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第77話 ステテコと火バサミの二刀流パパ

 散歩を終えてコテージに戻った。そろそろバーベキューの準備を始めよう。ダンボールから炭やら着火剤を取り出す。


「炭に火を点けれそう?」

「ふっ、愚問だな。我は闇属性以外にも火魔法をマスター修得しておる」

「なお君意味分かんない」


 とにかく自信があるってことだよ。闇と火のダブル属性の俺はダークフレイムと呟いてバーベキューコンロの上に炭を並べていく。横には寝かせず縦に置いた方が火の燃え移りが速いとネットに書かれていたのでそれに従う。

 ちなみにダークフレイムは自分で考えた。センス溢れたカッコイイ技名だと思う。おやおや、何やら画面の向こうで「古いだろ」って声が聞こえた気がしたけど画面の向こうってなんだろうね。このネタしつこいぞっ。

 作業に戻ろう。小さい炭を中央に寄せると囲むように長い炭を立ち並べ、間に差し込んだ着火剤に火を点ける。さあさあ燃えろ燃えろとうちわで扇ぐ。


「ぐおおお」

「……」

「ぐおおお……!」

「……」

「ぐおおおぉぉ!」

「なお君風属性?」

「茶化さないでっ」


 この後めちゃくちゃ扇いだ。どうやら俺には闇どころか火も風も何一つ力が備わっていない、ただのノーマルタイプだと判明した。うん知ってた。

 ようやく火が点いた炭をコンロ全体に広げ、その上から新たに炭を置く。さて、まだまだ風を起こす必要があるのか……。


「あら、直弥君が火を点けてくれたのね。ありがとうっ」


 柊木夫妻が到着した。久奈ママが被っていたサファリハットを取ると美しい微笑みを浮かべる。今のところは微笑みだ。


「直弥君、汗ダラダラだよ?」

「そっすね、火を点けるのに全力出しました」

「直弥君が汗ダラダラ……ぷぷっ」


 微笑みがランクアップ、大笑いに変わる。サファリハットを握りしめて頬はリスみたいに膨らむ。


「あーっはっは! ひぃひぃ……!」


 出たな笑い上戸。林家◯ー子並みのツボの浅さだ。なんで俺が汗まみれだと面白いんだよ。笑う要素が見当たらんわ!


「直弥君は海で泳いだの?」

「泳がないですよ。寒いんで」

「寒いと言うのに汗かいてる……あははっ、暑いから泳げばいい、ぶっははぁ!」


 だからぬぁんで笑うの!? そしてあなたも俺に海で泳げと言うんですね。この似た者母娘!

 この人は綺麗なのに大口開けて笑うから台無……いやそれでも美人だ。すげーな。


「すまないね直弥君。後は私がするから休んでてくれ」


 両手に荷物持った久奈パパが到着。車から荷物を下ろしていたのだろう。


「あざす。でもあと少しなんで俺やりますよ」

「若いね~。ところで久奈はどこにいるのかな?」


 久奈パパが辺りをキョロキョロさせる。やはり娘が気になるらしい。


「あ、お父さん」

「おぉ久奈っ、パパが来た、よ…………はうる!?」


 はうる? 動く城でも見つけたのかな。

 突如として奇声あげた久奈パパ。口がぱっかり開いて手も開く。どすん、と荷物が床に落ちた。

 どうかしたんすか、何をそんな驚い、て……え?

 久奈がロフトから下りてきた。服装が先程と違う。下が違う。デニムのショートパンツから、黒のジャージに穿き替えている。

 それって俺のジャージだ…………げど!?


「お仕事お疲れ様。あとお母さん、帽子潰しちゃ駄目だよ」


 なぜ俺のジャージを穿いているのん? 勝手にリュックを漁って盗んだのん?

 困惑する俺と沈黙する久奈パパ、俺ら二人の視線を受けて久奈が何事かと横髪を耳へかける。


「どうしたの?」

「俺のジャージを穿いているのはなぜかなと」

「寒いから」

「お、おう。じゃあ仕方ない……のか?」


 寒いならしょうがないよね、うん。ジャージの耐寒性の高さは高校生なら周知の事実だよね、うんうん。……う、うおぉう。

 俺は激しく動揺し、同時にむず痒い心地良さに悶えていた。久奈の生足タイムが終わったことと、久奈が俺のジャージを着用していることがたまらなくムズムズするのだ。な、なんだろ、すっごく気恥ずかしいねこれ。頬が緩みそう。


「久奈っ、寒いならパパのステテコを貸すよ!」


 久奈パパが叫んでズボンを脱いだ。脱ぎたてホヤホヤ!?

 いや、さすがにステテコを女子高生に穿かせるのはどうなんでしょう。しかも脱ぎたて。


「いらない。なお君のがいい」

「そ、そんな……」


 絶望の表情を浮かべる久奈パパ。ずり落ちた丸眼鏡が鼻柱の先に辛うじて引っかかり今にも落ちそうだ。

 しかし眼鏡クイをする余裕がない久奈パパはステテコ握りしめて項垂れる。その隣にはサファリハット握りしめてケラケラ面白おかしく笑う奥さん。シュールな光景に、俺は堪らず吹きだしてしまう。


「直弥君?」


 ゾクッ、背筋が凍った。微かとはいえ笑ったのは過怠だったと自省する間すら与えてもらえず久奈パパが火バサミを掬い取り俺の喉元へ迷うことなく突き立てた。要した時間はコンマ以下の数瞬。


「何を笑っているんだい。私に勝ったとでも?」

「おおおお思っておりません!」


 動けば突き刺さる。火起こしで掻いた汗は一気に引っ込んで代わりに冷や汗がぶわぁと噴き出たヤバイヤバイ。極限状態で生唾を飲み込んだ喉元が火バサミに触れてひいぃ!?


「久奈は寒かったんだ。だから近くにあった君のジャージを穿いたに過ぎない。いいかい?」

「おっしゃる通りでございます!」


 いきなり本領発揮かいっ。別に俺も勝ったとか思ってねーし! なんで張り合うんだよぉ。

 もぉ、親バカ怖い。あとズボン穿いてください……。高校生の娘を持つ父親が火バサミとステテコの二刀流ってどういうことだよレアケースにも程がある。


「お父さん何してるの?」

「なんでもないよっ、直弥君を手伝おうと思ってね」


 娘に向けてとびきりの笑みを見せる久奈パパ。久奈は心配らしく、父親と俺の間に立つとコンロの炭を眺める。な、ナイス久奈。間に入ってくれてありがとう。


「さあ直弥君、あと少しだ頑張ろう」

「は、はい」


 俺にも久奈と同様、素敵で黒くない笑みを向けてくれた。この人、異常な娘思いを除けば本当に良い人なんだけどな……うぅ、恐ろしい。


「直弥君が狼狽してる、ぷぷっ、あっははははは!」


 勢い衰えることなく笑うあなたも違う意味で恐ろしいわ!

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