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第38話 久土VS月吉 一回戦

 『月吉が勝負をしかけてきた!』と俺の脳内にメッセージが流れた。たまらず聞き返す。


「えーと、勝負をする意味が分からないんだが」

「僕が勝ったら金輪際柊木さんに近づかないと約束してもらおうか」


 無視かーい。


「じゃあ月吉、君。月吉君が負けた時のペナルティは? 君も負けたら久奈に近づかないのか?」

「勝負だ!」


 無視かーい! なんだこいつ!? 言語を会話のツールとして活用する気ゼロか。

 ……俺も月吉は苦手だ。目の敵にされているのが癪だし、久奈が嫌がっているのに無視しやがって。一方的すぎるんだよ。


「僕に負けるのが怖いのかい?」


 煽ってくるなぁ。こういうところもウザイ。

 ……相手はミミック、逃げられない。おとなしく勝負を受けよう。






 かくして始まってしまった久奈を争ってのバトル。囲碁部の面々が見守る中、俺と月吉は対峙する。


「勝負は二回。一回戦はダーツ、二回戦は囲碁だ」


 月吉が勝負の説明をする。両腕を組んで自信満々な態度だ。彼の溢れんばかりの強気な姿勢にはある意味感服。


「質問いい?」

「構わないよ」


 あ、やっと会話が出来た。やっと俺の言葉を返球してくれた。


「二回勝負だと一勝一敗の引き分けになる場合があるんじゃね?」

「珍しくまともなことを言ったね」


 だからなんで煽るのぉ!? さすがに怒りますわよ。滅多に怒らない俺が激おこぷんぷん丸だぞ。死語だぞっ。

 苛立つ俺を余所に月吉は腕を組んだまま考え込んでいる。

 と、何か閃いたのか優越感に満ちた表情でこちらを見下す。意地悪く歪んだ嘲笑が俺をさらに苛立たせた。ムカ着火ファイヤー。


「三回戦を設けよう。内容はルックス対決だ」

「顔ってことか」

「僕の圧勝だけどね」


 ドヤ顔を浮かべてオールバックの髪を指で梳く月吉。

 ちなみに月吉はナルシストだ。勘違い、偉そう、話を聞かないに加えてナルシストってすごいね、ムカつく要素のオンパレードやでぇ。


「ハンサムな僕と柊木さん、あぁ美男美女の組み合わせだね」


 そう言うと月吉は久奈へウインクを送る。当然、久奈は顔を逸らす。ウインクて……リアルでする奴いるのかよ。

 あと言っても無駄だから口には出さないだけで、お前別にカッコ良くないからな。オールバックと長い後ろ髪のヘアスタイルが似合ってなくてトータル中の下だよ。その太い眉毛整えて出直せ。


「残念だったね、僕の勝ちは揺るがないよ」

「……言うのもダルイんだが、月吉君が自信のある種目? で勝負するのはフェアじゃないでしょ」

「おいおい久土君、自分がブサイクだからってクレームはやめてくれよ」


 ブチ。激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム。


「ウゼェ。もうそれでいいよ」

「あ、なお君怒ってる……」

「何か言ったかい柊木さん?」


 いいからさっさと始めるぞナルシスト野郎。


「逃げないことだけは褒めてあげるよ」


 完全に俺を見下した目に、怒りが沸々と煮えたぎっていく。

 ホントいちいち癇に障る奴だ。ベストコンディション時の麺太ぐらいムカつく。夏休み前、暑い中登校した俺に激熱担担麺を食べさせてきた時の麺太ぐらい殺意が沸いた。


「さっさと終わらせてあげるよ。一回戦を始めようか」


 月吉は薄ら笑いを浮かべ、悠々と歩いてハウスダーツを手に取った。俺も気合十分、怒り十二分。マイダーツを手に持つ。

 一回戦、種目はダーツだ。


「コークするか? ジャンケンでもいいけど」

「コーク? 僕らは未成年だ。コークハイは飲んではいけないよ」


 ちっげーよ。投げる順番を決める方法のことだよ。プロの試合では大抵このセンターコークが採用されているんだ。知らないなら教えてやる。


「コークってのは互いに一投してより中心に近い方が先攻を」

「あ、柊木さんとはお酒を交わしたいな。僕らが大人になったらバーに行こうね」


 だから話聞けよ! なんだお前、ホントなんだお前!? 俺をどこまでイライラさせるつもりだ。絶好調の麺太を超えるウザさだよおい。


「クソ野郎が……いいからこっち向け、ジャンケンで先攻後攻決めるぞ」


 ジャンケンぽん、勝った月吉が先攻を取った。

 ジャンケンに勝ってドヤ顔した月吉がこれまたウザかったとさ。きいぃ!


「勝負はゼロワンな。501でいいか?」

「見せてあげるよ、僕の実力を。柊木さんも惚れることだろう。あ、もう既に惚れていたね」

「いいから投げろ!」


 月吉が久奈にウインクしてスローラインに立つ。しつこくアピールするので長引いたがやっと勝負が始まる。

 月吉は右腕を垂直に構え、ダーツボードを見据える。腕を曲げ、力任せにリリースして矢を放った。

当たった先は、壁。駄目じゃねぇか!


「今のは肩慣らしさ」


 続いて二投目。肘がブレブレの状態でテイクバックし、投げる。


「ほう、16か。ふふ、高得点だ」


 そうでもねーよ。マジでしつこいから早く投げろ。いちいち久奈にアピールすんな。


「そりゃ! ……4か」

「4のダブルだな」

「ダブル? 久土君は何を言っているんだ」

「あああぁウゼェ! なんでルールも知らないのにドヤ顔していたんだよこいつ!」


 ろくにルールも知らない種目で勝負する月吉の思考はどうなっているんだ。なんであれ程自信があったんだよ。あああイライラする!


「合計20点か。ふふ、好調なスタートだ」


 最初のラウンド、月吉は24点。

 次は俺の番だ。ボードと平行になるよう右足をスローラインに合わせて右足に体重を乗せる。


「お手並み拝見といこうか。久土君程度に僕の20を超えられるかな?」


 ……ふーっ、落ち着け、深呼吸するんだ。浅い呼吸は視界を狭めるって三月のライオンが言っていた。

 苛立っては駄目、ダーツとは普段通りの決まったフォームで投げるからこそ安定するんだ。

 動揺を寝かせ、心を落ち着かせ、目を開く。一投目を放てば見事ど真ん中、ブルを射抜いた。


「なお君ナイスブル」

「サンキュー久奈」


 二投目。普段と変わらぬテイクバック、リリース、フォロースルーで狙い通りのブルを射抜く。やったぜ。

 三投目は中心から逸れて8に入った。ハットトリックのチャンスになると気張って手元が狂う、ダーツあるあるである。


「おし! 108だ!」


 動揺は完璧に拭い取れた。やっぱ平常心だな。

 チラッと久奈を見る。目と目が合い、久奈は胸元で手を振ると声に出さず「なお君さすが」と言ってくれた。それ見て自分の口角が上がっていくのが分かる。えへへ。


「待ってくれ」


 喜ぶ俺に水を差す奴。月吉だ。不満そうに顔をしかめて俺に詰め寄ってくる。


「今のプレーで一つ尋ねたいことがある」

「なんだよ」

「ブルとは一体? 何点なんだい?」

「勝負にならねーよ!? ルールブックから出直せ!」


 一回戦のダーツは俺の圧勝で終わった。

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