第83話 昼休みガチクッキング
あざとぅーい女子にたかられた翌日、早速授業が始まる。
もうちょい休みが続いてもいいんじゃないですかね……。『続・春休み』や『春休みりぴーと』や『春休み FULLMETAL ALCHEMIST』的な感じでさ。
「今日はここまで。しっかり復習するように」
ノートに自作の錬成陣を書いて暇つぶし、ようやく授業が終わって待望の昼休みだ。教室内はワイワイガヤガヤ、ってそれでしか教室の賑わい度を表現できんのか俺ぇ!
新学年、新しいクラス。初めて話す人もいる中みんな楽しくランチタイムなう死語。俺もそれに倣って惣菜パンの封を開けるとそこへやって来たのは麺太。
「一緒に食べようっ」
「せっかくクラス替えしたんだから違う奴と食べようとは思わないのか」
「思わナッシング! 僕は直弥さえいればし・あ・わ・せ♪」
「野郎がウインクするな。鈍器で刺すぞ」
「鈍器で刺すの!?」
麺太と食べるのは今年度も変わらないらしい。ま、拒否してもどうせこいつはテコでも動かないだろう。はいはい一緒に食べましょ。
俺がパンをモシャモシャ咀嚼しながら頷くと麺太は嬉しそうに意気揚々と鞄からガスコンロと鍋を取り出した。
「……何してんの」
「今朝は寝坊しちゃって麺を湯がけなかったんだ」
寝坊して朝ご飯食べれなかったみたいなニュアンスでテヘペロと舌出す麺太は慣れた手つきでお湯を沸かす。
直後、教室が騒然となる。息を呑み椅子を引いて俺らから距離を空ける女子がいれば悲鳴をあげる女子もいる。
ああそっか、こいつの奇行を知らない奴もいるんだね。元一年二組の連中は見慣れた光景でも知らない人からしたら困惑すること必至。
「九州ではラーメンは固めなのにうどんは柔らかいらしいよ」
「待て、フラットにトークをするな。お前の異様な行為に新しいクラスメイト達がひいているぞ」
この一年間で麻痺していたが改めて考えると昼休みに麺を湯がく奴がいたら普通にビビるわな。
しかし麺太は気にも留めず沸騰したお湯に麺を投入してホッコリ笑顔。
「直弥も食べる?」
「当然のように俺の分の麺も用意しているのがこれまたキモイ! 勘弁してくれ、俺まで変な奴に思われる」
そこら中から「何あいつら」とか「あの二人ヤバイ」とか「あいつ知ってる、朝昼夕ゲロ男よ」と俺らの評価ゴリゴリ下げる小言が聞こえてくる。お前のせいだぞ。ゲロ男の件含めても全部お前のせいだからな!?
「そもそもガスコンロは禁止されただろ」
「学年変わったからリセットされるかなーと」
「ステージクリアしたら体力回復するみたいな理論やめろ!」
ああああ周りからキモイキモイ視線が注がれているって! キモイキモイ視線とは、キモイ奴を見る時の視線のこと。男子から見られるのは一向に構わないしつーか睨み返してやるけど女子からのキモイキモイ視線は結構ダメージがある。
「困った顔してどうしたのさ。直弥の為に海老天を揚げよう」
「あげようって、んだよ寝坊したのに天ぷらを作る時間はあったのか」
「? 今から揚げるんだよ」
そう言って麺太はフライパンと油を取り出す。
「さすがに教室で揚げ物はマズイだろ。ガチクッキングか!」
「はぁ!? 麺を茹でるのはガチクッキングじゃないと言いたいのか!」
「どこにキレてんだ。とにかく油は使うな。馬鹿! アホ! 油揚げ麺野郎!」
「へへ、油揚げ麺だなんて照れちゃう」
「褒めてねーよ! 浮かれんな!」
「浮かれるな、つまりフライしちゃいけない、つまり僕にノンフライ麺になれと。ふふっ」
「なんでドヤ顔ぉ!? 上手いこと言いましたよみたいな顔するな!」
とか叫んでいる俺もこいつと同レベル扱いだ。ぐああっ、これじゃあ去年と何一つ変わらない!?
誰か、誰かフォローを。俺はこの麺野郎と違ってある程度は良識ある人間だと訂正してください。
「うわぁ、久土達キモすぎ」
「金城フォローしてくれ!」
「きゃー、こっちに来ないでー、たーすけーてー」
「棒読み!」
金城が語尾を伸ばしまくって棒読みのくせして目ではキモイキモイ視線を送ってくる。おいっ、お前は俺の味方だろ。そこそこ仲が良いはずでは?
「みんなー、あいつらには近寄らない方がいいよ。なんか伝染るよ」
なんか伝染するの? なんかって何!?
畏怖していた級友達は納得したように俺と麺太から目を逸らす。ヤバイヤヴァイこうなったらあの子に頼むしかない。我が幼馴染、久奈。
「ひ、久奈。お前だけが……」
すがるように助けを求める。久奈は女子達と仲良くランチしていた。
「それでなお君が牛乳早飲み大会で無理しちゃって牛乳で溺れちゃったの」
「お前はお前で俺の黒歴史暴露するんかい!」
学年が変わり、新たなクラス。俺の評価は一気に最低値へと引きずり落とされた。学年が変わったからってゲロ男の最低野郎というレッテルはリセットされないだろってツッコミはなしで。




