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第79話 大きな傘の下で

 キャンプ場のテントエリアや敷地内での花火は禁止されているので海沿いへと移動。

 夜の海、真っ暗で何も見えないけど波打つ音がどこか神秘的。


「結構人いるなぁ」


 暗くてよく見えないが声の多さで大体分かる。

 呟いた矢先、カラフルな閃光が宙へと放たれた。一瞬だけ辺り一帯が照らされて海が見えました。わお綺麗。

 他の人達はロケットやパラシュート等のド派手な花火で盛り上がっているようで。ま、俺らは質素にベターに定番の花火を楽しもう。ロウソクに火を点け、その暖色ユラユラ揺れるオレンジの火に花火の先端を近づける。


「お、点いた」

「あっははは! 直弥君が花火やってる!」

「笑う要素が皆無なんですが!?」


 着火した花火が先端からシュワシュワと音を立てて鮮やかな火の粉を散らし、それを見て久奈ママが腹抱えて笑う。だからこの人ツボが浅すぎ。フィンガーボウルぐらい浅いぞ!


「なお君見て、線香花火」

「オープニングアクトが線香花火ってどうなの」


 久奈は久奈で一発目から線香花火をやっている。それ最後にするやつやで。なんで初っ端から?


「普通に俺みたいに普通の花火からしようよ」

「私はなお君みたいに平々凡々じゃないから」

「君はたまに俺をディスるよね」

「気のせい」

「気のせいじゃねぇよ」

「気のせい」

「うーん無限ループの香り」


 とか喋っているうちに俺が手に持つ花火は消えてしまった。

 花火ってすぐ消えるよねー。その儚さ、情緒あり趣深い輝きに人々は魅入られるのだ。あ、今のカッコイイ。口に出して言おう。


「儚さと情緒ある趣深さに」

「あひひひひ!」

「すみません、なぜ笑うんですか?」


 俺が喋っただけで笑う久奈ママ。どう対処すればいいんだよ俺にはもう分かりません!

 久奈もこれくらい笑ってくれたらいいのに……あーあ。


「なお君なお君見て、線香花火」

「二本連続!」


 続けて線香花火を嗜む久奈。また線香かい。ライブで例えると開始から二曲連続でバラードかっ。

 なぜこの子は線香花火ばかり……と少し引き気味の俺を、久奈はチラチラと見てくる。なぜ俺を見る、線香花火の運営に集中しなされ。


「直弥君ごめんね、ウチの娘クセが強いでしょ」


 あなたの方が数倍クセが強いです。そして父親は数十倍クセが強くて厄介です。


「ウチの娘は一途なのよ。好みのタイプになる為に頑張ってね~、ぶはは」


 久奈ママは上品に口元へ手を添えて最後は豪快に笑う。ホントよく笑っ…………好みのタイプ?


「今のどういうことですか」

「あら知らないの? 久奈はおとなしい子になりたいのよ~。だって、直弥君が」

「お母さん、線香花火が閃光を出してる」

「ぶはははははははは!」


 突然の久奈のギャグ。すると久奈ママは焼いた石を投入した鍋の水が沸騰するのかの如く大笑いして砂浜に転げまわる。うおぉい笑いすぎでしょ!?


「というか久奈はなぜギャグを言った」

「私もたまにはなお君のように低レベルのギャグを放ちたい」

「今日は随分と煽ってくださいますわね!」


 きぃー! 俺がいつも必死に考えているギャグを雑魚呼ばわりとは許せませんわよ!

 いや、でも……今のはなんか違う。なんかわざと久奈ママの言葉を遮ったような。


「話戻しますがさっきのは」

「あー、お腹痛い。じゃあ私は先に戻るね」


 涙を拭い、久奈ママは去っていく。

 は、はい? さっき言いかけてた内容、てか保護者としての義務は!?


「待っ」

「あははははははははははははははは!」

「今日一番の笑い声!?」


 縛道の断空よろしく俺の声をかき消した久奈ママは愉快に去っていく。

 帰っちゃった、未成年の子供二人残して帰っちゃったよ! そんなんでいいの!?


「えぇー……。俺らも戻る?」

「んーん」

「でも保護者がいないのは」

「大丈夫。一緒に花火しよ」


 オレンジの珠が落ちて、久奈は新たな線香花火に火を点ける。三連続で線香花火。三連続かいっ。


「駄目だって。俺らは未成年なんだから保護者なしで花火は……」

「なお君真面目。不良になろう」

「や、そんな小説家になろうみたいに言われても」

「誰も気づかないから大丈夫。それとも何?」


 そこで区切ると久奈は俺を見上げる。


「なお君ビビっているの?」

「……あぁん?」

「誰かに怒られるかもって恐れているんだね。なお君ビビリ」

「すんごい煽ってくるね。……上等だ、不良になってやるよ」


 久奈の言い方だとまるで俺が規則に縛られた頭の固いビビリ野郎みたいだ。別にビビッてねーし? はあぁん?

