第74話 秘めた決意
カラオケに到着。男が俺一人で残り全員が女子という何これハーレムかよ状態だ。誰かー、ハーレムのタグ追加しといてー。
「テスト終了イェーイ!」
「きぇーい!」
「歌いまくるよ~!」
「うっきゃきゃきゃあああ!」
ハーレムと言ったが実際は全然違います。ガール達は俺なんてそっちのけ、つーか存在を気にもせず勝手に盛り上がる。奇声あげちゃってるよ。今なんて恥ずかしげもなく流行りのアイドルの歌を歌いながら踊り狂う。奇声あげるわ乙女心脱ぎ捨てるわのハイテンションっぷりだ。
ハロパの時より元気じゃね? 男子の目がないから? 俺一応男子なんですけど。
「どもども久土~」
「出たな妖怪嘘泣きギャル」
「妖怪サラサラ髪に言わたくないっつーの~」
メロンソーダを飲んでケラケラ笑う金城は空いた手で俺の髪をワシワシ&クシャクシャと撫で、撫でて撫でて、撫で尽くす。
ふんっ、他の女子と同様あなたもテンションが高くて上機嫌ですね。タダで歌うカラオケは楽しいってか。あぁん?
……えっと、フリータイム一人四百円だから十人では……た、足りない気ががががおがいがー。
「財布を覗いてどしたの」
「ひぇ、あ、そ、その」
「心配しなくても全奢りは嘘だって~」
ケロッと笑い、ペロッと舌出す金城。妖艶であざとくとも色気があり、それでいてドッキリ大成功みたいな幼げで無邪気な顔を見て、俺は肩を落とす。
「んだよ俺をからかっただけかい……」
「あははっ、ごめんって。久土のリアクションが面白いからさ~」
「あんまりイジんなよ、俺が可哀想だろ」
あと麺太も可哀想だ。教室を出る時もずっと寂しげな表情で「くぅーん」と鳴いて泣いていたぞ。まあ明日には立ち直っているだろうけどね。
「まーまー、久土には彼女がいるんだから大丈夫っしょ」
「彼女~?」
「ほら」
金城が向こうを見てご覧と促す。その先には久奈がクラスの女子達に混じって楽しそうに歌っていた。
俺の方は一切向かないけど微笑んでノリ良く手を揺らしている。何あの子めちゃくちゃ可愛い。可愛すぎるあまり脳が「ぐぼぶあぁ!?」と悶絶。
「あたしや他の人にイジられようが嫌われようが、久奈ちゃんがいれば全回復っ」
フルケアかな?
「そりゃ久奈はね。あいつに嫌われたら吐血する自信がある」
「何それ」
「それくらいショックってことだよ」
君ら女子メンバーにおちょくられても耐えられる。だが久奈の場合では話が違う。
あいつに嫌いと言われたら……あぁもう考えただけでゾッとする。俺たぶん血を吐いて泡吹いて精神崩壊しちゃうぞ☆
「つーか俺と久奈は付き合ってねーから」
「でもほとんど恋人のようなものじゃん?」
「んー……まあ、そうなのかな」
本音を言えばそういった関係になりたいと……う、うん、思ったりすることもあるような……。
久奈と付き合う、か……今の幼馴染の関係ではなく、恋人としての関係。
「でもまー、一つハッキリとしていることはあるじゃん」
「何がだよ」
「久土は久奈ちゃんのことが好きってこと」
「……」
「ん? ん? どしたの~?」
頭をくしゃくしゃ撫でてくる。その手は俺の思考を読み取ったのか、金城は口裂け女よろしくニンマリ笑う。そう、全力で冷やかしてきた。
「このこの~っ、黙っても丸分かりだっての~」
「う、うるさい! 頭触って思考読むのはセコイだろ!」
「その必要もないくらい顔に出てるから。顔、真っ赤」
ぐぅぅうるさいうるさい! 別に顔赤くねーしぃ!? ただちょっと暖房が効きすぎなだけだしぃ!? 照れるとかそんなんじゃないんだから! あーマジ暑いわぁ半裸になろうかなぁ!?
