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第88話 意味もなく痛めつけられる足先

 新緑芽吹き、春風麗らかに舞う。青く透けた空がどこまでも高くどこまでも広く、視界の全てを一色で染め上げてしまった。

 あの空を歩くことが叶うなら、それは素敵なことで、けれど歩くうちに歩き疲れ、それでも果てなき青空に埋もれた時になってようやく気づくのだ。空が澄んだ青さと深き闇を携えていると。無限に限りなく等しい有限が広がる天空で、見えない終わりを探して彷徨い続ける他ないのだ、と。


「だから歩くなら地上でいい。空は、やはり見上げるものなんだ」

「久土、遅刻だ。地上を十周走ってこい」


 おっす、俺の名前は久土直弥。二年二組において遅刻第一号を記録したよ。センチメンタリズムに小洒落たポエムを詠んでみたものの遅刻は許してもらえずグラウンドを走ることになってさあ大変☆


「いやマジで、ぜはっ、大変、ぜえ、ぜえ!?」


 体力テストに励む新一年生達が「あの人何やってんだ?」と見てくる。先輩らしく大人びた振る舞いをしたいのに生憎今の俺は汚らしい汗と息しか出せません。

 学年変わっても一年の頃と何も変わらねー。ホントさぁ、いい加減にしようよ。俺ってばグラウンド走ってゲロ吐いてばかり。マンネリだよ。もし俺が主人公としてアニメ化されたら同じシーンばかりで観る人が飽きてしまうでしょ!


「まあ、ぜえ、俺なんて、所詮は、ぜえ、ぜえ、どこにでもい、はぁ、る平々、はぁ、凡々な高校生なんですけ、うっぷ、どね……」

「あらら直弥、もっとハキハキ喋らなきゃ」

「お前も走っているんかい……」

「僕は遅刻第二号なんだって。さあ一緒に新鮮な朝の空気を楽しもう!」


 軽快に走る麺太は俺より先に十周を走り終えた。ああ、空が青いぜ……がくっ。











 教室に戻ると俺の机の前に一人の女子が立っていた。


「工藤君! どうして遅刻するんですか!」


 小さな体で凛とまっすぐ立ち、怒りを瞳に宿す火藤さん。クラスの学級委員長さんだ。


「魂の神殿の攻略で夜更かししちゃってさ」

「言い訳しないでください。規律を守れない人がいるとクラスの輪が乱れると昨日散々注意したじゃないですか!」


 火藤さんは怒る。そりゃもうガミガミと口うるさい。走り終えた直後の体力ゼロ状態で精神攻撃はキツイっす。


「悪かったって。明日からは遅刻しないよう頑張るから」

「明日やろうという心構えじゃ駄目なんです」

「えー、火藤さんがそれ言う? 昨日、交番の前でビビッて挙句の果てに泣」

「わーっ!? 言わないでくださいっ!」


 むぐっ、喋れない。火藤さんが狼狽えながらも腕をせいいっぱい伸ばして俺の口を塞いだのだ。背伸びして近づけてくる必死な形相。


「き、昨日の事はクラスのみんなには内緒にしてください」


 ボソボソと微かにしか聞こえない程に小さな声で嘆願してきた。紅潮した頬に赤みが増し、焦燥しているのが伝わってくる。

 恥ずかしいんだね。それに火藤さんは自身が学級委員長であることにプライドを持っている。みんなの前で号泣したことがバレたくないのだろう。


「あれは私と工藤君の、二人だけの秘密なの……」

「もがもが」

「何を言っているんですかちゃんと喋ってください!」

「ふぁふぁらてふぉどけふぉ!」


 だったら手をどけろ!と言いたかったです。

 出たな、このポンコツ委員長め。己の手がこちらの発言権を物理的に奪っていることを忘れて怒るだなんてアホの極みだ。

 おまけに今なんて手を上げているのが疲れてきたらしく、腕をプルプルさせて苦悶の表情を浮かべている。しんどいなら手を離せば済む道理だろうに。


「ひうぅ」

「火藤さんって馬鹿だよね」


 手を払い除けて口開く。思ったことを言い、すぐに小声で「昨日のことは内緒しておくよ」とも告げる。


「私は馬鹿じゃないです!」

「と言っている間も背伸びしているじゃん。もう背伸びする必要ねーでしょ」


 今度は足をプルプルさせている火藤さん。あなたはスライムですか。異世界でスライムだった件ですか?


「あ……っ、ち、違うもん。これは足先を意味もなく痛めつけているだけなんだからっ」

「意味もなく痛めつけられる足先が可哀想なんだが!?」

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