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第65話 ジェントル麺の本気

 笑わせられるかもしれない。一途の望みを託したに過ぎなかった。そう、最初はただの思いつきだった。

 でも今は違う。俺は本気だ。コンビを結成して二週間、その中で成長した。

 その姿を見せたい。そして見たいんだ、久奈の笑顔を。


「では次の方に登場してもらいましょ~。久土直弥さんと向日葵麺太さんでーすっ」


 教室の中から聞こえる金城の声。遂にきた、俺にとって戦わなければならない瞬間。


「行くぜ麺太」

「よっしゃ任せろ直弥」


 互いの顔を見てニヤリと笑い、拳を合わせる。緊張も高揚も全て胸に抱えて、俺らは扉を開けた。


「はいどーも! 久土ですっ」

「麺大好き麺太ですっ」

「二人合わせて」

「「土日のジェントル麺です! どうぞよろしく!」」


 月吉の時と同様、疎らな拍手に包まれて俺と麺太は教壇の上に立つ。

 チラリ、と見えた久奈の顔はいつも通り無表情。その顔、笑顔に変えてみせーる!


「僕らの初舞台ってことでね、緊張しますね~」

「おいおい緊張しているのかよ。そういう時は手の平に人って字を三回書けばいいんだ」

「あ、それ知っている。手の平に人、人、人……よし」

「で、それを」

「はい直弥飲んでいいよ」

「いや俺に飲ませるのか。嫌だわ、衛生的になんか嫌だわ!」

「直弥も緊張しているでしょ? ほら僕とシェアしよう」

「そんなパピコ半分こしようみたいに言われても困る」

「パピコと言えば最近鍋が美味しい季節ですね」

「パピコ関係なくね!? パピコに鍋を思い起こす要因は皆無だろ。まあ鍋は確かに美味しいですけどね」

「直弥は鍋は何鍋が好きなの?」

「俺はそうだな、モツ鍋とか好きだぞ」

「ああツモ鍋ねはいはい。あれ美味しいよね」

「ツモじゃなくてモツな。ケアレスミス注意していこ」

「リーツモ、オール1300」

「話聞いて? あと安い手で上がってんじゃねぇ!」

「かく言う僕も鍋にはうるさくてね~、鍋奉行ってやつですな」

「へえ、そうなんだ」

「まあシメのちゃんぽん麺が大好きだけなんですけどね」

「だと思ったよ。やっぱお前麺好きだな」

「家族が鍋食べている時、僕はキッチンで麺こねています」

「一から作ってんの!? 鍋自体には不参加ってどういうことだよ。奉行として頑張れ!」

「まあまあ、家族が喜ぶ顔が見たくてさ。みんな美味しそうに食べるんだよ、パピコを」

「パピコ!? ここでまさかのパピコ再登場!」

「パピコは欠かせないよね。鍋に投入したいくらい」

「オフシーズンのパピコになんて仕打ちだ」

「それツモ、メンタンピンパピコドラ3」

「謎の上がり方をすんな!」

「あ、パピコ乗せラーメンください」

「謎のトッピングもするな! パピコとラーメン双方に失礼だろ」

「パピコと言えばラーメンが美味しい季節ですね」

「お前はいつもだろ! もうええわ!」

「「どうもありがとうございましたー。見てくれてどうもありがとう、アー麺!」」


 額に滲む汗を拭う余裕もなく息絶え絶えに頭を下げる。緊張で声を飛ばし過ぎて喉が痛い。頭がクラクラする。

 でも俺はやった、やりきったんだ。練習の成果を発揮出来た! 頭上からパチパチ、と拍手が起きる。


「やったよ直弥、僕らやったよ……!」

「ああ、間違いない。俺らは最高だった」


 互いの肩を叩き、互いを褒め称え、俺と麺太は熱い抱擁を交わす。戦いを終えた今、俺らは親友と超越した間柄になったのだ。そう、相方という関係に。

 土日のジェントル麺は今ここで産声をあげた。




「それでは点数をどうぞー」


 審査員の四人がフダを掲げた。久奈が5点、関さん2点、長宗我部3点、勅使河原さん2点。合計12点。

 …………はあああぁん!?


「低くね!?」


 こちらの熱気とは裏腹に審査員席は冷めていた。なんでみんな微妙な顔してんのおおぉ!? なんでえええぇ!?


「おい司会! 理由を聞け、聞くんだぁ!」

「えー、でわ長宗我部さん感想をお願いします」


 長宗我部が教科書を丸めてマイク代わりにすると一つ咳払いして口を開く。


「全体的に内容が面白くなかったですね」

「シンプルに実力不足!?」

「最初から勢いよく飛ばし過ぎて途中からうるさいなと思いました。もっと徐々に上げていってピークを最後に持ってくるようネタを構成するべきですね。好きな鍋をモツ鍋と答えたのも、ツモと言い間違えて無理矢理麻雀の話に持っていこうとしていたのが見え見えでネタ作りの甘さが目立ちました」


 長宗我部がペラペラと淀みなく酷評する。こ、こいつめちゃくちゃ辛口審査じゃねぇか。マジの審査員みたいだぞ!?


「しかしボケとツッコミの流れはそれっぽかったです。荒く拙いながらも練習を積んだ点を評価して3点ですね」


 それでも3点かい! 月吉と1点違いじゃねぇか。あいつの胆力に俺らは1点分しか勝ってないのかよ!


「では次に関さん」

「そーですね、なんか基本的に何言っているのか分かりませんでした」


 お前も辛口かい!


「あと最後のアー麺というのがイラッとしました。あれがなければ3点はありました」


 それでも3点なのか……。

 続いての勅使河原さんのコメントは長宗我部と同じようなものだった。

 あ、あれ? 漫才に夢中で気づかなかったけど、俺ら……スベッてた?

 全体から漂う、「別に面白くもつまらなくもなかった」みたいな空気。俺らは全力尽くしライブ終えたバンドマン並みに充実しているんだけど!?


「それでは最後に久奈ちゃん感想お願いします」


 っ! 久奈が教科書を持つ。クルクルと丸めて唇の下に構えた。

 ……漫才をやっている最中、チラチラと久奈の様子は伺っていた。どのボケで笑うかな、俺のツッコミでクスッとしてくれるかな、と期待していた。

 でも結局、あいつは最後まで笑わなかった。


「久奈……」

「面白かった」

「じゃあ笑おうぜ!? しかも5点て!」

「久奈ちゃんありがとうございましたー」

「おい終わるな司会者っ、長宗我部みたく久奈にもガッツリ感想言わせろ!」

「だってさ久奈ちゃん」

「面白かった」


 久奈ぁあああ!

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