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第44話 マッチョ

 冬休み突入へのカウントダウンが始まった。ふぅ~! 嬉ぴ~!

 テンション上がったので本屋に来ました。時オカの攻略本でも探しましょうかね。どこだどこだ、立ち読みしてやる。


「およ? 久土直弥じゃん~」

「む、その声は金城舞花」

「フルネームで呼ぶなし」

「声低っ!? そっちが先にフルネームで呼んだくせに!」


 あたしはいいのだーっ、と謎理論で堂々と胸を張る金城。

 外出した先で金城と会う確率が高い気がするなぁ。僕らは赤い糸で結ばれているのかもね☆ うーんこの月吉感。キモイなごめんな。


「舞花どしたの……って、うわっ朝昼夕ゲロ男君だ」

「関さん、そのあだ名やめて。あと『うわっ』とか言わないでシンプルに傷つく」


 金城の後ろからクラスメイトの関さんが顔を出す。

 関さんは金城と仲良し&久奈とも仲良し。我がクラスにおいて金城と並び発言力を有する上位カースト女子だ。


「今日は三人で遊ぶって久奈に聞いたぞ。久奈はどこだ?」

「久奈ちゃんはお父さんに呼ばれて帰ったよ~。家族で外食だって」


 ああ、なるほど。久奈パパか……うーん、あまり考えたくない。

 嫌なことは忘れようと目を閉じて唸っていると頭を撫でられた。見なくとも分かる、金城だ。


「すぐに久奈ちゃんのこと聞くんだね。久土は一途だのぉ~」


 俺の髪を撫でつつニヤニヤと笑う金城。なーんすかその笑顔、茶化されている気がしてならないっすね。

 されるがままでいると関さんがニヤつきながら金城の横に並んだ。

 ニヤッと笑うのが最近の女子高生のトレンドなのん? 男子高生がやったらキモイだけですね。試しに俺がやってみよっか?


「うわっ、急にニヤつかないでよ朝昼夕ゲロ男」

「ひくわ~。久土のキモさジャバザハット」


 ほらご覧の反応。

 というか金城おい、キモさを表すのに何とんでもない化物用意しやがる。的確に人が傷つくワード選ぶな。


「舞花はいつも久土君の頭を撫でてるね」

「だって触り心地良いんだもーん」

「確かに久土君の髪は超無駄にサラサラだけどさ」


 関さん? 無駄はまだしも超は余計な一言だと思います。

 神に授けられし唯一の個性なんですよ。しかもハゲ父さんの遺伝を受け継いでいるとなれば将来は失ってしまう恐れがあるんです。育毛業界の躍進を願おう。


「触ったら分かるって~、これはクセになるっ」

「夢中だねぇ。ホント舞花はいっつも久土君の話ばか、もがっ!?」


 何か言おうとする関さんの口を、金城が矢のような速さで塞いだ。

 口を押えられて関さんが息苦しそうにモガモガもがいている。モガモガもが? あらやだ妙にrhythmical♪


「関さん何か言おうとしてなかったか?」

「気にしなくていーよ。それより久土は何してんの」

「立ち読みに来ただけだ」

「ここの本屋、立ち読み厳禁だよ」


 金城が目配せた先には筋肉隆々のマッチョ店員が雑誌を整頓しながらサイドチェストしていた。

 なんだあの筋肉、本屋の店員には求められていない肉体美なんだが!? あの人の前で立ち読みしたら……っ、


「や、やめておくわ」

「それが賢明だねー」

「もが、もががっ」

「あと関さんの口を塞ぐのもやめたら? 関さん懸命に呼吸しようとしてるよ」


 やっとこさ金城の手を引き剥がせた関さんは「ぷぱぁ!」と息を吐いて喘ぐ。

 女子が喘ぐ姿って貴重だと思うのは俺だけでしょうか? とりあえず関さんが窒息しなくて良かった。

 女子二人が「舞花っ、何するのさ」「余計なこと言うな~」とトークして、男子の俺は場違いな気がしてきたので挙手する。


「じゃ、俺はこの辺で」


 女子のキャピキャピな雰囲気に合わせられる程、俺のコミュ力は高くない。すまんの。

 その場を去ろうと踵を返す。すると金城が回り込んできた。


「せっかくだしぃ~、一緒に見て回ろーよー」


 上体を左右へフリフリと揺らして甘ったるい声音。あざとい。


「何を見るんだ」

「それは歩きながら決めよ~っ」


 わざとらしく人差し指を頬に当てて微笑む金城。なんとまぁ小悪魔な口調とムーブですこと。

 普通の男子なら「き、金城からデートのお誘いなのかな、でへへぇ」と浮かれること間違いなし。俺は金城に耐性があるので平気だ。


「どーせ久土のことだから暇なんでしょ」

「へーへー、おっしゃる通りの暇を持て余しなうだよ。でもイケイケ女子二人と共に行動するのは」

「とうっ」


 関さんが割って入ってきた。なぜか敬礼のポーズで俺と金城を交互に見る。


「私は帰るんでご安心を。どーぞ、二人きりでお楽しみくださいっ」


 帰る宣言の後、関さんは口元を緩ませて金城を小突く。

 対する金城、やや苦い顔で関さんの口を塞ごうと手を掲げた。


「だから余計なこと言うなーっ」

「ふふ~ん♪ では後は若いお二人で~!」


 金城の手を躱して関さんは本屋から出ていった。

 残された俺と金城、あと上腕二頭筋と三角筋の美しさをアピールするマッチョ店員。筋肉じゃなく本を紹介しろよ。


「はあ、ホントあの子は……」


 空振った手を俺の頭に乗せて溜め息を吐く金城。

 すいません、普通は自分の頭に置くんじゃないですかね。今日もナデナデ時間が長い。俺の髪じゃなかったらグチャグチャになっているからね?


「え、何どしたの」

「あの子、あたしが久土に好意があるって思ってるの」


 へえー、なんとまあ。


「誰がこんな髪以外取り柄のないアホを好きになるかっての」

「サラリと俺がディスられてる!?」


 誰がアホじゃい! 今回の追試は相当頑張ったんだぞ! どうだ、すごいだろへへーん。追試の前にテストで頑張れよってド正論ツッコミはなしの方向で。


「てゆーかあたしは……」

「んあ?」

「なんでもない。ささっ、一緒に行こうではないか久土く~ん」

「はいはい」


 ま、運命の赤い糸とか大袈裟ではないにしろ何かの縁だ。暇だし付き合うよ。

 筋肉ムキムキの店員がサイドトライセプスを決める横を通過して本屋を後にする。


「デートみたいだね。あ、手を繋いであげよっか?」

「まず俺の頭から手をどけろ」

「それは無理な相談ですな~」

「俺そんなに無理難題言ってます?」

「うーん、歩きながらだと撫でにくい。中腰になって」

「中腰で街中を歩く方が無理難題だわ!」


 結局は金城に従い、俺は中腰になって歩く。

 俺はハンターかな。×ボタン押した時のハンターかな? 剥ぎ取り速度が増すハンターかなぁ!?

 街歩く人から奇怪な視線を向けられる中、中腰の俺とナデナデする金城はショッピングモールへと向かった。結構な辱め! ひえ~! 嬉ぴくない~!


「中腰でのそのそ歩く久土ウケるー。ジャバザハットみたい」

「それやめい」

「久土・ジャバ・ザ・ハット・直弥」

「えげつないミドルネーム! 『・』が何個入ってるの!?」

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