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第85話 学級委員長・火藤燈

 整った前髪と低い位置に二つ結んだ後ろ髪はたっぷりと豊かなボリュームで黒く艶がある。ツインテール? おさげ? たぶんそういったタイプの髪型。

 何より特徴的なのは久奈にも負けない大きな瞳。それは鋭く険しく、憤りを含んだ睨みを効かせる。


「工藤君、あなたはクラスの秩序を乱しています。学級委員長として許せません!」


 学級委員長と名乗る女子は仁王立ちで俺を見る。というか、見上げている。

 この子、すごくちっちゃい。小学生と言われたら容易に信じてしまう程に背が低くて顔も小さいのだ。けれど目は大きく、すげー睨んでくる。


「えっと委員長、さん? 別に俺は」

「火藤燈(かとうあかり)です。クラスメイト、ひいては学級委員長の名前を覚えていないとはどういうことですか!」


 いやあなたは俺の名前を間違えて覚えているけど!? 工藤じゃなくて久土だ。


「これから一年間同じ教室で勉学に励む仲間なんだから名前はちゃんと覚えてください。分かりましたか工藤君」

「『その台詞そっくりそのまま返すよ』って台詞が完璧に決まったね……。あの、火藤さん、俺の名前は久土だからね」

「知っています、工藤君でしょ」

「俺の滑舌が悪いのかな?」


 申し訳なしと軽く頭を下げるも火藤さんは刺々しく言い迫って俺を睨む。さっきから睨んでくるのはなぜ。防御力を下げたいの? ファイヤーさんなの?


「俺の名前は、く、ど。オッケ?」

「く、ど、う」

「せやかて工藤! なんでだよ!」

「工藤君うるさいです。私の話を聞いてください!」

「えぇー……」


 プンスカプンプン、と擬音が聞こえてきそうなくらい頬を膨らませて口を尖らせる火藤さん。どうやら俺は嫌われているらしい。うーむ。

 にしても本当小さいな。胸も小さい。あらやだ俺ってばサイテー。


「新しいクラスになったばかりなのに工藤君のように場を乱す人がいたらみんなが嫌な思いをするんです」


 火藤さんは憤りながらくどくどと説教を始めた。

 久土がくどくどと怒られる……ぷぷっ、このギャグ何度も言っていたら面白くなってきた。笠岡さんが傘を貸さん、みたいな。


「ちゃんと聞いているんですか!?」


 火藤さんはさらに語気を荒げる。大きな瞳を細めて不機嫌そうにじとー、と。口を尖らせてむむぅ、と。表情豊かだ。


「いいですか、私達はもう二年生です。来年の受験に向けて今のうちから良い環境を作るべきなのにそれを乱されたら困るんです」


 火藤さんの言い分は尤も。反論が出来ません。

 そのはずなのに、小さな子が偉そうに語っているのが笑えてくる。小学生が大人ぶっている、まさにそれ。


「……工藤君また私の話を聞いてないですね」

「あ、ごめん全然聞いてなかった」

「もうっ! なんでですかいい加減にしてください!」


 ほら今も両手をブンブンと振って小さな体で地団駄してプンスカプンプン状態。膨れた頬はリスみたいだ。拗ねた子供が暴れるように体を揺すり、結び髪が大きく跳ねている。

 そ、そんな怒らないでよ。おっしゃる通りではありますが一応こちらも弁明という名の反論くらいはさせてもらいます。


「俺はクラスの輪を乱しているつもりはないよ」

「教室で湯がいたうどんを食べたり体力測定で吐く人が輪を乱していないわけがないです!」


 すぐに論破された。ぐうの音も出ない。


「工藤君の噂は去年から耳にしていました。四六時中、暇さえあれば嘔吐しているって」

「暇さえあればモンストやってるみたいな言い方やめてっ。積極的にゲロストライクショット決めた覚えはない!」

「とにかく! 工藤君のヤバさは早めに対処すべきだと私は判断しました。分かったら今後奇天烈な行いはしないでください」


 目を眇めてズビシィ!と指差した後、机をバンと叩いて結んだ髪が跳ねた。大きな声で喋り続けたせいか肩で息をして頬は赤く染まっている。勢いがすごい。

 ……この子は学級委員長として不真面目な奴を叱っているだけ。言っていることは正論だし俺は素直に従い態度を改めるべきだ。


「わ、分かったよ善処する。でもさ、だったら麺太も注意してよ。つーかアイツの方がタチ悪いだろ」


 今日だって発端は主にあいつだ。あいつが麺を湯がいたり、持久走中にそば湯を飲ませてきたんだ。


「そうですけど……」


 すると今の今まで勢いあった火藤さんが俯き、両手の人差し指をツンツンとつつく。何やら歯切れが悪そう。

 ……あ、分かったかも。俺の勘がピーン、コナン君状態。

 愁い思い焦がれる表情。これってもしや、火藤さんは麺太のことが、


「あの人は本当に気持ち悪いから……っ」


 だよねー。あいつのことが好きとかそんなわけなかった。


「バレンタインデーの時すごく怖くて……お、思い出しただけでも、うぅ……」


 涙を浮かべちゃったよ。麺太が苦手なのがひしひしと伝わってくる。う、うん気持ちは分かるよ。


「あの人は無理です。だから弱そうでなよっちくて注意しやすそうな工藤君に言っているんです!」

「さりげに今めちゃくちゃディスったね!?」

「それに向日葵君って名前呼びづらいです。工藤君は工藤って言いやすいもん!」

「せやから工藤じゃなくて久土って言ってんでしょーが!」

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