表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/150

第63話 第1回チキチキ久奈ちゃんを笑わせるのは誰だ? 激突お笑い選手権

 今日も朝六時に登校。ホームルームが始まるまで二時間以上ガッツリと練習して、休み時間や昼休みも漫才の練習に注ぎ込む。移動教室の際も、トイレに行く時も、俺と麺太は休まず口と体を動かす。

 当然、授業中だって休まない。


「先生っ、向日葵君が机の下でそば粉をこねています!」

「先生っ! 久土君がノートに自作した迷路でゴール出来ず彷徨っています!」

「向日葵と久土、校庭十周」


 わざと互いの非を報告することで授業を抜け出し、グラウンドを走りながら台詞を言い合って練習。入念に、繰り返し、何度も何度も、完璧になるまで声を出した。

 そしてホームルーム。その時が迫る。


「もうすぐ学年末考査だ。予習と復習を繰り返」

「「もうええわ!」」

「「どうもありがとうございましたー」」

「久土に向日葵、なんだお前ら」


 担任がしかめ面で教室を去り、放課後となった。

 いよいよだ、この時がやってきた。


「戦じゃああぁあ!」

「やったるでえぇ!」

「「うおおおぉおお!」」


 俺らは吠える。やる気を轟々と燃え上がらせて気合い十分!

 周りからは「あいつらマジでヤバイ」とか「来年は同じクラスになりたくない」といった声が聞こえた。知るかっ、そんなの関係ナッシン! 今の俺らは誰にも止められない!


「行くぞ麺太」

「やるぜ直弥」

「俺は笑顔の為」

「僕はチョコの為」

「「絶対に成功させてみせる。きええぇい!」」

「はいみんな我慢してねー。こいつらたぶん留年するから四月からはいなくなるよー」


 金城が何か言っているが気にしない。いざ決戦の場へ!






 決戦の場は今いる場所と変わらず一年二組の教室。

 部活に行く者、寄り道して遊ぶ者、一年生のうちから塾へ行く者。十人十色が色濃く表れる放課後で教室に残る者は少ない。教師が見回りに来ることは滅多になく、漫才をするにはうってつけの場所だ。


「えー、皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。今回のイベントの司会進行はあたし、金城舞花が務めます。どうぞよろしくでーすっ」


 教壇の上に立つ金城が笑顔振りまいてキャピ♪とウインクする。あざといムーブだ。アイドルみたい。


「皆様には審査をしていただきます。公平な審査及び内容がつまらなくても我慢してくださいますよう、ご協力お願いします」


 金城のスームズな司会にパラパラと起こる拍手。その音量が人の少なさを物語る。

 教室にいるのは俺と麺太はもちろん、久奈やクラスメイトの関さんがいる。関さんは久奈や金城と仲が良い女子生徒だ。さらには囲碁部部員の長宗我部と勅使河原さん、そして……月吉。


「なんで月吉君がいるんだ」

「ふっ、愚問だな久土君」


 月吉は俺を見て馬鹿にしたようにせせら笑う。オールバックの髪に櫛を通してドヤ顔なう。ウーザーイー。


「なあ直弥、こいつ誰? あとグモンって何? ワクチン種の成長期デジモンかな」

「それはアグモン。愚問についてはおっけーぐーぐるしてろ」


 麺太が携帯に話しかけているうちに金城の元へ。


「なんで久奈以外にも観客がいるんだよ」

「あたしが呼んだの。観るのが一人だと久奈ちゃんが可哀想っしょ?」

「そうか?」

「そーなの。久奈ちゃんを楽しませたいなら盛り上げなくちゃ!」


 なんとなく理由が分かったようなそうでないような。

 まあ来てくれた以上、追い返すわけにもいかない。どうやら俺らは本物の漫才コンクールみたいに審査されるらしい。

 机の上には1から10までの数字が書かれた厚紙、それは細い棒で接着されている。バラエティー番組で観たことあるやーつ。これ手作りかよ。誰が作ったんだ。


「あたしが作りましたっ」

「髪撫でんな思考読むな! え、金城意外とノリ気?」

「そういうわけじゃないけど久奈ちゃんに楽しんでもらおうと思ってねー。久土がアホだからあたしが頑張ったんだよ」

「アホじゃねーし。補習ゼロだったわ」

「そのアホじゃなくて……もういいや、これ終わったらしっかりしてよ」


 ? 何言ってんだ?

 問い詰めようとするも、調べ終わった麺太がピョンピョン跳ねてこちらへと来て騒々しくなったので断念した。


「分かったよ直弥」

「あー良かったな、また一つ賢くなったね」

「ライズグレイモンってカッコイイ!」

「なんでアグモンの派生進化について調べているんだよ!」


 いいから落ち着け。もうすぐ本番だぞ。

 麺太を落ち着かせ、俺も気持ちを整えて集中。

 と、誰かが肩を叩く。後ろに立っていたのは月吉。


「僕を無視しないでもらおうか」

「はいはいごめん。どうぞ楽しんで」

「ああ楽しみだ。対戦相手の君がどれ程つまらないか見物だよ」

「はいはいそうで……なんだって?」


 月吉はドヤ顔している。改めて教室を見ると、席に座っているのは久奈、関さん、長宗我部、勅使河原さん。四人の席にはフダがあるが他の席には置かれていない。

 審査員はあの四人。つまり月吉は審査員じゃなくて、出る側……?


「はあ!? お前も出るの!? なんでだよ」

「僕の方が柊木さんを笑わすことが出来るからさ」


 理由になっていない……。オールバックを整える仕草やめろい。


「それに、ここで良いところを見せればバレンタインの時に……」


 ボソッと呟いたのがハッキリと聞こえた。

 お前も麺太と同様の理由かい! 結局それかよ。なんだよお前帰れよもう!


「皆さん貴重な時間を割いて来てくださっているのでさっさと始めましょうっ。まずは一年四組、月吉純治さんです。でわスタンバイどーぞー」

「ふっ、見せてあげるよ、僕のハイレベルな笑いを。そして自分の低レベルさに憂悶するといいさ」


 高笑いながら月吉はスタンバイの為、廊下に出る。

 クソ、いつもいつも馬鹿にしやがって。俺に対抗して久奈に良いところ見せようと参加を申し出たのが見え見えだ。

 ……あいつには負けないぞ。なあ麺太。


「ユウモンって何? そんなデジモンいたかなぁ?」

「頼むから集中してくれ頼むから!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