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第47話 ベタな展開

 久奈がいない。途端に、脳内で『もしかして:はぐれた』のメッセージが表示されて汗がブッワー。


「ひ、久奈ん?」


 大声を出す度胸はないので細々と名前を呼んでみるも返事はナッシング。ジュースやポップコーンを抱えて一人ポツンと……あかん、あかんで久土!?

 周りはイチャイチャカップルばかり、そんな甘々ムードで一人突っ立っているだなんて精神がおかしくなる。

 一人、ひとり、ヒトリ……ひ、一人ぃぃ!? きええぇぇぇ!? 意識が遠のいてきた。孤独は嫌だ嫌だスリザリンは嫌だぁあぁあ!


「はっ!? いやそうじゃねーだろ!」


 一人になったことに病んでいる場合じゃない。久奈を探さなくちゃ!


「久奈ぁ、どこですかぁ……」


 あわわわ全然見つからない。人が多いからはぐれるかもと思ったら本当にはぐれちゃったよベタだよテンプレだよツナマヨに醤油ぐらいベタだよ!

 ど、どうしよう。ナンパされているかも。あの子、俺がいないとすぐ男に絡まれちゃうから……。


「ひぐぅ……久奈」


 怖い、怖いよ。涙が出そう。映画を観る前から違う意味で泣けてきた。


「うわああぁん! どこいるのおおお!」

「ん」

「ぎょええぇ!?」


 いた。真横にいた。いるんかいっ! いるんっっっっかい!


「どこにいたんだ!」

「トイレ」


 あ、ああトイレね。おぉう、うん、うん。おトイレね……。


「だ、黙って行くなよ。俺に『なーお君っ。私ぃ、おトイレ行ってくるねっ。えへへ!』と一言言いなさい」

「一言じゃない」

「なら『えへへ!』だけでいいから」

「私が無意味にほくそ笑む変な人になっちゃう。なお君じゃないんだから」

「さりげに俺をディスるな!」


 でも本当に良かったよ。はぐれたかと思って心臓バクバク汗ダラダラの極限状態だったんだぞ。

 久奈に何かあったら……っ!


「っ、心配したんだからな」

「ん……ごめん。なお君の傍から離れない」


 久奈が横にピタリとくっつく。良い匂いがして、辺りの喧噪は聞こえなくなった。


「お、おぉう」

「映画始まっちゃうね。行こ」

「お、おぉん」

「チケットはお尻のポケット? 取るね」

「あ、あぁん」


 最後のはお尻を触られて感じちゃった声です。











 音楽を通じて出会い、友情を育み、時には仲違いして、少年少女は成長していく。

 結成したバンドの初ライブを控えた時に少女が病で倒れる。少年は落ち込み一度はギターを捨てるも、ここで諦めたら駄目だとステージに立つ。

 音と共に響く想い、遠く離れても、彼らの青春は輝いていた。


「えぐぅ、めっちゃ泣けたわ……!」


 映画はとても面白かったです。ヒロインが倒れたシーンとか涙不可避。ハンカチじゃ足りないくらい泣いた。誰か厚めのバスタオル持ってきて。


「面白かった」

「コラ! またアンタって子は!」


 パッチリ大きな瞳、長いまつ毛、透き通るような肌、で無表情。久奈は淡々と感想を言った。感動大作を面白かったの一言で済ませるなっ。

 泣ける映画をチョイスしたのに久奈の表情を変えさせることは叶わなかった。密かに狙っていたんだが。

 ふ、ふんっ、あなたは感情が欠落しているんじゃありませんこと! ぷんぷんっ。


「俺なんて涙どころか鼻水も止まらない」

「いつものこと」

「俺が普段から鼻水垂らしていると? ボーちゃんか」

「真似してみて」


 突然のリクエストでも幼馴染の頼みとなれば聞きまっせ。

 軽く咳払い、喉の調子を整える。


「どこでもいい。ここは地球の上。怖がらなくて、大丈夫」

「二点」

「出たよ辛口審査。無茶ぶりに応える俺の健気さをもっと評価しろ!」


 ブタのヒヅメのワンシーンだぞ。あの映画ラストが結構ウルッとくるんだぞ。しんちゃん映画大好きっ子の久土直弥です。

 まあいいや。俺のモノマネは二点でも映画は面白いと言ってくれたから満足しているっぽい。たぶん『久奈の評価が上がった』の青文字とピコンピコンと音が鳴っているはずだ。俺のパワプロ脳が止まらないぜ。


「なお君、次はどこに行くの?」


 映画を観終えて時刻は午後六時半。非常に良い時間帯だ。メインイベントの前にご飯を食べましょうかね。


「その前にトイレ行ってくる」

「ん」


 久奈には映画館のエントランスで待ってもらい、俺は男子トイレへとゴー。

 トイレを済ませて手を洗い、手洗い場の大きな鏡で髪のセットを整える。鏡を見たら髪の毛を触るのは男子高校生にとっては当然の行為と言えるだろう。


「まあ俺は意味ないんですけどね!」


 テンション上げて髪のトップを立たせようと奮起するも意味なし。サラサラヘアーは重力に忠実でペッタリと寝てしまう。

 今日は一応ワックスをつけてきたが寝起きと差異ない。はぁ~、なんですかねこの縮毛矯正したみたいな髪は。サラサラしすぎ。シャンプーのCMかい。

 ペッタンコ髪をちょちょと弄ってトイレを出る。お待たせ久奈~、じゃあレストラン行きましょうかね~。






「ちょりーす。君可愛いね」

「一人? 俺らと遊ぼうぜ」


 ……ひ、久奈……?

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