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第70話 分身キモキモンスター

 放課後、俺の精神はズタズタのボロボロに。なぜかって?


「じゃあね久土君。久土君には絶対にチョコあげないから」

「久土君バイバイ。久土君には絶対チョコあげないから」


 このように、クラスの女子達が声をかける際に必ず語尾にチョコあげないからを付加するからだ。これが昼日中ずっと続いたら精神おかしくなって当然でしょ。

 あー泣きたい、子供のように泣きたい。ちなみに久土家では十歳の誕生日を迎えた際に「これからは泣き喚いても通用せえへんから。泣いたら泣かす」と脅された。鬼畜か。


「今日どこ寄ってくー? って、きゃあ!?」

「ひゅひゅこぽぽぽおぉ、チョコレート渡すまでどかないこぽよぉ~!」

「ひ、向日葵君が出入り口を塞いでる」

「こっちは無理だから前から出よ、きゃあぁ前にもいる!?」

「ぐひひ、ちゅぽちゅぽぉ」


 チョコゼロ個の麺太は俺以上に頭が変になったらしい。教室にある二つの出入り口を高速で移動して女子達の進路を塞いでいる。その速さたるや、某漫画の瞬歩の如く。

 ヤベイってこいつ。ちゅぽちゅぽという壮絶に気持ち悪い奇声をよく出せるものだ。


「ちょっと久土君、向日葵君が邪魔して帰れないんだけど。チョコはあげないから」

「コンビ組んでいるんでしょ、なんとかしてよ。お礼にチョコはあげないけど」


 お願いしているのかイジメているのか分からねぇなおい!

 俺が何をしたというんだ。射幸心煽られて久奈と金城の女子トークを盗み聞きしようとしただけじゃないか。それが罪だって? そっか……。


「久土君? だっけ? ウチら文句に言いに来たら教室から出れないんですけどー」

「あの俊足キモキモンスターどうにかして」


 他クラスの女子からも不平不満がやまない。彼女らは麺太へ被害を訴えに来たのたが二組から出られないという状態に陥ったらしい。


「三組の火藤さんなんて号泣したんだからね」

「体育の最中に乱入してきたのトラウマなんですけど」


 いや、お、俺に言われても困る。俺だって麺太の底知れない悍ましさに辟易しているんですって。

 しかし女子からすれば「そんなの知るか」てなわけで……。


「さっさとして」

「久土君の仕事じゃん。チョコあげないから」

「当たりキツイっすね……えー、俺もアレには触れたくないんだがなぁ」


 女子達の被害届を受けた俺は渋々立ち上がると麺太の元へ。

 今も脱出を図る女子がいて、二つの出入り口から同時に出ようとしていた。すると麺太は分身した。


「うふふ~、こぺぽこぺぽぽぉ」

「「きゃあああぁ!?」」


 すげーな、ここまで精神が壊れると人って分身出来るんだ。菊丸ステップかな?

 これがコメディー作品で良かった、バトル系作品だったら読者から現実的ではないと批判が殺到してい俺は何を言っているの?

 メタを感じた。ともかく麺太だ。


「おい麺太」

「我に何用だ裏切り者。貴様もここを通すわけにはいかぬぞ」

「喋り方まで変わってしまったのか」


 キモさとディフェンス力がカンストした麺太は鬼の形相で俺を睨む。カチカチと歯を鳴らして眼球は闇マリクのように病的に歪んでいる。麺を湯がいて幸せそうに笑っていたお前はどこにいったんだよ……。


「貴様はいいよな。チョコを貰えたのだから」

「鞄の中のチョコにZ注目しないで」


 南米の森林に潜む奇虫並みにキモイ。うげぇ。

 が、こいつの相手は俺にしか出来ない。今も後ろからは女子達の早くしろコール。何この挟み撃ちマジつらたん。

 ……ふー、やるか。顎先から唾液を垂らす麺太に恐怖すら感じながらも臆せず立ち向かう。麺太、聞いてくれ。


「バレンタインチョコは好意の表れだ。強引に搾取するものじゃない」

「黙れリア充。チョコを貰えたモテモテのお前に僕の何が分かる」

「金城から一つだけな。他の女子からはチョコあげないと執拗に念押しされて、久奈からも貰っていない」

「……何? え、柊木さんから貰ってないの?」


 麺太の驚いた表情。微かに瞳に理性が戻った。

 好機。今が逃げるチャンスだと後方の女子達にハンドサインで知らせて尚も俺は語る。


「ああそうだ。俺はリア充じゃないしモテモテでもない。お前と同じ、哀れな男子さ」

「直弥……」

「だからといって女子を恨んだりしない。怒り叫び、妬み狂い、どれだけ暴れても自分が虚しいだけだ。本当は麺太だってこんなことしたくないはず。だって俺らは」

「ジェントル麺だから……う、うぅ」


 口を押えて涙を流し、麺太は床へ崩れるように膝をついた。


「そうだ、俺らはジェントル麺だ。女子には紳士に接しようぜ」

「うん、うん……っ! 僕が間違っていたよ、怒りで我を忘れていた」

「分かればいいんだ。さ、女子達に謝ろう。俺も一緒に謝るから」

「あ、ありがとう」

「みんな、麺太を許してくれないか?」


 振り返ると、教室に女子はいなかった。

 久奈が俯いているだけ。他の女子は既に全員隙をついて脱出したらしい。あ、俺がハンドサイン出したから……あ、あら~。


「ま、まあこんなこともある。でも怒ってはいけない、なぜなら俺達は」

「麺麺、ジェ」

「なお君帰ろ」


 麺太の決めセリフを久奈が遮った。

 てことで麺太には別れを告げてさようなら。


「じゃあな」

「……こぽぽ」


 あ、また暴れそうな予感。これ以上は付き合っていられない、慌てて教室を出た。

 さよーなら、チョコレートゼロ個という悲しさを来年の今日まで背負うんだな。

 さっきはああ言ったが、やはりバレンタインデーにチョコを貰えないのはダメージが深い。麺太が病むのも頷けるってもんだ。

 俺は一つ貰えたけどねーっ。でも久奈からは貰えてないけどねーっ。……はぁ。


「なお君」


 廊下を歩く。すると久奈が話しかけてきた。


「おう」


 俺は鷹揚に返事をして久奈の言葉を待つ。

 待つけど、隣の少女は何も言わない。


「あのね」

「なんでしょか」

「……なんでもない」

「そうですかい……」


 一瞬期待しちゃたぞコノヤロー。でも今のタイミングで違うってことはコノヤロー、もう確定かもなコノヤロー。

 久奈は、もう俺にチョコレートをくれないんだ。幼馴染チョコは中学までってことね。

 ……分かったよ、もう期待しません。ぐすん。あー泣きたい。


「っ、なお君」

「あいあい、なお君ですよー」

「……」

「なんでもないパート2かな?」


 さっきから何か言おうとしているみたいですね。

 下手に聞き返さず、久奈が言うのを待ちましょう。俺待つ。誤変換すると折松。新しい松野家かな?


「バ」


 バ?


「バ……バーニー・ウィリ○ムス」

「いつの時代の外国人選手だ」


 詳しく知らねーよ。なんで久奈はフルネーム知っているんだ!?

 え、何よ急に。折松した結果がこれ? なぜに外国人選手!


「……」

「あのぉ」

「なんでもない」

「パート3……」


 なんか様子が変だ。麺太よりは遥かにマシだけど。


「くゅぴぴぴぃ!」


 うわぁまだ聞こえてくる……。

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