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第73話 テスト終了くぅーん

 バレンタインが過ぎると現実に戻された。そう、学年末考査。

 学年最後の試験に相応しい範囲と難しさを誇るってわけでもないが赤点制度は変わらない。特に今回の学年末考査でヤバイとされているのは俺と麺太で、こいつらガチで留年するんじゃね?と期待と不安が入り混じったなんとも不謹慎な視線を送られ続けたテスト準備期間でした。

 そして今は学年末考査最終日の最終科目終了十秒前。


「お、終わったぁ……!」


 全てのテストを受け終えて解放感に包まれるクラスメイト達。俺もグッタリして安堵の息を吐くとシャーペンを机へ投げ捨てた。

 うむ、まあまあの出来だ。まあまあというのは俺にとって最大級の功績を意味する。

 というのも今回は久奈と金城に勉強を教えてもらった。二学期の期末で学年四位と九位だった十刃が面倒を見てくれるとなりゃアホでも多少なりと学力が向上した。やったぜ。


「久土~、打ち上げ行こ~」


 帰ろうとする俺の肩に手を乗せる金城。その顔は、にままぁ~んと謎の擬音が聞こえてきそうなくらい上機嫌だった。

 ああ、やっぱ覚えているよねー……。


「勉強見てあげる代わりにカラオケ奢ってくれる約束だったよね~?」

「はいはい……では行きましょか」

「やたーっ」


 金城はその場でピョンピョンと飛び跳ねて喜びを表す。小ジャンプの度に栗色の長い毛先が揺れてなんか良い香りが拡散されている。こういった仕草はとことん女子力が高いんだよなぁ。

 ちなみに、揺れている。おぉ。これだけ至近距離で観察すれば、恐らくは平均より大きなサイズを誇る金城の胸が、


「嬉しいので久土の頭を撫でたいと思いますっ」

「い、今は勘弁して!」


 俺の邪な思考を覗かれては困る! テスト終了のハッピーエンドから人生終了のバッドエンドに早変わりだよ!

 何が人生終了って? セクハラされたー、と金城が気軽にツイートすれば男女問わずクラスメイト達によるリンチが待っているから。やはり金城恐ろしい子っ!


「ぶーっ、髪の毛触らせてよ~」

「駄目、絶対に駄目!」


 ブーブーと文句垂れる姿にも華がある。つーかあざといよね。

 わざと俺の視線の下に潜り込んで上目遣い、頬を膨らませる金城のあざとい小悪魔コンボで脳が「ぐぼばぁ!?」とダメージ食らうも、なんとか耐えて咳払い。


「久土のケチっ」

「だからお礼はカラオケって言ったやん。ええから行こうや」

「下手に関西弁使わない方がいーよ、ただでさえ高水準のウザさが増す」

「忠告どうもの前に、俺は既に高水準でウザイのかよ!」


 関西弁が出るのは仕方ない。家でエセ関西弁を多用する母さんが悪いんだ。


「ちなみに久土のウザさが十としたら向日葵君は二億」

「がはっ」

「麺太!?」


 隣の席、椅子から転げ落ちる麺太。今はテスト終了を祝って一人楽しげにカップ麺へお湯を注いでいただけなのに……。


「つまり向日葵君は久土の二千万倍ウザイのだっ」

「すいませんこれ以上ウチの相方を傷つけないでください」


 チラリと見れば、飛び火を食らった麺太が床で体育座りして「くぅーん」と悲しげに鳴いていた。そして泣いている。目が虚ろだ……。


「と、とにかく行くなら早く行こうぜ」

「らじー」


 ズバッと軽快に敬礼のポーズをして金城が笑う。

 やっと教室から出られる。カラオケに行くだけなのに何文字使うんだよ、いくら学園コメディーとはいえグダグダしすぎ、っ、うっ、頭が痛い!? な、なんだろう、それ以上言ってはならぬと別世界から警告されている気が、はい中二病乙。お薬出しておきますねー。


「ふふ~……久土が奢ってくれるんだよねぇ?」


 ゾクリ。背筋が凍って直後には冷や汗が流れた。脳が告げている、見てはいけないと。

 ああ、でも、恐る恐る振り返ると……ニタニタと口角上げて微笑浮かべる金城がいた。瞳が嬉々として輝いており、俺をイジメてやろうと目論んでいた。


「そ、そういう約束だったからな……?」

「らじらじ~。じゃあみんなー、カラオケ行こーっ!」


 弾ける金城の快活な声。その一声で、教室の各地でお喋りしていた女子達が一斉に集合した。

 刹那とも言えるコンマの世界で俺の思考は辿り着いた。ハメられたな、と。


「はあああああぁ!? それはさすがに酷くね!?」


 カラオケ奢ると言ったがこんな多人数には無理に決まってるだろっ。オーバーキルも甚だしいわ!

 つーか女子達の集まる速さたるよ! お前ら部活生か。金城部なのかな!?


「えー、奢ってくれるゆーたやんか~」

「お前も関西弁使うんかい。いや、だからそれはテス勉を見てくれた金城に対してだけで……」

「うぅ、久土に約束破れた。およよ」

「いや、およよって……」

「あー、久土君が舞花を泣かせた」


 金城が嘘泣きすればすかさず関さんが俺を非難する。それに続いて他の女子達も武器を手に取った。数の暴力という武器を。


「久土君サイテー」

「ちょっと舞ちゃん泣いてるじゃん。謝りなよ」

「謝れ~」


 出たよこのパティーン! 金城の勝ち確コースじゃねぇか! 摂津からのファルケンからの馬原並みの勝利の方程式だよこれ!?


「舞花に酷いことしないで」

「ひどーい、謝ろうよ」

「四月からは後輩になるんだからさ」


 最後の奴ふざけんな! 俺が留年決定みたいな言い方しないで。もしかすると本当にダブる可能性秘めているから結構ビビっているんだぞ!?


「およよ、久土が冷たい」

「ほら舞花に頭下げて」

「サラサラの髪を献上しなよ」

「それしか取り柄ないんだからさ」

「つーかなんでそんなにサラサラなの?」

「女子よりサラサラって何?」

「ウチらに喧嘩売ってる?」

「なお君ファイト」


 さりげなく久奈ぁ! バッシングの嵐に紛れて久奈っ、コラ久奈!


「幼馴染が非難されているんだぞ、助けろよ!?」

「なお君ファイト」

「RPGの村人じゃないんだからせめてもっと多彩にエールしてくれ!」

「ちなみになお君のウザさが十だとしたら向日葵君は五兆」

「くぅーん……」


 麺太の死にそうな鳴き声と金城の嘘泣き、女子達の謝れコールで耳はいっぱいいっぱい。軽く眩暈がしてきた。テストを終えた解放感はいつになったら味わえるのだろうか。

 あぁ、これならテスト受けていた方がマシだったかもしれない……くぅーん。

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