第41話 二組のアホNo.1決定戦
ダーツを楽しんで、軽く卓球したりゲーセンでUFOキャッチャーを嗜んだ。
スポッチャは久奈の格好を配慮して今回は見送った。制服だからね、スカートだからね。俺ってば紳士~。英語で言うと……あー、えっと、ジェネラルマン? たぶん違う。
紳士を英語で言えない馬鹿でござーます。こりゃ今回のテストも赤点かな、あははっ…………は、はは?
「あ、テスト!?」
「ドラマ中に大声出すなや。つーか声を出すな。つーか息するな」
「無呼吸でリビングで寛げと!?」
母さんのドラマ鑑賞を妨げるのは久土家ではご法度。俺の晩飯はミルミルになりました。
ちょっと待って、我が家のミルミル登板率が高すぎない? 今の時代にミルミル売っているお店あるのか。自販機やコンビニで見たことねーぞ。
「んなことより……どうするんだ」
ミルミルを飲み干してゴミ箱へスラムダンク。回転式の蓋がグルングルンと何回転もして吹き飛んだ。それは修理するとして今はテストの方が先決。
今日で期末テスト全教科を受け終えて、来週から答案用紙が返却されていく。赤点の場合は追試が実施され、追試でも合格点を取れない場合は補習を受けなくてはならない。
要するに赤点を取らなければ万事オッケーなのだが、そのボーダーラインを越えられないのがワタクシ久土直弥。俺にとっての赤点は海賊の『赤い土の大陸』と同義なのだ。壁が高いたかーい。
「待てよ? なぜ赤点を取る気でいるんだ。もしかしたら全て赤点回避している可能性だってあるじゃないか」
んだべんだべ、悲観しまくることはない。諦める必要もないべや。
テスト自体は真剣に取り組んだ。勘で選んだ四択問題が奇跡的に全問正解かもしれないし、フワフワと書いた長文の和訳や証明問題が良い塩梅に要点を得ていることだってある。
そうだ、俺は赤点を取っていない。だから追試や補習を気にしなくてええんや!
「事実は小説よりも奇なり、ミラクルが起きるはずだ。あーはっはっは」
「なお君、夜中に騒いじゃ駄目だよ。はいリンゴ」
「しれっと座ってリンゴ剥いているけどいつの間に!?」
月曜日になった。放課後になった。俺は今日返却された答案用紙の右上を見る。
うん、うん、うんうん……赤点のオンパレード。
「駄目じゃん? やっぱり駄目だったじゃん!?」
何が事実は小説よりも奇なりだ。俺の点数が奇だわ、ミラクルに低い点数だわ!
おいおいどうするんだよ、見事なまでの点の悪さに俺の脳内に「ほほぉ、暗記科目すら取れていないのはカスだな」と謎のレビューが投稿されたぞ。
悪魔だろ、これ悪魔がレビュー書いているだろ! そして天使が見て『このレビューは参考になりましたか?』で『はい』のボタンを押している。何の参考になったんだよ!
「直弥……」
隣から沈んだ声。麺太だ。
姿を視認せずとも分かる、彼から発せられる圧倒的な負のオーラ。ピトーさんよりどす黒いオーラだ。
「麺太、互いに点数見せ合わないか?」
「いいよ。赤点が多い方が罰ゲームね」
「内容は?」
「金城さんにモンゴリアンチョップ」
「乗った」
あいつにモンゴリアンチョップしたら確実に反撃を食らう。女子グループによる集団攻撃は不可避、テスト返却で落ち込んだ心にトドメが刺される。
だが戦わなければならない。俺と麺太、どちらがよりアホなのか決める必要があるんだ!
カードゲームのように答案用紙を手に持って睨み合う。切り詰めた緊迫感ある空気、渇いた唇を舐めて唾を飲み、いざ勝負!
「はい俺の勝ちぃぃ!」
「ぐおお負けたあぁ!」
俺の方が赤点の数が少なく、総合点も俺が上。
やりましたよ皆さん、二学期も二組のNo.1アホは麺太に決まりました!
「はい罰ゲ~ム。行ってこい」
「ま、待ってくれ直弥。せめて空中元彌チョップに変えていいか?」
「それ寧ろ難易度上がってない?」
空中元彌チョップなんて今時の高校生が知っているのかよ。
ともあれ麺太は奇声と共に金城へと突撃していった。
「麺流・空中元彌チョップ!」
「は? 危ないんですけどー」
しかし麺太の空中元彌チョップは躱され、即座に女子に囲まれて蹴られまくる。
哀れなるNo.1アホだ。そして俺もNo.2の座を守り抜いたぜ。えへっ。
……いや笑っている場合じゃない。追試決定じゃん。ヤバイんですけどおおぉ!?