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第59話 土日のジェントル麺

 ネタを決め終えて練習。

 書いたネタをいざ実際にやってみると変な間が空いてしまったり、相方の台詞も覚えないとツッコミのタイミングが難しい等の問題点が出てきてその都度修正、と真剣に取り組んだ。とにかく時間を費やして十数回はネタを通しでやった。

 かなり頑張ったよ。確固たる決意がある故、投げ出すことなく尽力した。

 朝は七時に登校して放課後は部活生以上に居残って練習に励み、大好きな時オカも我慢したし囲碁部も休んだ。あ、部活休むのはいつものことか。

 そしてコンビ結成から一週間後、金城に見てもらうことに。


「じゃあ、どーぞー始めてどうぞ~」


 金城の間延びしたゆるゆるな声でも緊張の糸がピンと張って顔が強張る。

 ふぅー……大丈夫、ちゃんと練習してきたじゃないか。

 本番を想定した、人前でやる俺と麺太の初舞台。久奈には見せられないので先に帰ってもらった。というかここ一週間は先に帰ってもらっている。それだけ俺の本気度が高いってことですよ。やってやるぜ。


「「はいどーもっ」」

「久土です」

「向日葵です」

「「二人合わせて『土日のジェントル麺』でーす!」」


 いざいかん! 黒色の半袖Tシャツを着て頭に白タオルを巻いた俺と麺太は手を叩きながら教壇の上に立つ。

 教室中央の席に金城が頬杖ついて座り、後方では女子グループが「アホ二人がなんかやってる」とヒソヒソ言って写真を撮ってきやがる。ふっ、馬鹿に出来るのも今のうちだ。


「いやぁ直弥さん、最近寒いですねぇ」

「冬だからなー。こういう日はやっぱり熱いラーメンで身も心も温まりたいぜ」

「でも僕ら麺にはうるさいですよ? なんたって僕らは」

「「麺麺っ、ジェントル麺!」」


 湯切りの動きをして声を合わせる。完璧に決まった。


「皆さんにもラーメンを食べてもらって温まってほしいですね」

「お、いいな」

「ですから僕がラーメン屋の店主をしますから直弥はお客さんをやってくれませんか?」

「おう分かった。……へー、新しいラーメン屋ができたんだ。入ってみよ。ガラガラッ」

「へいらっしゃいラーメンどうぞ!」

「いや早すぎる! いきなりステーキより早い!」

「ああすんません。ウチのお店、語尾にラーメンどうぞをつけるルールがありましてラーメンどうぞ!」

「紛らわしいわ! それメリットないだろ!」

「いっけね、そうだった☆」

「「麺麺、ジェントル麺!」」


 二回目の決めポーズも華麗に決まってテンションがさらに高まり緊張を溶かす。


「いいから早くラーメン作ってくれよ」

「はいかしこまりました。オーダー、ラーメンどうぞ!」

「おー、楽しみだな」

「……」

「……」

「……」

「あの、誰も動かないのか?」

「おかしいですね……ちょ、バイト君、さっきのは語尾じゃなくてオーダーを言ったんだけど」

「ほら紛らわしい! つーかバイトに作らせるなお前店主だろ!?」

「いっけね☆ はいじゃあ少々お待ちください!」


 麺太が麺を湯がき、器にスープを入れたり具材をトッピングする動きをする。

 実際にラーメン屋に足を運んで研究してきた甲斐あって麺太のリアリティあるムーブは完璧だ!


「ラーメンお待ちラーメンどうぞっ!」

「語尾いらないから……でもラーメンは美味そうだ。いただきます、ずるっ、ずるるっ……ん、これは美味い! なるほど醤油ベースですか。麺がモチモチと噛み応えがあってスープにマッチしていますね」

「わぁ~カサブタが剥げそうだぁ」

「聞けよ! 客が褒めているのになんで己のカサブタに心奪われてんだ!」

「あ、そうかそうかすみません。そりゃぁ、ウチのラーメン屋は僕の曾曾曾曾祖父から続く伝統の味ですから」

「それはすごい。ではこのお店って創業何年ですか?」

「七日」

「短い! 何世代も前から続いているのに七日!? 店主日替わりじゃねぇか!」

「あっ、ちょっとお客さんそこ邪魔」

「じ、邪魔って……え、どうしました?」

「ほら女性のお客様が入ってきたでしょ。ウチの店、女性のお客様を最優先に営業しておりますので」

「おお、紳士ですね」

「そりゃそうですよ。なんたって僕達」

「「麺麺、ジェントル麺!」」

「てなわけで女性客が来店した時点で男に人権はない。スープのだし汁になれ!」

「いや過激すぎ!」

「ラーメンへどうぞ!」

「寸胴鍋に入れってか!? ここ人肉ラーメン屋だったのかよ。吐いちゃうわ、おろろろっ。もうええわ!」

「「どうもありがとうございましたー、アー麺!」」


 ペコリと頭を下げて顔を上げる。チラリと見えた、隣に立つ麺太の顔は晴れ晴れと満足した表情を浮かべていた。

 良い顔してるじゃねぇか。きっと、俺も一緒なんだろうな……へへっ。

 やり遂げた解放感、練習通りに台詞を熱込めて言えたことに満足。なんだか気分が良いぜ。






「久土、全然面白くないんだけど」


 金城が冷めた目でズバリと言い放った。表情が死んでおり、全身から溢れるイラついたオーラを出して……えっ?


「な、なんでだよ。すげー面白かっただろ」

「信じられないくらいつまらなかったし。あたしを馬鹿にしてんの?」

「なんかキレてない!?」


 え、え? イライラがカンストした時の顔になっているって! ジト目が怖い怖い怖い!


「時間もらっていい? 駄目な点が結構あるから」


 呆れと怒りを混じらせながら威圧的に舌打ちする金城と、やっぱり時間の無駄だったねと溜め息ついて去っていく女子グループ。

 ……あ、あれぇ? 次回に続く感じ?

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