第9話 ハロウィンパーティー
ハロウィーン。ルーツは秋の収穫を祝う為のものだったらしいけど詳しくは知らない。俺アホなんで! どうでもいいんだよ、とりあえず現代人はハロウィンの日には仮装して盛り上がるって認識でオッケーうふふっ。ローラきゃわいい。
ハロウィン、と言いましたが本番は明日です。明日は月曜日なのでみんなが集まりやすい日曜にパーティーをしようってことになった。
「よっす、久奈」
「ん、なお君」
久奈とエレベーター前で待ち合わせ。二人並んで向かう先は集合場所であり会場のカラオケ店。
道中、駅の構内や電車の中では仮装した人が何人かいた。本番は明日だけどフライングでする人はいるものさ。俺らのクラスもそうだし。
「なお君は仮装しないの?」
電車に乗っていると横に立つ久奈が服の裾をくいと摘まんできた。可愛い仕草をしよって、俺の頬が緩んじゃうぞコノヤロー。
「何もしないよ」
「じゃあその荷物は何?」
久奈は服の裾を掴んだまま、もう片方の手で俺が背負ったリュックを指差す。
うーん、そりゃ気づくよね。でもバラすわけにはいかない。だってこの中にはとっておきの秘策が入っているのだから。
「なんでもないさー」
俺は平常心を装ってニコリと微笑む。久奈は怪しんでいるが深くは追及してこなかった。ぷい、と俺から顔を背けてドアの方を見つめている。ふー、危ない危ない。中を見られたら台無しだからな。
……今日こそ、その無表情を崩してやるぜ。メラメラと燃える闘争心を胸に秘め! 俺は久奈の肩に手を置いた! だってこの子吊り革も手すりも掴んでないから危ないもん。
「ん、ありがと」
「どーいたいまして」
ガタンゴトンと揺れる車内。久奈が小さな声でお礼を言って俺は軽く返す。降りる駅が見えてきた。
一年二組のハロウィンパーティーの会場はカラオケ店。フリータイムで一人四百円のドリンクバー付き。マジ安い~。学生最高、ティーンズ最強っ。
しかも豪華な装いの広いパーティールームだ。四人席の黒くて四角のテーブルがいくつもあってモニターの前にはちょっとした段差のステージ。
「じゃあ二組のハロパ始めるよ~、かんぱーい!」
ステージ上では金城を中心に女子数名がコップを掲げて大いに騒ぎ、乾杯の音頭と共に室内も一気に盛り上がる。楽しそうかっこ笑かっことじ。
金城はミニスカポリスの仮装をしていた。帽子も服も全て黒を基調としており、半袖のトップスは胸元がやや開放的で角度によっては谷間が見えちゃったりする。エロイ。スラッと細身で華奢な体つきで、タイトスカートとニーハイソックスからは溢れんばかりの色気。似合ってんなぁおい。
「逮捕しちゃうぞ~!」
とか言っちゃってますよ金城さん。ノリノリじゃないすか。
普段よりテンション上がっている金城の声に負けず劣らずは、マイクを通さずとも室内に響き渡る男子達の雄叫び。金城の衣装に歓喜しているんだね。気持ちは分かる。
「ウホホおぉ!」
麺太に至っては興奮のあまりゴリラのような鳴き声を叫んでゴリラのようなドラミングをしている。あれはもう向日葵麺太ではない、向日葵ゴリラ麺太だ。ミドルネームに組み込んじゃったよ。
ちなみに麺太は金城に土下座してパーティー参加にこぎつけた。あの時の地べたに頭つけて泣きつく姿は目を覆いたくなったと同時に笑いが止まりませんでした。
「ほら久土も盛り上がろうー」
「はいはい」
歌い終わってステージから降りた金城が俺の座るテーブルへと来た。そしてコップをグイグイと口元に押しつけてきやがる。
「飲んでる~? もっと飲もうよ~」
「いやこれソフトドリンクだから」
「久土のちょっといいとこ見てみたい! はーいイッキイッキイッキ!」
「コールかけんな! ノンアル一気してどうする、それはただのドリンクバーではしゃぐ子供じゃねぇか!」
ツッコミ入れるも金城の耳には届かず俺の口にはジュースが注ぎ込まれる。ぶぼばぁ!?
しかもこれオレンジジュースとホットウーロンのミックスだ! ゲロ不味い、おばあちゃんがくれる謎の飴より不味い! おばあちゃんあの飴どこで購入しているの?
「大丈夫か直弥、これ飲んで口直ししな」
「さ、サンキュー麺太」
麺太が水筒を差し出してくれた。……ん、水筒?
「今日は煮干しや昆布の素材を活かした醤油スープだ。麺もいるか?」
「せめて麺と絡めて提供しろやスープ単体で飲ませるんじゃねぇげぼぼぼ!?」
ぎゃあ朝昼ゲロ男がまた吐いた!? 女子達の悲鳴がマイクを通さずともカラオケルームに響き渡った。