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第89話 アホの子

 二限目は英語。教師が指定したページを二人一組になって訳す課題だ。何組かは発表しなくてはいけなく、恥をかかない為に英語が出来る奴は頑張って和訳し、不得意な生徒は当てられないよう祈りを捧げる。

 あぁ、嫌だ嫌だ。ただでさえ英語は苦手なのに。ちなみに数学も苦手です。ちなみに歴史も苦手。つまり俺はバァカってこと。


「なあ久奈、一緒に」

「残念でしたーっ、久奈ちゃんはあたしが予約済みなのだ」


 久奈の肩に頭を乗せてむふふ~♪とご満悦な金城。仲が良いですね。うらやま。


「直弥~、一緒にやろうってばよ」


 参ったな。久奈か金城なら安泰だと目星つけていたのに。


「直弥きゅ~ん」


 こういった二人一組で課題をする際、アホの俺にとって相手選びはとても重要なものとなる。


「直弥? ねえ直弥、聞こえてる?」


 アホの俺がアホと組んだら無理ゲーになるからだ。良きパートナーを見つけなくては。


「あれれ!? 僕の声が届かないの!?」


 よって麺太は却下。聞こえないフリが通じないのでシッシッと手で追い払う。お前と組んだら単語を調べるだけで授業が終わってしまうわ。

 さて、金城も久奈も無理となったら他に誰がいる? 新しいクラスになって親しい奴はいない。というか去年から俺に友達いたか? いなかったね、ぐすん……。


「工藤君」

「久土ね」


 反射的に訂正をして、あぁそうだと思い至る。

 昨日知り合ったばかりのニュー友達がいたじゃないか。え、友達と呼ぶには些か早い? ばっか、一緒に警察の厄介になったらそれはもう友達。フレンズだ。国家権力に屈するフレンズだね。流行は取り入れていくスタイル。


「工藤君、一緒にやりましょう」


 火藤さんは教科書を持っており、どうやら俺に声をかけに来たらしい。バッチグーなタイミング。バッチグーって完全なる死語だよな。完全に死んでいるよ白骨化しちゃってるよ。


「いいぜ」


 快く了承すると火藤さんが胸を張った。小学生と言われたらそうだねと違和感なく頷いてしまう程に背が低くて幼げさが存分に残る童顔のくせして態度は一丁前に大人ぶっていらっしゃる。


「クラスの問題児は私が監視しなくちゃいけませんから」

「そりゃどーも」

「えっへん」


 自信満々で威風堂々に凛然と鼻を鳴らしちゃって。真面目でしっかり者のイメージがあると同時に滲み出るあどけなさがギャップ萌えを発生させる。

 ま、容姿と雰囲気のミスマッチにいちゃもんつける気は毛頭ない。課題やりましょ。互いに教科書とノートを開いていざ開始。


「工藤君の頭の悪さは去年から耳にしています。二組のトップアホゥーだって」

「トップバリューみたいに言うな」


 それに俺はトップアホじゃない。トップは麺太だよ。俺も大差ないけど。


「まったく、素行も悪くて頭も悪いだなんて本当に問題児ですね。同じ工藤の新一君は探偵業もやって賢いのに」

「だから俺は工藤じゃなくて久土だっつーに」

「無駄口は叩かないでください」

「あなた先攻で始まった無駄話ですけど!?」


 いいから早く始めようぜ。教師に当てられたら「あ、あぁあの、ジョンが病院で、えっと」みたいな拙い発表で辱めを受けてしまう。

 確かに俺はアホだ。だから火藤さんのことを頼りにしてオリマー。学級委員長で真面目な火藤さんだ、恐らく頭脳は明晰なはず。


「では工藤君、まず最初に」

「おう」

「あ、あ、あず、アズハメェド? ってどういう意味なんでしょう」


 教科書を見つめて眉間にシワ寄せる火藤さん。ぐぬぅ、と切羽詰まった声を漏らしている。

 ……ん? 雲行きが怪しいぞ?


「ちょっと待ってな、今調べる……えーと、be ashamed to doで『恥ずかしくて~できない』って意味らしい」

「なるほど。だからこの文は、えっと……ぐぬぅ」

「……ちなみに発音はアシェイムドだと思う」

「っ、わ、分かっています! 今のは工藤君を試したんですっ」


 火藤さんは顔を赤くして机を叩く。今のあなたashamedだよ。

 え、やだ、待って嫌な予感がビンビンしてきた。もしや火藤さんって、アホの子?

 ……はは、いやいやぁ、ありえないっしょ。俺をトップアホゥーと言うからにはそれ相応の学力を有していないとおかしい。何を不安になっているんだね俺は、あっははは~。


「工藤君、be動詞って」

「待って、絶望的な質問はやめて!?」


 うおおぉいお前えぇぇ! お前もアホなんかぁい!

 その感じで? あんなに偉そうに語っていたくせに!? be動詞も分からない馬鹿だったのかよ!


「ち、違うもん。be動詞の発音はビィ~だよね、って聞きたかったのっ」

「何も違わねーよ俺の不安通りだよ!」


 昨日の段階で疑惑はあったが今ので確定だ。見事にポンコツの条件を満たしている。火藤さん=ポンコツの等式が証明されてしもたで!?


「去年の学年末考査の順位教えて」

「……そこそこ。中の上くらいです」

「……本当か?」

「ほ、本当です!」

「俺は百七十五位な」

「勝った! 私は百七十三位だもんっ。……あっ」

「はいすぐにボロ出すのもポンコツの証! 何が中の上だよ、俺ら揃って下の下だわ!」


 決まりです。火藤さんも俺と同類だ。アホの子。

 なんということでしょう、あまりに期待外れでした。その外れっぷりにはコントロールGの投手でも仰天。


「あーあ、最弱のワンペアだよ……」

「う、うるさいです! 課題やりますよ!」

「一応やるけどさ。とりあえず俺らが第一にするべきことが決まった」

「な、なんですか」

「先生に当てられないことを祈る」


 アホ二人では課題を達成出来ず、俺と火藤さんは当てられないことを祈り続けた。アー麺。

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