表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/150

第67話 一日なお君を服従させる券

 ピンポーン。久奈がやって来た。


「いらっしゃい」

「お邪魔します」


 部屋に招き入れると久奈は座布団の上に座って両手をグー。普段通りの無表情ながら、胸元に拳をグッと掲げてアゲアゲな様子。

 テンション上がってますなー。……そんなに今日が楽しみなのん?


「なお君、今日はよろしくね」

「無茶な要求はやめてけろ」


 本日は漫才の練習ばかりで久奈をないがしろにした償いをするべく久奈の言うことやることに付き合おうと決めた。うーん、どうなることやら。


「今日はとことん付き合ってもらう」


 やや警戒する俺を余所に久奈はグッ、グッ、と何度も両手を上げる。さらには一枚の紙を取り出した。


「一日なお君を服従させる券」

「サラッと恐ろしいチケットを出したね」


 俺に無許可で何作ってんの? そして久奈の「私の命令は絶対だよ」的な顔はなんだ。俺も出来る限りのことは尽力する所存ですが無理難題は控えてほしいっす。


「まずはね、自転車」

「……自転車?」






「いやこれ寒い!」


 ウィンターのウィンドがビュンビュンビュン! 今の時期は寒いって! だって冬だもの大寒波だもの。

 自転車に乗る俺。その後ろには久奈。二人乗りってやつだ。


「二人乗りって罰則があるんじゃねぇの」

「漫画ではセーフ」

「そりゃ漫画ではね!」


 漫画なら二人乗りはおろかドラゴンに乗っても許されるから。竜騎士ガイアだから。


「なお君ゴー」

「わ、分かったよ」


 これが久奈のしたいこと……し、仕方ない、やってやる。


「じゃあ行くぞ」

「違う」

「違うって?」

「そこは『俺にしっかり掴まれよ』って言って」

「俺に何を求めてるの!?」


 そんなキザな台詞を!? バイクなら分かるよ。でもこれ自転車じゃん。チャリに乗って「ふっ、しっかり掴まれよ」と発しても「はあ、そすか」な空気になるだけ!


「ねえ、早く」

「ぐぐっ……ゴホン! 久奈、俺にしっかり掴まれよ。キラッ」

「……違和感」

「ほらそうなるぅ!」


 ああぁもう行くからな! ペダルに足をかけて自転車を漕ぐ。

 と、久奈が俺の背中に抱きついた。ドキッと跳ねる心臓。

 だが直後には、風の冷たさで心臓が萎縮した。凍てつく風が肌にザックザクと突き刺さって痛い痛いぃぃ!


「おおぉおぉぉお、さ、寒い」

「私は暖かい」

「俺が風よけになってるからね!」


 こいつぅ! こんなことして何になるってんだ。俺が辛いだけ。俺への嫌がらせ!?


「耳すまを観て憧れてたの……んん、あったかい」

「なんか言った? か、風の音で聞こえない」

「なんでもない」

「ぐあああぁさみぃー!」






 二人乗りを終えて部屋に戻ってきた。


「じゃあ次ね」

「息つく暇もないのね……」

「ない」


 そう言ってチケットをヒラヒラさせる。

 せ、セコない? その券を出せば有無言わせませんよ感は何さ。ドロー4か!


「次は……おんぶ」

「はい?」

「しゃがんで」


 ……命令に従うと久奈が乗っかってきた。視界の両端からにゅっと腕が現れて俺の体を掴む。

 あのぅ、おんぶってこんなに全体重を預けるシステムだっけ? 思いきり密着されているのですががが。


「いいよ」

「じゃあ立つぞ」

「ん」

「はい」

「……」

「……」


 久奈をおんぶして部屋の中を歩き回る。グルグル、グールグル。


「……」

「……」


 ……一体どゆこと。脳内で『もしかして:シュール』の表示。


「満足」

「何が!?」


 なぜか久奈はおんぶされて充実感を得ている。二人乗りの次はおんぶって何よ。俺を乗りこなしたいの? ライドオン的な!?


