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第40話 マフモコ久奈は可愛さもダーツも抜群

 久しぶりの部活は散々だった。月吉がいると台無しなんだよねぇ。


「すっげぇ疲れた……」


 寒々とした空に似つかわしい気温の低さに、巻いたマフラーで口元に隙間を作って息を吐くとぬくい息が唇を暖めてくれた。

 そろそろリップクリーム買わなきゃ。あ、単に唇が乾燥するのが嫌なだけだよ? 誰かとキスするかもしれないって不安じゃないからね。彼女いない歴=年齢のくせにそういった気遣いだけは一丁前の無駄準備野郎じゃないからね!? 画面の向こうのみんな勘違いしないで! え、俺は誰に言い訳してるの? 画面の向こうってなんだよ。


「なお君、どこか寄らない?」


 横に並ぶ久奈が尋ねてきた。

 丁度良かった、リップを買いに……いや、今日はいいや。精神的に疲れたからさっさと寝たい。


「やめとく。もう帰るよ」

「ダーツしよ」

「悪いけどパスで」

「……なお君、機嫌悪いね」

「そうか?」


 ん、と言って久奈がマフラーに顔をうずめる。

 水色のモコッとしたマフラーが久奈の黒髪をしまいこんでおり、可愛さをさらに引き出していた。

 巷で話題のマフモコってやつだ。髪が長い女子限定の技かと思いきや、久奈くらいのセミロングでも発動するんだね。

 巷で高評価な理由が分かった、確かにこれはグッとくる。マフモコ可愛い。きゃわわ。


「月吉君にムカついていたよね」

「まあな。殴りたい衝動をアシタカさんよろしく抑え込んだ」

「……なお君が怒っているとこ、久しぶりに見た」


 隣にいたから辛うじて聞き取れた小さな小さな声。久奈の声はいつも小さいが今のは聞こえるか聞こえないかギリギリで、厳冬に吹く強烈な風の音ですぐに掻き消される。


「自分で言うのもあれだけど俺って全然怒らないからなぁ」


 普段の生活でも麺太の度が過ぎた麺トークや金城率いる女子グループの女尊男卑とか、怒るタイミングは多々あるも、ツッコミを返すだけで本気で怒っているわけじゃない。それは麺太達が友達だから。

 ……月吉は友達じゃないしウザいし、なんか駄目だ。些細なことでイラッとする。


「まっ、気にしなくてよろし。俺が怒っても怖くないだろ」

「んーん、なお君が怒っているところ見たくない……」

「へ?」


 俺が横を向いたと同時で久奈が俺の袖をくい、と掴んだ。

 昨今では手を握られるより袖を掴まれた方がキュンとくると言われていますが俺的にはどちらもキュンキュンします。だからやめてぇ!


「なお君が怒るの怖い」

「俺がキレても大した怒気ないでしょ」

「ないけど怖い。なお君はいつも笑っているから無表情になると……不安になる」

「わあああああぁーい!?」


 久奈がそれ言います? 自分はいつも無表情のくせに!? だったら俺は常に不安じゃんか。毎分毎秒不安いっぱいだよ。ストレス過多で胃に穴が空くわ!


「だからあんまり怒らないでね?」

「月吉の前では無理だ」

「私も月吉君は嫌い。しつこい」

「あれは一種の病気だから仕方ない」


 あのポジティブすぎる性格はどういった環境で培われたんだろうね。自分に不都合な言葉は聞こえないor良い風に解釈する耳はすごい。政治家に向いているよ。


「そもそも俺が怒るのは麺太や月吉くらいでっせ。久奈に怒ることはない。今までそうだったろ」

「……」

「え、何その無言。過去に経験あり!?」

「小学校の頃」

「……小三より前?」

「ん」

「じゃあ覚えていないっす」


 自我に目覚めたの小三だから。それより昔の出来事は嫌な思い出しか覚えていない。犬に噛まれた時とか芋掘りジャイアントスイングとか。

 まあ小学生の頃に怒ったのなんてノーカンだノーカン。若気の至りなのさ~……って、あれ? 久奈どうした?


「やっぱり覚えてないんだ」

「お、おう?」

「ふーん……」


 な、なんだよその意味深な感じ。

 機嫌を損ねたのか、久奈はそっぽ向く。けれど袖は掴んだまま離さない。


「教えてくれよ」

「教えない」

「なんでだよ」

「ツーン」

「出たよ自ら発するツーン!」


 久奈がツーンとしてマフラーで口元を隠す。

 その動作むちゃくちゃ絵になるからやめろ。グッときてキュンとして心がブッワーだ。俺はジュニアか宮川ですか?


「教えてよ」

「教えない」

「うぐぐ」

「ダーツ行こ」

「行かない」

「行こ」

「……行か」

「行こ」

「食い気味!」


 そっぽ向いたまま袖をくいくい引っ張ってくる。俺が行くと言うまで延々とループするやーつだ。


「行こ、ねえ行こ。なお君行こ」

「わ、分かったよ俺が折れますぅ!」


 だから徐々に近づいてくるのやめておくんなし。ドキドキしちゃうって! 袖くいキュンキュン。


「なお君」

「行く、行くってばっ。今日はとことん遊びましょ!」

「ん」


 お、久奈がこっちを向いた。もしや笑っ、てないよね~。知ってた~。

 ……俺が覚えていない昔の記憶。久奈が笑わなくなった理由と関係しているのかな……。


「月吉君に邪魔されてハットトリック逃した。鬱憤を晴らしたい」

「それが本音かーい」

「なお君ぶっ倒す」

「やってみやがれ」


 その後ラウワン行ってむちゃくちゃ負けた。やっぱ久奈強い!

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