表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/150

第35話 テストが終わった、は二つの意味を持つ

 教卓の前に立つ教師が「そこまで」と言い、後ろの席から答案用紙が集められていく。五日間に及ぶ期末考査が終わりを告げた。

 途端に教室内は解放感が満ちて和みムード。誰もかれもが肩の荷が下りたと言わんばかりに息を吐き、級友と共にやれ大変だったとかマジヤバイ~とか言って和気藹々とする。

 その中で、俺は机に頬をぺたぁとくっつけてメランコリーに沈んでいた。


「終わった終わった、こりゃ完全に終わりましたわ……」


 脳が指示していないのに口が勝手に嘆く。

 俺のお口よ、言わなくても分かっているよ。今回の期末考査は、完全にヤバイ。

 まあ土日もあるしぃ? 時間はたっぷりあるじゃんヌダルク~、と余裕ぶっこいて全くテス勉をせずに迎えたテスト初日はボロボロだった。

 二日目も三日目も四日目、そして今日の最終日も。答案用紙に満足いく記述は出来ずに試合終了のチャイムが鳴って今に至る。


「オワタオワタ、これはオタワですわ……」


 隣の席からも絶望の色濃い嘆きが聞こえてきた。隣、つまり麺太。彼もまたノー勉で試験に挑んだ憐れなアホなのだろう。

 白目を剥いて口から舌と涎を出して机に沈み込んでいる姿は相当にキモく、同時に俺にとっては鏡のような存在なのだなと思った。俺も今こいつと同じ顔しているんだろうな……。


「なあ直弥、赤点を取ったら追試があるんだ」

「おう……」

「その追試で合格点を取れなかったら補習だってさ」

「だな……」

「補習は二十四日にある。イブの日だ」


 その言葉に、俺は口を閉ざす。言った本人も白目のままブルブル微振動して黙り込んでしまった。


「……」

「……」


 このまま追試を受けても結果は見えている。補習は不可避だ。

 となればクリスマスイブという、一年間で最も素敵な一日の大半を学校で過ごすことになるわけで……。


「「嫌だああああああぁ!」」


 同時に絶叫&発狂する俺と麺太。

 テスト終了に浮かれていた教室は騒然となる。二組が誇るアホ二人が真っ青な顔で唾液を飛ばし合いながら痙攣する様はキモくキモくておどろおどろしいよね。


「そんなのあんまりだよ! 世間では恋人がイチャイチャしているのに僕らは補習だなんて!」

「補習が終わって学校を出たら夕方、街中はカップルだらけの甘々ムード。その中を通って帰宅しろと? 拷問だよ果てしなく拷問だよ殺す気か!」

「直弥ぁ」

「麺太ぁ」

「「うわああああぁん!」」


 俺は両目から涙を流して口から唾液を垂らし、麺太は顔面蒼白で血涙して唾液をドバドバ垂らし、俺らは互いを慰めるように抱擁するとウォンウォンと泣き喚く。

 教室が歓喜と安堵に満たされていく中で、俺ら二人だけは絶望に打ちひしがれていた。


「久土うるさーい」

「痛いっ」


 金城に頭を叩かれ、そのまま撫でられる。


「人がテスト終わった喜びに浸っているのに邪魔しないでー」

「ああそうだなテストが終わったよ、違う意味でな! 秀才に俺らの気持ちは分からないだろう」

「うっわ久土が引くぐらいキモ~イ」


 金城は呆れて目を細めるが撫でる手は継続したまま。加えて「今回は簡単だったじゃん」と煽ってきやがった。

 はぁあん? テスト楽勝でした発言ですか? 然程テス勉をせずとも学年で十位を取るあなたに言われても嫌味にしか聞こえませんわよっ!


「大体な、お前が勉強を教えてくれなかったせいなんだよ」

「土日も久土の部屋に行ったじゃん」

「もれなく全て卒アル見て雑談して解散だったよな? 何一つとして勉強しなかっただろ。だけど一応は勉強会と銘打って集まったからなんか勉強した気になった俺は何も勉強しておらずなんだよ!」

「久土の怠慢さが悪い」

「おっしゃる通りです。ぐはっ!? 結局自分が悪かった!?」


 ああそうだよその通りだよ。不出来な頭の癖に対策しない俺が全面的に悪いですよコノヤロー。誰がどう見ても俺自身が招いた結果、じごーじとくだ。


「てゆーかまだ追試があるのに補習受ける気満々の久土ちょーウケる。写真撮っていい?」

「なんの記念撮影? 惨めな俺を撮ってどうするんだよ」

「あらゆるSNSに投稿して、#アホのタグつけてみんなで嘲笑う」

「現代的且つ性格悪い趣味をお持ちですな。つーかいつまで頭撫でていやがるいい加減にしろ」

「確かに落ち込んでいる久土の髪の触り心地イマイチ。テンション上げてー」


 無茶言うな。純愛映画を観に来て席の前後左右をカップルに囲まれたらテンション上がるか? それと同じだ。

 惨めに補習を受けている間に世の中では恋人達がイチャイチャしてリアリア充充していると思うと超虚しいんだよ。

 ああぁもっと勉強すれば良かった。と、見事なテンプレで後悔先に立たずの心境に涙が止まらない。死にたいくらい悲しす。


「まーまー、結果はまだ分からないじゃん。あたしは今回も十番以内に入っているだろうけどー」

「嫌味言いやがって……って、やけに麺太が静かだな」

「向日葵君は気絶したよ、結構前に。今は呼吸も止まってる」

「もっと早く言えよ!? め、麺太あああぁ!?」


 机に突っ伏した状態で灰色になった麺太。彼はそのまま二度と動くことはなかった……。






 嘘です、食堂からラーメン持ってきたら復活しました。


「やっぱり麺は美味しいっ」

「お前すごいな」


 学食のラーメンで蘇生する奴とか歴史上初めてじゃないか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