第60話 ギャルのマジレス批評
「まず決めポーズが駄目。無理キモイ。常に腕組んでると思ったら急に湯切りをしてウザイ。あとその服装もキモすぎ。寒くないの? てゆーか内容が寒い。マジうすさむ」
金城の批評が始まる。俺と麺太は正座させられてしょぼーん。
「普通に漫才すればいいのにところどころ決めポーズを入れたら流れが止まるじゃん。麺麺ジェントル麺? だから何?」
それは、その、面白いかなと思って……えっと、あぐぅ……。
「向日葵君の麺類好きとか久土のゲロネタで自分らの個性を出したいんだろうけど邪魔だから。マジいらない。それに最後のくだり、女性客に紳士な振る舞いするところはアンタらがジェントル麺って言いたいだけじゃん。しつこい。あとは」
「な、なあその辺でやめ」
「そもそも今のネタのどこが面白いのよ。麺のことばかりでさ。久土まで麺野郎に成り下がったの?」
は? いやいや何を言っ……っ、て、え……?
「…………た、確かにそうだ」
「うおぉい直弥!?」
麺太がビックリしているが……金城の言う通りだ。……なんで麺が面白いと思ったの俺? 改めて見直すと全然面白くないぞ!?
なんてことだ、俺は気づかないうちに毒されていたのか。麺太と同じ低レベルに成り下がっていたとは……。麺麺ジェントル麺? 何それクソ程つまらない!
「待てよ直弥! 僕らのテイストは麺でしょうが」
「いや冷静に考えれば漫才に麺を絡めるのはおかしいだろ」
「麺だけにスープも漫才もよく絡む。なんつって☆ 麺麺ジェント、って直弥もやれよ!」
「二度とやるかぁ!」
二人で同じ決めポーズ、だから何!? 初見のお客さんポカーンになること間違いなしだ。クソ寒いよこれ。
「つーか服装が寒い! こんなの着るくらいなら大リーグボール養成ギブスの方がマシだわ!」
「ええ!? な、直弥だって最初は大賛成だったじゃないか」
あの時は麻痺していたんだよ。ネタ作りの時には何も疑問に抱かなかったけどなんだこの格好。冬なのに半袖って寒いだろ。ネタも寒いしぃ!? うすさむだしぃ!?
「き、気づけて良かった。サンキュー金城、これは久奈に見せても笑ってもらえないわ」
「……あんさー」
「ま、まだ言いたいことあるんすか」
「久土はさ、久奈ちゃんを笑わせたいんでしょ?」
おう、そうだぞ。あの子の笑顔の為ならなんだってやる。
瞳に情熱燃やす俺を、金城は呆れ顔で見下ろしてきた。
「なんでツッコミ役なのさ」
……へ?
「だって俺、ツッコミに向いてる、から」
「あたし前々から思っていたんだけどー、久土ってツッコミキャラっしょ? ツッコミはボケがないと活きないわけで、じゃあ久奈ちゃんを笑わせるのには不向きじゃん」
……。
「てゆーかツッコミが得意って言うくせに自分一人で笑わせようする時は下手なギャグやモノマネに頼ってばかり。得意ジャンルで勝負しないってどうなのよ」
「……」
……。
……………………確かに!?
「俺は今まで一体何を!?」
「今更気づいたの?」
ツッコミ能力だけは人並みにあると信じて常日頃からツッコミし続けてきた。それなのに久奈を笑わせようと奮起するジャンルはツッコミではなく一発芸やモノマネばかり。
言うなれば、イシツブテがサイコキネシスを使うようなもの。それじゃあ難攻不落の久奈クレセリアはいつまで経っても倒せない。
お、俺は……なんと勝算の低い戦いをしてきたんだ……っ!
「あっ、だ、だからこそ今回は漫才で己のツッコミを存分に発揮しようと」
「で、相方が向日葵君じゃん。これに久奈ちゃんを笑わせられる程のボケセンスがあるとでも?」
!?
「無理だ……」
「うおぉい直弥!?」
金城の言う通りだ。麺太と組んで良しと思った自分が愚かだった。だってこいつ麺のことばかりで正直ボケのセンスがない。麺麺ジェントル麺? 何それ超絶につまらない!
「理解した? 分かったなら向日葵君じゃなくて久奈ちゃんと一緒にいてあげなって。その方が久奈ちゃん喜ぶよ。つーか一緒にいてあげろし」
「で、でも」
「でも?」
「漫才見せるって久奈に言っちゃった……」
「……久土」
金城が俺の前にしゃがみ込んだ。ポンと俺の髪を撫でて、優しく微笑んでくれた。
「久土ってホント馬鹿だね。アー麺」
「助けて金城おおぉ!」
「諦めてスベってきな~。安心して、フォローは一切しないから」
「それのどこに安心しろと!?」
「分かったぞ直弥! 本物の道具を用意してコント風にしてみようっ」
「テメェは黙ってろ麺キチ!」
「そんなLチキみたいな言い方で!?」
久奈と約束したのは三日後。ど、どうしよう……!?




