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第56話 セーブ機能が故障した男共

 新学期早々の外周ペナルティ。やっぱ始業式は受けろと担任に訂正されたので放課後に走ることになった。


「ぜぇ、ぜぇ……し、死ぬ」


 吹きつける風で頬や耳は冷たくなるのに体の芯は熱く火照る。寒いと熱いのルームシェア状態だ。噴き出た汗が冷えて風邪ひいちゃいそう。

 うぅ、クソぉ……何が子供は風の子だ。風属性になった覚えはない。こちとら中学二年生から闇属性だっつーのー。


「お、直弥がやっとゴール。遅いぞいっ」

「お前が速いんだ……」


 既に走り終えた麺太は涼しげな顔で腕をグルングルンと元気溌剌。二十周後でも体力があり余っているのはすげーと思う。彼はただの馬鹿ではなく体力馬鹿でもあるのだ。


「直弥はもっと鍛えないと。あとは食生活を改善しよう」

「麺しか食べない偏食野郎に言われたくない」

「宮沢さんも言っていたでしょ、一日に麺四玉と味噌と少しの野菜を食べなさいって」

「賢治さんは玄米四合だ。麺と味噌と野菜? 要するに味噌ラーメンじゃねーか!」

「あぁん想像したら涎が……部活前に作ってくるよ。じゃあね!」


 そう言うと麺太は全力疾走で校舎へ向かい、あっという間に点になって消えた。食堂に食べに行くんじゃなくて作るという発想は実にあいつらしい。

 つーか今朝の怒りはどうした。コロッと忘れたのかよ。アホか。いやアホでも忘れるな。お前血涙していたじゃんか。


「……俺も部活に行くか」


 手で額の汗を拭いながら渡り廊下の奥、部室棟へと足を運ぶ。


「ういーす」

「お、久土が来た」


 囲碁部、部室。挨拶を返してくれた同級生の長宗我部は一人で詰碁をやっていた。

 それ楽しいの? きっと囲碁が好きな人は楽しいんだろうね。


「……ところでなぜ女子達は固まっているん、あ」


 言うと同時に察した。女子数人と対峙するように月吉が立っていたのだ。眉太の彼はファッション雑誌から飛び出してきたようなポージングで自慢げにオールバックをかき分けて唇を細める。


「怖がらなくていいよ柊木さん。僕が囲碁の楽しさを教えてあげよう」


 まーた久奈に絡んでいるのか。去年あれだけハッキリと拒絶されたのを忘れたのか。お前も麺太も脳のセーブ機能が故障しているんじゃね?


「あ、久土君が来たよ」

「ほら逃げて逃げてっ」


 すると俺に気づいた女子達がキャピキャピ言いながら久奈の背中を押す。特に勅使河原さん、あなたレスラーみたいな張り手で押していますけど!?


「なお君」


 久奈が背中をさすりながらこちらを見る。目と目が合う瞬間~。とてとて、と可愛らしく歩いて俺の背中に身を寄せてきた。


「今の俺、汗臭いぞ」

「ん、大丈夫」


 ならいいんですが。……あの、勅使河原さん、その優しい目は何でしょか。なんか面映ゆい。


「君はいつも僕と柊木さんの妨げばかりするんだね。いい加減にしてくれないか」


 久奈がこっちに来たとなれば月吉もやって来る。

 敵意を露わにして語気荒げる月吉の台詞、言われる度に俺は言い返してきただろ。別に何も邪魔していません。単純に久奈がお前を嫌がっているんだよ。

 ……それと久奈? 俺の匂いを嗅いでいない? 背中から深呼吸の音が聞こえる。気のせいであってほしいんですけどー?


「あぁ柊木さん、どうして僕が主催した囲碁部のパーティーに来てくれなかったんだ」


 そういえばクリスマスに月吉がパーティーをすると提案していたような。


「答えてよ柊木さん」

「今忙しい」


 何が忙しいの? ねえ何をしているから忙しいの!? そして勅使河原さん、なぜニヤニヤ笑っているんだ。今俺の後ろで何が起きている!?


「ちなみに長宗我部はパーティーに参加したか?」

「無論欠席した。月吉以外誰も行っていないぜ」

「おいおい目の前の男子がより一層惨めなんだが……」

「どうでもいいだろ。放っておけよ」


 関心がないのかテキトーに相槌を打って碁石を打つ長宗我部。その向かいの席に勅使河原さんが座って二人は何も言わず碁石を並べ始めた。君ら仲良いね。


「ふっ、全員不参加だったけど僕は気にしていない」

「いや気にしろよ。お前全員から舐められているんだよ」

「結構だ。今のうちにペロペロ舐めているがいい」


 飴玉か。


「君との対話は不毛だ。そこをどいてもらおう」

「だから俺がどいても意味はないって」

「どかないと言うなら僕と勝負だ!」


 またその流れかい。一ヶ月前に完敗したくせして何を偉そうに言っているんだか。


「僕が勝ったら柊木さんに近づかないと約束してもらおうか」


 だから何を偉そうに言っているの!? なんで自信満々なんだよお前。前回の記憶がないのか、あの時ちゃんとセーブしていなかったのかよ!

 もぉ嫌、ホント嫌だ。月吉の相手をしていたらキリがないしメリットもない。もう部活辞めようかな? なあ久奈。


「なお君帰ろ」

「帰りたいのん?」

「ん」


 てことで俺と久奈は囲碁部メンバーにさよならを告げて部室を出ていく。後ろを追って聞こえる月吉の声。


「逃げるんだね。じゃあ僕の勝ちだ」


 ああああああぁ!? 本っっっ当にお前は煽るのだけは一丁前だな! 絶妙にイラつかせるワードチョイスと言い方やめぃ。

 ……三学期早々、麺太がウザかったがお前はそれ以上だ。シンプルにクソ野郎が!

 もう怒った。立ち止まり、苛立ちをこめた腕をしならせてマイダーツを取り出す。


「前回と同じ三回勝負な」

「ふふっ、僕に勝てると思っているのかい」


 その後ダーツと囲碁でボコボコにしてやった。二度と俺に絡むなっ! あと久奈にも!


「すんすん、なお君強いねすんすん」

「匂い嗅ぐのやめぃ!」

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