第46話 映画館で買うポップコーンの贅沢感ヤバみ
「なお君も今日カッコイイよ。そのアウター似合ってる」
「この前、金城に選んでもらたー」
ギャル度の高い金城はオシャレ度も高く、そんな彼女に頭のてっぺんから足の爪先までガッツリとコーディネートしてもらった俺の今日の服装は中々に決まっているのだ。のだ。
買った際に「これはクリスマスの時に着なされー」と念を押された。はい着てますよ。
「私のマフラーも舞花ちゃんに選んでもらった」
「あいつは俺らのスタイリストかな?」
長いマフラーを両手に持ってヒラヒラと見せてくる久奈は実際ものっそい可愛いので金城のセンスに感謝ぁ。しゃぁ。
ちなみに今日あいつは女子グループとカラオケフリータイムに興じるらしい。彼氏がいないからこうするしかないんだーっ、だってさ。金城なら彼氏くらい簡単にできそうなのにね。
「似合ってる?」
「おう。むちゃくちゃ可愛いぞ」
あ、今度は噛まずに可愛いって言えた。緊張がほぐれてきた。緊張がほぐれて、キター! うーんテンションは未だにおかしい。
「……んん」
そして久奈も様子がおかしい。マフラーに口元をうずめると小さくピョンピョン跳ねている。
久奈がジャンプするとは珍しい。何やらご機嫌だ。
「んじゃま行きましょか」
「ん」
今日はクリスマスイブ。キリストの降誕を祝うとか様々な概要あるけど簡略! こまけーことはいいんだよ。十二月の二十四と二十五日はイルミネーション見て楽しめばいいって解釈でオッケ~うふふっ。
小ジャンプする久奈と並び、街に繰り出せば二人一組のカップル、カップル、そしてカップル。太陽さんがまだ勤務中の夕刻前だというのに結構な人混みだ。
「すげー。見ろよ、あそこのカップルとか抱き合っているぜ」
「ジロジロ見ちゃ駄目だよ」
まるで部屋にいるかのようにカップルがイチャイチャしている。手を繋ぎ、抱擁し、中には堂々とチューしている奴らも。チューしちゃってますよ! きゃーっ。アツアツっ。
「夜になるとさらに人が増えるのか、っ、うう!?」
「どうしたの?」
「ここを一人で歩いたら死ぬなぁと思って……」
カップルだらけ。一人で迷い込んだら寂しさと虚しさのあまり自我を失ってしまうだろう。
……麺太は今頃補習中か。学校を出る頃にはカップルが急増して、そこを通って……な、南無。
心の中で友に合唱して広場を通過。今からのプランは考えてきた。……母さんよ、言われるまでもなくしっかりとやるつもりだよ。
「人多いけどはぐれるなよ」
「その台詞そのままなお君に返す」
「俺はそれをさらに返す」
「それをさらのさらに返してバリアーを張る」
「そのバリアーを破壊する」
「今日はどこに行くの?」
「飽きたね? 今のやり取りに飽きたよね!?」
いいから行こ、と急かす久奈が俺の袖を前と後ろへ揺する。普段よりテンションが上がってない? そんな気がします。
さて、どうやって久奈をエスコートしようか考えてきました。総思考時間は三時間を超えた。CM飛ばしたら逃げ恥4話まで観れそうな時間量。
「どこに行くの?」
「それはだな……」
クリスマス。盛大に喜び合う日で、俺と久奈は恋人の関係ではないにしろ幼馴染として仲が良いわけで。
高級レストランの最上階でディナー、その後は遊園地で観覧車からイルミネーションを眺め、一流ホテルでワイン片手に一夜を明かす。素敵な思い出になること間違いなし。
「映画を観よう!」
高級レストラン? 遊園地? ホテル? そんなの高校生にはまぢ無理。何万かかると思ったんだ、金銭的に不可能。
は? 悪いかよあぁん!? 別に映画でもいいだろうが! ……俺は誰に怒っているの?
「映画ね。ん、行こ」
「今日はやたら急かすよね。袖引っ張らないでぇ」
「それでもカブは抜けません」
「またそれか。カブは抜けなくてもガブは抜ける調整でよろしく」
「なお君意味不明」
「だから久奈が先に意味不明なこと言っているんだからな!?」
高層ビルへと来た。普段も週末には大勢の人で賑わう大人気のスポットはイブの日となれば来訪者は倍の騒ぎではない。
人がいっぱいいました。すごかったと思います。小学生の作文。
「何観るの?」
「これとかどうだ、ホラー系」
「んーん」
真っ黒でおどろおどろしいポスターを指差すと久奈が首を横へ振って俺の腕をポカポカ叩く。可愛い。
やっぱホラーはNGなのね。本当にこれをチョイスしていたらブブーっと音が鳴って『久奈の評価が下がった』と赤色のメッセージが表示されることだろう。某野球ゲームのサクセス。
「冗談だってばさ~。こっち観ましょ」
チケット発券機でチケット購入番号を入力。観る映画は事前に決めてある&購入済みなのさ。
当日ではチケットを買うのに並ばなくてはいけないし席を取れない場合もある。そうなっては『久奈の評価が下がった』でブブーだ。
ふふっ、そうならない為に事前にオンラインでチケットを買っておいたのだっ。
「なお君がカッコイイ」
「まぁな!」
金城のアドバイスに従っただけ、ってのは秘密にしておく。俺の功績として褒めてもらおう。母さん譲りの見栄っ張りです。
観る映画は青春モノ。高校生の男女がバンドを組み、様々な出来事を経て成長していく甘酸っぱい恋のストーリー。泣けるらしいですよ。最近は自らの醜態を嘆く涙しか流していないので今日は純粋に泣きたいと思います。
ちなみに金城にこれを観た方がいいよー、とオススメしてもらった。俺ってば金城に頼りすぎぃ!
「お、そうだ。ポップコーンとジュース買わなきゃ」
普段ならペットボトルのジュースを持ち込むというセコイことをするが今日はやめておく。
金はなくてもちゃんと映画館で買いたいと思うのは今日が特別な日だから。割高の値段設定も、映画館の売り上げに貢献しようぜの精神でケチったりしない。ジェントルマンだからねっ。
「久奈は何飲む?」
「麦茶」
「田舎のおばあちゃん家じゃないんだから……」
「冗談だよ。なお君と同じの、だと……ミルミルは嫌だから私はアイスティー」
「俺がミルミル常飲してるイメージやめようぜ!?」
あれは母さんが嫌がらせで飲ませてくるだけで俺が好んで飲んでいるわけじゃない。あっ、巷でこの小説はミルミルのステマと言われているらしいよ。小説? 俺は何を言っているんだ?
「にしても映画館も人多いなぁ」
映画を観に来た人はたくさんいて売店には行列。売店ではチケットのように円滑に買うことは出来ないので大人しく列に並ぶ。
待つこと数分、俺はキャラメルポップコーンとレモネードとアイスティーを購入。両手に抱えてニッコリスマイル。わーい、映画館で買うポップコーンってテンション上がるよね。映画館あるある。
「お待たせ~、ひさ……な」
キョロキョロ、辺りを探すも久奈の姿が見当たらない。
「……あれ?」
……久奈、どこ?




