第7話 麺太は優しい?
翌朝になっても殴られた顔の腫れが引かない。右頬を漫画みてーに腫らした俺はしょんぼり家を出る。
「行ってきます」
「帰ってこなくていいから」
母さんが冷たい。朝食は乳酸菌飲料のミルミル一本だった。ちなみに昨日の晩飯もミルミル一本のみ。ビフィズス菌のみでどうしろと? 空腹なのに腸内環境整える必要があるとでも?
「なお君おはよう」
「おはよっす」
エレベーターの前で久奈が待っていた。俺が来るのを見てボタンを押してエレベーターがウィーンと開く。ウィーンと聞くと少年合唱団を思い浮かべるよね。え、そんなわけない? そうですか……。
「今日はペットボトルロケットしないの?」
「する元気が湧かないしどうせやっても久奈は笑わないだろ」
「面白かったよ」
「だったら笑え!」
うっ、駄目だ声を荒げると空腹に響く。お腹減ったなぁ……。
今日も一応ネタは考えてきたが如何せん腹が減って実行に移せない。腹が減りすぎて痛いくらいだ。腹が痛くて腹イタリア。なんだそれクソおもんねぇ。
空腹に悶えつつ通学路を歩く。と、前方に見覚えのある坊主頭を発見。俺は力を振り絞って駆け寄り名を呼ぶ。
「め、麺太ぁ」
「む? その声は我が親友直弥」
麺太は俺に気づいて来た道を戻ってきてくれた。光明なり。マジで良いところで会えた。実はな、
「柊木さんもおはよう! 今日も直弥に変なことされたの?」
「今日は何もなかった」
おいおい麺太? 何を気さくに久奈とトークしてんの? それよりも先に親友の異常を気遣うべきじゃないかな。
「昨日美味いうどん屋を見つけたんだ。柊木さんに紹介してあげるよ!」
「ありがと」
「よっしゃ好感触! じ、じゃあいつ暇? 今日の放課後はどう?」
「お店の場所を教えてくれたらなお君と行く」
「だと思ったよ……ぐすん」
だから麺太ぁあ! 向日葵麺太あぁ! こっち向けキラキラネームこの野郎! まずは俺に話しかけろよ。さり気なく俺の幼馴染を食事に誘ってんじゃねぇ!
クソ、こうなったら……。残り僅かの体力を全てつぎ込んで麺太の鞄に飛びかかり、奴が動揺するよりも先に鞄を開いて中から弁当箱と水筒を取り出す。弁当箱と水筒を開けて、二つ同時に口へ突っ込む!
「うわぁあ僕の昼食があぁ!? 土日をかけて仕込んだピリ辛味噌スープと手打ちの太麺がああぁ!?」
登校中に麺太と出会えたのは本当に助かった。つけ麺美味かったです。
「うぅ、一日の楽しみが……」
隣の席で麺太が酷く落ち込んでいる。陛下に斬月を折られた一護みたいな顔と言えば伝わる人は多いことだろう。オサレオサレ。
俺は悪いことをしちゃったと反省しつつ、先週のゲロ事件はこれでチャラにしてやると言わんばかりにゲップを吐く。
「直弥テメェ……!」
俺のゲップと共に麺太が立ち上がる。俺の机をバンッ!と叩くと鬼のような形相で睨みつけてきた。始解した剣八みたいと言えば伝わる人は多いことだろうオサレオサレ。
麺太はギリギリと歯軋りしながら唸り、手元でピロンと音を鳴らせた。見れば携帯、その画面には地図。
「オススメのうどん屋の地図を送信した。柊木さんと行ってくるといい」
「お前めちゃくちゃ良い奴な!? なんかありがとう!」