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第91話 上はイチャイチャ、下はドキドキ

「ほら先生いないじゃん」

「えー、でもー」


 男子と女子の声が聞こえる。見える足は四本。


「ど、どうやら男子と女子の二人のようです」


 焦りが滲む口調で呟く火藤さんは俺の前、胸元に収まっている。

 非常にヤバいことになった。俺と火藤さんはベッドの下に隠れて息を潜めている……なんだこれは!? 完全に漫画的展開!


「な、なあ今からでも遅くないから出ようぜ」

「駄目です。あの二人は私の失態を掴みに来たに違いありません」

「体温計ヒートマッチの証拠を掴んでどうするんだよ」


 絶対に違うから。そんなことより今はとんでもない状況になっているのを理解してくれ! この状態を見られたらそれこそ先生に報告されてしまう。だから早めに出た方が……いやもう遅い。ど、どうしよう。


「やっぱりやめといた方がいいって」

「大丈夫だってバレないからさ」


 男女二人は何やら話している。養護教諭の先生に用があって来たんじゃないのか?

 息を潜めたまま様子を伺う。それは火藤さんも同じで、俺の顎に火藤さんの髪の毛が当たる。

 うぐ、女子特有の香りがあぁ。なぜ女子は近づくと良い匂いがするのでしょうか教えてやふー知恵袋。


「ほらスリルがあっていいじゃん」

「でも……ちょ、や、やぁん、駄目だってぇ~」


 楽しげな声。この角度だと二人の足しか見えない。

 僅かな情報しかないが、なんとなく二人の距離が近いことから察するにもしやこの二人は……と、一つの嫌な予感がする。


「頼むからそれだけは勘弁してくれよ……」

「どうしたんですか工藤君? あ、分かりました、この二人も体温計ヒートマッチをしに来たんですねっ」

「絶対に違う。あと声もうちょい落として」


 火藤さんを咎めて小声でヒソヒソと相談しながらベッド下で観察し続ける。


「誰も来ないって」

「もう駄目だってぇ~、あんっ」


 パサッ。足元しか見えなかった狭い視界にスカートが落ちてきた。そう、スカートが。

 …………どうして嫌な予感だけは的中しちゃうんだろう。


「今日も下着可愛いじゃん」

「も、もうエッチなんだから」

「ほら、ここ座って」

「うん……」


 足とスカートがこちらへと移動してくる。ギィ、とベッドの軋む音。今、俺と火藤さんの真上には……うわあああぁぁ!?

 心臓はバクバク、激しい鼓動が骨や内臓に響いて汗が止まらない。ヤベェよヤベェよ、今時の高校生でも保健室でイチャイチャするんだね!? 先に脱いでから移動するんだね!?


「こっち向いて」

「うん……んっ」


 なんか上から艶めかしい音と嬌声が聞こえるんですけどぉ! アハンな感じ? これアハンな感じ!? 最近の若いモンはお盛んでんがな~、ってか!?


「か、火藤さんヤバイってこれ」

「……」

「火藤さん?」


 胸元がすげー熱い。


「あううぅぅぅ……!」


 火藤さんの体から発せられるとんでもない熱気。カイロのように熱くて携帯のようにプルプルと震える。

 う、うん、気持ちは分かるぞ。俺らの真上で、学内では不健全な行為が現在進行形で行われている。だけど今は我慢して静かにし


『ピピピッ、ピピピッ』


 ……嘘だろおい。さすがに予想外だ。今の音は俺の胸元にいる、火藤さんの胸元から聞こえた。規則正しい軽快、それは体温計が鳴った音。

 すー、はー……よーし、心の中でシャウトしちゃおっか。

 せーの、何してくれとんのじゃ己はあああああああああぁぁぁ!?


「っ! な、何?」

「今なんか音がしなかったか?」


 ベッドの上の男女は騒然とし、ベッドの下の俺は心臓も止まりそうなくらい硬直する。鼓動が止まりかけて汗が引き、一気に心臓がバクバク汗がドバドバ。


「ひゃうぅ、んぐ!?」

「お馬鹿っ、声出すな」


 声まで出したら完全にバレる。驚きのあまり開いた火藤さんの口を慌てて手で塞ぐ。た、頼む、静かにしてええぇ。


「だ、誰かいるんじゃないの?」

「んなわけないじゃん。気のせいだって」

「そうかなぁ……うーん、うんっ、そうだね」

「さ、続きやろう」


 あぶねー。気のせいだと処理してもらえた。

 まさかベッドの下に人がいると思わなかった男女は再びアハンな声を出す。ベッドがギシギシ揺れている。

 奇跡的にバレなかったのは幸いだったとはいえ、ここからどうすればいいんだ。上の二人が保健室を出るまでここから出られないのでは?