「さっさと告白すればいいじゃん~」
「……」
「お? お? どしたどした~?」
「きえぇい煽るな! ……まだ早いんだよ」
「なんで?」
問いかける金城から目を背け久奈を見る。久奈は歌うことに夢中だ。……今なら久奈に聞かれることはないし、金城には言ってもいっか。
「久奈には内緒だからな」
「はーい」
「いいか、絶対な!? 一度しか言わないからもう一回とかなしだぞ」
「もぉ、久土くどーい」
いや本当マジで内緒なんだって。これは、俺が決めた誓いなんだ。
「本気だから」
「……分かった。絶対に言わない。久奈ちゃんにも、他の誰にも」
俺の決意を察したのか、金城が撫でる手を止めて真剣な表情でこちらを覗きこむ。茶化してはいけない時は茶化さないお前のそういうところありがたいよ。
座り直し、一度閉じた目を開いて、想いを口にこぼす。
「もし告白するなら、あいつの笑わせてからと決めているんだ」
奇声あげて発狂するカラオケルームの中で、俺の声は僅かにしか響かない。聞こえているのは金城と、俺自身のみ。
「だってそうだろ。……好きな女の子を笑顔に出来ない奴がその子を幸せに出来るのかよ」
俺を見て笑ってくれないで何が付き合うだ。共に笑って過ごせないのに恋人の関係と言えるのか? いや、違うはずだ。今の幼馴染の関係から恋人の関係になるというのはそういうことだと思っている。
だから俺は久奈を笑わせたい。一緒にいることが楽しくて幸せで何にも代えられないくらい素敵な、思わず笑ってしまうような関係に、久奈も俺もなる為に。
「まっ、誓いというかけじめみたいなものだな。……俺はあいつのことが好きだ」
大好きだ。優しくて可愛くて、そばにいてくれてたまに甘えてくる久奈が大好きで仕方ない。
「けど久奈の笑顔を見ることが出来たら俺は、もっと好きになれる。そんな気がするんだ」
「……うん。なんか分かる気がするよ」
眉尻を下げ、穏やかな表情で金城は応えた。先程までみたいにクシャクシャとした撫で方ではなく、ポンポンと優しく俺の頭を撫でる。
俺も、目を細めて口結ぶ。きっといつか来る、あいつと笑い合える日を夢見て。
「てことで久奈が笑わない理由を教えて」
「い、や、でぇーす」
真面目なトーンから一転、金城へ問い詰めるも即座に頭をペシーンと叩かれ拒否された。金城は舌を出す。所謂あっかんべーってやつだ。
「いやいやそこは教えようぜ!? 俺のカッコイイ決意聞いた直後じゃんか!」
というか即座に拒否したのすごいね。でも言おうぜ!?
「俺めっちゃカッコ良かっただるぉ!?」
「うわぁ台無し。てゆーかあたしは久奈ちゃんからも内緒にしてって念を押されているもん」
「そこをなんとか。頼む。切実に!」
「一緒に歌お~」
「流された!?」
金城は二つマイクを持つと片方を俺の頬へグリグリしてきた。ぐぬぬ、今の流れ的に「久土には言ってもいっか」みたいな展開じゃないのん!?
「ほらほら立って。あたしとデュエットしーましょ~♪」
「真面目に話したのが馬鹿みたいだ……がくっ」
「そうだね、久土は元から馬鹿だよ」
元からってやめて。確かに馬鹿だけども!
「んー……二人共、微妙にすれ違っているんだね。どっちかが素直になれば簡単なことなのに」
「なんか言ったか?」
「別に~? あ、ちなみに久土の馬鹿度が十としたら向日葵君は」
「やめて、この場にいない麺太を貶すのはもうやめてあげて!」




