第34話 二組の馬鹿トップ2
テスト準備期間。君らは学生なんやから部活ばかりせず勉強に集中せなあかんで、という期間を指す。
準備期間に入ったことだし、本腰入れて頑張らなくちゃな~。……と思っていたらテスト三日前である。
「ヤバイよヤバイよ、来週にはテスト始まるよ嘘だろ怖いよ時のムーブが速すぎるよ……!」
麺太が頭抱えたまま項垂れて、ブツブツと呟いて事の深刻さを嘆いている。
「アホだな~。ちゃんと準備しておけよ」
「直弥はちゃんとやっているの?」
「マジヤバイ果てしなくヤバイ、ゲームばかりしてテス勉全然やってない終わったわこれマジ詰んだ」
かく言う俺も麺太と差異なく、絶望に打ちひしがれている。
テスト勉強をほとんどやっていないのだ。ゲームソフトで例えると、説明書をざっと読んだ程度、ゲームソフトを起動すらしていないような状態だ。例えじゃなく現実ではゲーム起動しまくってゲームしまくりだったけどね。ははっ。
……笑っている場合か。マズイ、これは本当にマズイ。
クラスでNo.2のアホと呼ばれる俺がノー勉で期末考査を迎えたらどうなるかは想像容易い。赤点だ。
「みんな勉強してる?」
「もう全然してないっ。マジヤバイって~」
「私もだよ~」
現在、教室では女子達がオススメのスイーツを語るノリで勉強していないアピールをしている。キャピキャピと微笑んで大袈裟に手を振り、羽根よりも軽いヤバイを連呼して、はあ?
「おい、麺太」
「だね、直弥」
聞き捨てならない。俺と麺太は互いの名を呼ぶと席を立つ。本当の絶望を知る俺らはシンクロ状態だ。
二人並んで女子グループへと進軍し、怒りを声にして吠え叫ぶ!
「なめんじゃねぇぞ! 本当は勉強しているくせに!」
「僕と直弥はガチで何もやっていないんだよ。テスト範囲すら把握していない無知の無知のむっちむち!」
「因数分解は?」
「分からん!」
「九九は?」
「正直怪しい!」
「そう俺らは」
「アホの極み男子」
「「げへればばばぁ!」」
俺と麺太は目ん玉を飛び出して発狂する。世界でも戦える高水準のキモさに女子達は悲鳴をあげて逃げていく。
「きゃあ!? クラスの馬鹿トップ2!」
「シンプルにキモイ! いやぁ!」
「朝昼ゲロ男の喉が動いている。嘔吐する兆しよ、緊急回避して!」
おい最後の奴! 対モンスターみたいな言い方はなんだ、俺はギギネブラか! 本当にこの場でゲロ吐いてやろうか!?
ちっ、勉強していないアピールしやがって。どうせ君らはテスト当日も「全然勉強してない~」とか「終わった終わった、今日は捨・て・ま・し・た」とか言うんだ。
本当に終わっている奴はそんなこと言わない。多くは語らず白目を剥くんだよ。実際に中間考査の俺と麺太がそうだっただろ?
「ちょっと久土、みんな怖がってるじゃん。やめな~」
女子達が金城を連れて戻ってきた。
金城は険しく鋭利な視線で睨み、それに乗じて後ろにいる女子も声を荒げる。
「そうだそうだ、久土君キモイ!」
「私達に八つ当たりしないでよ」
「ホラー映画で最初に死にそうな顔」
「最後に言ったの誰だぁ!?」
誰が最初に死にそうな奴だって? 誰が「幽霊なんているわけないだろ。向こうの部屋に行ってみようぜ」と言う奴だって!?
言い返そうにも相手は金城率いるクラスで発言力のある女子グループ。多勢に無勢、女尊男卑のアウェー感に気圧される。女子強し。あ、喧嘩売る相手を間違えた。
「恐竜映画で一番初めに食われそうな顔のくせに」
「デスゲーム系漫画で最初に脱落する奴みたい!」
「限定ジャンケンに負けて地下で重労働してそう」
全部最初にやられているじゃねーか。もれなくだ、もれなく全部最初の脱落者だよ!
ヤバイ、女子の勢いが増していく。なんとかしなくては。
「直弥、僕に任せて」
一歩前に出る麺太。そうだ、お前がいた。さあ言ってやるんだっ。
「やいやい君達、僕のマイフレンドを馬鹿にするな!」
僕のマイフレンドは訳すと僕の僕の友達だけど今は触れないでおく。その調子で反撃だ。
「うわぁ、向日葵君だ。キモイ」
金城が顔をしかめて嫌悪を色濃く浮かべ、続けて女子達も悲鳴をあげて一歩退いた。
「マジキモイ」
「久土君よりキモイ」
「AからEの五段階で評価するとしたらSランクでウザくてキモイ」
酷くね!? 俺の時とは比較にならない嫌悪感を放出しているよ。麺太が可哀想だ! だ、だって、
「な、なんだよキモイって言い過ぎだってばよ!」
ほらもう涙目だもん。多人数から批判されて強がりながらも泣きそうになっている小学生みたいだよ……。
恐るべしクラスの上位カースト。反撃の隙すら見せてくれない。
つーかイジメだろこれ。そこまでキツく言わなくてもいいじゃんか。俺らが何をしたっていうんだ。何もしていないぞ、勉強もしていないよっ!
「向日葵君、この前食堂でおばちゃんに麺の湯がき方を指導しててキモかった」
「水筒に豚骨スープ入れてこないで。教室が豚骨臭くてすっごい嫌」
「麺をこねている動きしながら私達の体ジロジロ見てくるの本当にやめて。マジで訴えるよ」
「う、うわあぁん僕もう死にたいおおおおおぉ!」
麺太は号泣して教室から飛び出ていった。それでも収まらない女子の麺太に対するクレーム。
……うん、麺太が全面的に悪かった。そりゃキツく言われて当然だよな。