ向けて声を大に弁明した。保健室で行われたことはあのカップルの為にも伏せて、とにかく俺と火藤さんは何もしていないと必死に伝えた。

 しかしクラスのみんなは渋い顔で「えー、嘘だぁ」と信じてくれなかったです。がくっ、誤解なんだってぇ……。


「新学期早々にはっちゃけておりますな」


 放課後、麺太が冷やかしてきた。ぐぐぐっ、しつこいぞ。


「……お前には真実を言ってもいいか。実はさ」


 耳を貸せと促せばこちらに近づく麺太にヒソヒソ声で事の顛末を伝えると目をパチクリさせた。


「マジかい。それは面白い」

「面白くねーよ。おかげで俺は金城に『究極完全変態グレート肉食系ゲロリ男子』のあだ名をつけられたんだぞ」

「蔑称もそこまでいくと豪華だね」


 まったくだ。肉食なのにゲロ吐いちゃうのかよ。胃が受けつけていないじゃん。

 それに、金城は怒っていた。不安にさせちゃ駄目でしょ!と言われて睨まれたよ。不安って何が? 誰が? 分からない。


「ドンマイ。噂も七十五日って言うから我慢しなよ」

「七十五日……俺は梅雨明けまで『究極完全変態グレート肉食系ゲロリ男子』なのか」

「噂が消えても『究極完全態グレートアホゲロ男』に戻るけどね」


 俺ちょー可哀想。名誉挽回の為にも本格的に世界を救う算段を考えないといけない。誰か大型トラックと女神を用意してー。能力は『スティールした武器の熟練度がMAXになる』がいいです。これ結構強いと思うby中二病。


「まっ、僕も出来る限りはフォローするよ」

「やけに優しいな。お前のことだからリア充死すべしとか言うと思ったのに」

「僕は直弥程の重度のロリコンではないからね。委員長にはもう少し成長してもらわないと僕の琴線には触れない」

「酷い理由だな。つか俺もロリコンじゃない!」


 じゃあねー、と麺太は鞄を持つ。

 去り際、俺を見て神妙な顔つきになった。


「一応柊木さんにも本当のこと言っておきなよ」

「無理だっての。久奈には刺激が強くて言えない」

「不満や不安があるだろうし言っておいた方が良い気がするけどなー……んー、まあ、直弥達なら大丈夫か」

「大丈夫って何が?」

「何って……おっと、僕は真面目な話はしないキャラなんで言わないっ」


 なんだそれ。確かに麺太が真面目に「高度経済が~~」とか喋ったら違和感バリバリだな。


「とにかく気にしすぎないで。ファイト!」


 神妙で微妙な表情はいつものアホ面に戻り、麺太は俺を鼓舞して部活へと向かった。お前も部活頑張れ。何部か全く知らないし一切興味ないけど。

 じゃ、俺は帰ろうかな。鞄を持って席を立つと久奈の元へ。


「帰ろうぜ」

「……」

「ん?」


 久奈は口を開かず首を動かさず、席に座って俺を見つめる。じぃ、と。

 いつもの見慣れた無表情なのは確かだ。ただし、いつもと違う雰囲気を感じる。

 ……えっと、久奈さん?


「帰らないのか」

「……」

「久奈しゃん?」

「……」

「……ぬ!?」


 どうした、一体これはどういうことだ。話しかけても返事をしてくれない。反応があるとしたら、俺を見つめる眼差しがキツくなったことくらい。


「あー、金城と遊ぶ予定があるなら全然構わないぞ」

「……」

「あのぉ、何かお返事いただけないと困る」

「……」

「もしもぉし!? 聞こえていますか!?」

「……」


 あぐぐぐぐ、これは無限無視パターンだ。○ボタンを押してもメッセージウィンドウが表示されない。

 とはいっても俺には話しかける以外に解決策が思い至らない。とりあえず笑顔を振りまいて何度も問いかけよう。


「なあ帰ろうぜ~い。ダーツやっていくか?」

「……」

「カラオケでもいいぞ。久奈はどこに行きたい?」

「……」

「た、頼むから何か言ってくれよ」

「ツーン」


 やっと帰ってきた言葉は『ツーン』の一言のみ。いやいやツーンて……えぇ……?

 かなりご立腹のご様子。久奈の機嫌が良くない……俺、何かやらかした? 身に覚えがない。


「久奈」

「……」

「じ、じゃあ、俺先に帰るね」


 意地でも動かないって感じだし反応は悪いしこうなっては打つ手なし。心折れました。久奈に別れを告げて教室を出る。

 あーテンションが下がる。久奈だけが俺の癒しなのに……がくっ。


「辛いおー……」

「……」

「昨日に続いて今日もしんどかった」

「……」

「帰ったら闇の神殿に癒してもら……どひゃあ!?」


 隣から足音が聞こえるなぁと思ったら久奈がいた。

 ついて来たのかよっ。来るなら来るって言わないとビックリしちゃうでしょうが! 青い鬼のゲームくらいビックリした。


「あ、やっぱ一緒に帰ってくれる?」

「ツーン」

「うわぁこれエンドレス……」


 結局は久奈と一緒に帰ることに。けれど久奈は消えた表情に不機嫌を混ぜて顔を合わせてくれず、どんなに俺が話しかけてもまともな返事は返ってこなかった。

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