「むぐっ、工藤君離してぇ」

「あ、ごめん」

「はふぅ……ど、どうしましょう?」

「何も出来ないだろ。このまま静止を貫く」


 養護教諭の帰りを待ち、俺らは息を殺し続けるんだ。息を殺しまくれ、戦国無双みたくバッサバサと殺すんだ! 息と気配を!


「んっ、はぁ」

「ぁ、んん、っ、はあ、はぁ……」


 瑞々しくてやらしい音が聞こえる。なんか、こう、まうすとぅーまうす的な。

 これはキツイ。……悶々とする。

 バレたらいけないという状況且つ火藤さんと密着した状態。緊張の糸が極限にまで引っ張られてドキドキは加速し、それは意識しないようとすればするほど余計に意識してしまって……


「く、工藤君」

「ちょ、なんでこっち向くんだよ」


 小声で制すも火藤さんは寝返りをうって俺の方へ顔を向けた。ドキドキが、さらに加速する。

 火藤さんが俺の制服をぎゅっと掴み、見上げてきた。大きな瞳、暗い中でも潤んで淡く光る瞳。距離の近さと上の声と相まって、火藤さんの唇が艶っぽく見える。顔はもちろん首元まで赤く、その下にはボタンが開いて露わになった緩々の胸元。うっすら谷間が見えたと視認して脳は湯気を出す。

 あかん、これあかんやつやで工藤! 助けて服部っ、俺工藤じゃなくて久土だけど助けて西の名探偵!


「工藤君、すっごいドキドキしてる……」

「あ、当たり前だろ。バレないか戦々恐々だよ」


 あとあなたの胸元にドキドキしているんだ、ってげふんげふん! アホか、これじゃあベッド上の奴らと同じだ!

 つ、つーか近っ。なんで火藤さんは俺の服を掴むんだ、なんで近づいてくるんだ。

 見つからないよう隠れる今の状態自体にドキドキしているのに、こんな距離が近かったら余計に鼓動の勢いが増して、あぁ俺まで顔が赤く……っ


「あうぅ……も、もっと近づいていいですか……?」


 待って、これ以上は『げへへ、お前さんもやっちまえよ』悪魔出てくるんじゃねぇ! 俺の思考に割り込んでくるなあああぁ! ホントお前はいつもいつも嫌なタイミングで出てやがってこの野郎!


「さて……おっ、いいところにあるじゃん」


 と、ベッドが揺れた。男の声と共に一人分の足が視界に映る。足は机の方へと向かっていく。


「さすが保健室。準備がいいね」


 机……さすが保健室……今から、彼らがするであろう行為……え?

 そういや、さっき先生が「保健室で不純異性交遊しようとするリア充に制裁を下すトラップよ」と言っていた……っ!?


「へへっ、これがあれば安心」

「いやそれ安心しちゃ駄目なやつ!」


 叫ぶ。たまらず叫んでしまっ、あ……やっちまった。


「っ!? だ、誰だ!?」

「きゃあ!? し、下にいるの?」


 ああぁあバレてしまった!? ツッコミ魂が出てしまったああぁ!


「く、工藤君何をして」

「逃げるぞぉ!」

「ひゃう!?」


 バレた。じゃあ逃げるしかない!

 火藤さんを抱きかかえると高スピードでズルズルと這いずってベッド下から出る。直後、男子生徒と女子生徒の悲鳴のハーモニー。


「「ぎゃあああ!?」」

「うんそうだねビックリだよね驚きだよねトラウマになったらすんませんでしたぁあぁぁ後はごゆっくりーぃ!」


 恐らくは淫らな姿になっているであろう女子生徒の方は見ずに、いやもう何も見ずに俺は全速力で逃げる。保健室を飛び出た後も火藤さんを抱えたままひたすら走った。

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