 てことで久奈の隣にしゃがみ込んで花火を持つ。その数は十。


「俺はワルだぜぇ? 十本同時に着火したぜぇ~?」

「そうだね」

「反応が薄い!」


 俺は色とりどりの火を一斉に放出してちょっとした能力者の気分だってのに、久奈は関心がなく四本目の線香花火に火を点けだした。


「楽しい」

「君は線香ばっかりだけどね……」


 両手に持つ十本は次第に消えていった。ああ、儚い。

 バケツに放り込んだ後は久奈の横にしゃがむ。


「なあ、さっき久奈の母さんは何を言いかけていたんだろうな」

「知らない」

「絶対知ってるだろ。教えてよ」

「知らない」

「むぅ~!」

「なお君、そういうのは男の子がやっても可愛くない。私じゃなかったら罵倒されてるよ」

「ホント今日は毒が多めっすね!」


 はいはいすんませんっした! 分かってるよ、男が拗ねて膨れ面しても需要ないことくらい分かっているわっ。

 でも教えてくれもいいじゃんかー、ぷぅ~。……ちょいと睨みつけてみるも気づいてもらえず、久奈は消える度に新たな線香花火を取り出す。どうやら全ての線香花火を一人で使い切るつもりらしい。


「はあ……俺も線香やっていい?」

「ん。一緒にしよ」


 二人並んで線香花火~。周りから激しい爆裂音と笑い声が聞こえる傍ら、俺らは座り込んで静かに火花がパチパチと燃え散る様を眺める。

 月明かりもない暗い海辺、ロウソクと線香花火の微かな灯に照らされて心はやんわりと安らいでいく。それは海のせせらぎが癒してくれているからか。または、久奈と二人こうして一緒にいるのが嬉しいのか。

 ……問う必要もないな。断然、後者だからだ。


「結局二人きりになったなー」

「……」


 海辺で久奈と二人きり。それが嬉しくて楽しくて……うへへっ、なんだか頬が緩んできちゃう。


「今は寒くないか?」

「ん。なお君のジャージ着てるから」

「あぁそうだったね」

「でも少し寒いからこっち寄って」

「? ああ、うん」


 もう十分近いと思うんだが、まぁいいか。

 肩と肩が触れ合う距離まで身を寄せ合う。俺の頬がさらに緩んでしまうのは必然でございます。


「ん、いい感じ」

「ローラかな?」

「うふふオッケー」

「良かったですわね」

「……本当、楽しい。ほわほわする」

「ん?」


 ふと目線を上げる。あれ、今……


「久奈、笑ってる?」

「っ……!? わ、笑ってない」


 じゅっ、とオレンジの珠が砂浜に落ちて消える。久奈が上半身ごと体を捻って俺から顔を背けた。


「そうか? 俺も暗くてよく見えなかったけど笑っていたような」

「笑ってない。なお君の気のせい」

「気のせい、なのかなぁ」

「気のせい」


 また無限ループか……。

 えー、でもやっぱ笑っていたんじゃない? こう、なんというか俺みたいに嬉しくてついつい頬が緩んでしまうっ、みたいな顔をしていたと思うんだが。


「笑ってない。絶対笑ってない」


 徹底的に否定してくる。むむ、怪しい。


「こっち向けよ」

「嫌」

「いいじゃんか。嬉しい時は我慢しなくてええんやで?」

「我慢してない」


 俺が正面に回り込むと即座に久奈がそっぽ向く。顔を見せてくれない。


「おらおらーっ」

「んん、やめて」

「捕まえた!」

「っ」


 久奈の手首を掴んだ。ぐい、とこちらへ引き寄せて顔を見合わせる体勢へ持っていく。さあ観念しろ、顔を見せるがいい。

 きっと久奈も同じはず。今の俺と同様、なんともいえない心地良さに安らいで口角上がっちゃううぅぅ状態のはずなんだ!


「っっ、えい」

「あっ! ロウソクが!?」


 久奈が足で砂を飛ばしたらしく、足元のロウソクの火が消えた。遠くの花火の灯りは届かず、俺らは互いの顔すら見えない真っ暗闇の状態に。


「ズルイぞ!」

「ズルくない」

「くっ、チャンスだと思ったのに」

「……近い」


 へ? あ、ああ……確かに、距離が近い。暗くて見えないが俺と久奈の顔は恐らく数センチしか空いてないだろう。目の前から感じる気配と温度、二人の吐息が重なり溶けていくのが分かる。

 あ、や、ヤバ、よく見えなくて空間把握能力が機能してなかった。


「ご、ごめん」

「なんで謝るの? 全然、寧ろ良い」


 え、ええ?


「動かないで」


 や、でも……


「こ、これ、喋るだけで互いの息が当たるんだが」

「私は平気」

「俺は平気じゃないです……」

「何も見えないから好都合」


 何が好都合なんですかね!? こんなに近いのに表情が見えない程の暗さ、一体何をするつもりなんですかいっ。




 その時、遠くの方で花火が上がる。眩しく濃密な彩りの大きな傘が俺と久奈の上で開いた。


「あ」

「っ!」


 パァン!と大きな音と共に辺りは一瞬だけ光で照らされ、久奈の表情が映し出された。

 それを見た時、心が止まった。ずっと、俺が見たかったモノで。きっと、俺にとっては他の何にも代えられないモノ。


 今、視界いっぱいに映ったのは……だらしなく緩んだ、幸せそうな

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