「重たくない?」

「おんぶの経験が少ないから基準がよく分からん」

「なお君違う。そこは『全然。羽毛くらい軽いぜ』って言わなきゃ」

「君さっきからキザを所望しすぎ」


 実際すんごーい軽いけど。人ひとり分の重さはあるも、久奈をおんぶしているという圧倒的なアドバンテージで疲れは微塵も感じない。

 そして背中も何も感じない。密着されても背中には俗に言うむにゅむにゅ感触が一切ないのだ。さすがマイ幼馴染、見事な貧にゅ


「今、変なこと考えてる」

「べ、べべべっつにぃ?」

「……私はぺったんこじゃないもん」


 ムスッとした言葉と共に久奈の抱きつく力が強くなる。ぐいぐい胸を押しつけて……


「どう?」


 ど、どうって言われても……そりゃ血流を加速させる程に心臓は暴れ馬よろしくドキドキしていますよ。

 それでも、うん、ぺったんこだよねこれ。


「なお君は大きい方が好き?」

「……大きさだけが魅力じゃないぜ☆」

「今はそういうのいいから」

「せっかくキザったのに!?」

「ちゃんと答えて」

「つっても基準が……あ、一度経験があったか」


 期末考査の前、金城に抱きつかれた時だ。今みたいにガッツリじゃなくて軽くだったが、


「金城はそこそこのボリュームがあったなぁ」

「……舞花ちゃん? 舞花ちゃんにも同じことやったの?」

「ああ、金城が抱きついてきたというか」

「……むぅ」

「っ、ちょ、痛いんだが」


 おんぶのレベルを超えた力で抱きついてくる。つか首が絞まって、あががが!?


「なお君は舞花ちゃんと仲良し」

「あべし!? く、首が!?」

「それに舞花ちゃんは大きい。でもだからって……」

「タンマタンマ! 絞殺の域に入ってきたよ!? なお君死んじゃう!」






 久奈を下ろして床に伏せる。

 ぜえ、ぜえ……き、気絶しそう。視界に銀色の線が映るってヤバイ。危うく幼馴染に絞め落とされるところだった。


「むぅ」

「むぅ、じゃねーよ!?」


 なぁんで君は不服そうな顔してるのぉ!? 何その拗ねたような感じの声音、俺は拗ねるじゃなくて死ねるだったんだぞ!


「ツーン」


 恨めしげに睨むも、久奈はぷいと顔を逸らして伝家の宝刀『ツーン』を発動。


「な、なんで久奈の方が機嫌が悪いんだ」

「……舞花ちゃんライバル」


 意味の分からないことを言いだした。金城がライバル? あなたはレッドで金城がグリーン?


「別に大きさなんて人の好みだ。マジで」

「……」


 それに久奈は小さくて大正解だ。この抜群に可憐な容姿で巨乳だったら暴動が起きる。ある意味釣り合いが取れているよ。完璧なパラメーター振りをした神様に感謝。


「というかおんぶ終わりな! はい休憩!」

「じゃあ次」


 まだするんかーい!


「……抱っこ」

「ふぁい!?」

「お姫様抱っこ的な」

「的なって……」

「ん」


 起立する久奈。目が「はよせい」と促してくる。お姫様抱っこ……や、それはさすがにちょっと……。


「ヒラヒラ」

「チケット出すのやめぃ!」

「ヒラヒラツーン」

「合わせ技!? もう意味が分からん!」

「違う。そこは『仰せのままに我がお嬢様』なの」

「キザ再発!」


 結局は実行することに。はぁ、俺って久奈に甘いよな。知ってた。

 俺が両手で抱きかかえれば、久奈が俺の首元に腕を回して密着する。密着系好きね。顔近い近い!


「んん」

「これで満足ですか」

「やや」

「ややなんかい」

「……これは舞花ちゃんにやったことある?」


 俺が金城にお姫様抱っこを?


「ははっ、ありえない」

「やってない?」

「やってねーよ。これが初めてだ」


 そう初めて。だから実はとんでもなく緊張しています。だってこんなの漫画じゃん。竜騎士ガイアじゃん。違うか。

 にしても……久奈が近い。顔と顔が向き合う形ってのは先程の二人乗りやおんぶと違い、ドキドキ度が桁違い。俺の心臓破裂するんじゃね。


「そっか……じゃあ私が初めてなんだね」

「だな」

「ん、大満足」


 ぎゅっ、と。俺の首に回した両腕にゆっくりと力を込めて久奈が接近する。おまけに顔はこっちを向いたまま。顔と顔は定規で測る程に近く、互いの視界は互いの顔で埋まっていく。

 二人乗り、おんぶ、お姫様抱っこ。段々とイチャつき度が増す。それに気づいて、今の状態を踏まえて、何より……久奈と二人でいるこの空間がたまらなく緊張するし夢のように幸せで……


「なお君顔が赤い」

「あ、赤くねぇし。……もういいだろ」

「まだ。あと一時間」


 俺の腕が持たないって! あと心臓も。マジで爆散するわ!


「一時間もやったら重たくて腕がぁ」

「なお君違う」

「あーはいはいすみませんね! ……全然平気さ。だって羽毛くらい軽いから」

「ん、嬉しい」


 その後、本当に一時間お姫様抱っこをしましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