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第32話 いつか必ず

「あらら、久土がサツマイモ掘って嬉しそうに笑ってるー」

「芋掘り行事の時だな。この後マリオみたいにジャイアントスイングしていたらツルが引き千切れて民家の窓ガラス割ってしまった」


 結局、俺も金城の横に座ってアルバムを見ることにした。

 たまには思い出を振り返らないとね、定期的に見ないとね。ザ・言い訳。


「この写真は? 号泣してるけど」

「校庭に犬が入ってきたんで授業抜け出して会いに行ったら執拗に追い回された挙句足を噛まれた直後」

「あはは、久土って小学生の頃からアホだったんだねー」


 同感だ。そうだよアホだよ。

 にしても、嫌な思い出ってのは脳に刻まれているものなんだな。写真をパッと見ただけで当時の記憶が鮮明に思い浮かぶ。

 他にも飼育小屋でムツゴ○ウさんの真似してニワトリを執拗に愛でていたら糞をされたり、学芸会の本番中にキャプテン○メリカごっこでシンバル投げて演奏を台無しにして校長から激怒されたり、まあ色々と俺のアホっぷりが顕著に表れた時代だ。酷い思い出ばかりぃ!

 黒歴史にも似た恥ずかしい記憶を思い出して悶える俺を尻目に、金城は遠慮なしにペラペラとアルバムを捲っていく。


「この頃から久奈ちゃんと一緒なんだねー」

「まあな」


 ほとんどの写真で俺と久奈は一緒に写っている。

 芋掘りの時も隣にいて、糞まみれの服で泣く俺の横には呆れ顔の久奈、怪我した俺の足を久奈が泣きながらも必死にタオルで覆い、シンバル持ってはしゃぐ俺を膨れっ面で注意する久奈。

 そう、俺の傍にはいつも久奈がいた。


「思ったんだけどさ、久奈ちゃん普通に笑っているじゃん」

「……ああ」


 笑っているだけじゃない。呆れ顔や心配そうな表情、写真に写る久奈は喜怒哀楽で溢れている。中でもニッコリ笑う姿は輝いて見える。

 今見ても素敵だ、あの頃の久奈の笑顔は……。


「そうさ、昔は笑っていたんだ」


 俺はアルバムをめくって四年生のページを開く。

 そこには笑うでもなく悲しむでもなく、無表情の久奈しか写っていない。今と同じ、表情に色がない。


「三年生と四年生の間に何かあったの?」

「知らない。だから困ってる」


 ミルミルを二本立て続けに飲んで腕を組む。うんうんと唸り考えるのはあいつのこと。

 久奈が笑わなくなったのには理由がある。俺は全く覚えていないけど、たぶん原因は俺なんだろうな……。


「だからこそなんだ。俺のせいで笑わなくなったのなら、俺が久奈を笑顔にしなくちゃいけない。笑顔にしてあげたい」


 両乳首に洗濯バサミを挟んで変顔して一発芸やモノマネ、ゲロ吐いてでも、どんなに惨めで無様になろうとも俺は諦めない。あいつの笑顔を取り戻してみせる。

 何より、俺がもう一度見たいから。このアルバムに色褪せず残る、久奈の満面の笑みを……。


「いつになったら笑ってくれるか分からないけどな、はは……」

「久土……」

「でもいいんだ。どれだけ時間がかかってもいい。俺は決めたんだ、久奈の笑顔を取り戻すと」


 いつか叶えてみせる。遠い記憶、俺らが幼い頃、あいつが俺に見せてくれた最高の笑顔を。

 だから俺、頑張るよ。


「神妙なところごめん、別に久奈ちゃんは今も普通に笑っているからね」

「そうなんだよなあああああああぁ!」

「うわ急に大声出さないでよ」


 そうなんだ、そうなんだよ!

 久奈は笑わなくなった、ってのは少し違って……金城やクラスの女子と話す時、あいつは笑っている。その姿は幾度となく観てきた。

 別に感情を失ったわけじゃない。ただ俺に対して表情を見せることがなくなっただけ。


「なんで俺だけ!? なぁんで俺には笑ってくれないの!?」


 どれだけ必死になってギャグを放っても久奈は頑なに無表情のまま。

 久奈は……俺には笑顔を見せてくれない。俺を見て笑ってくれないんだ。


「金城には微笑むくせに……っ! なんだよ! 金城ズリーよ!」

「え、あたしのせい~? それは冤罪じゃない?」

「ズルイもん! 久奈のスマイルを拝めるお前が羨ましいわっ!」

「だから大きな声出さないでー。セクハラで訴えるよ」

「セクシャルハラスメント要素あったか!? それこそ冤罪だろ!」


 クソおおおお、なぜだ久奈よおおぉ! 俺が何をしたって言うんだ!? 全く身に覚えがありません! 嫌な思い出はこんなに覚えているのに久奈が笑わなくなった理由は覚えていませぇん!


「絶対にいつか笑わせてみせる。それだけの為に俺は生きている!」

「健気だね~」

「てことで金城、なぜ久奈が俺には笑ってくれないのか聞いてくれないか」

「嫌だ♪」

「うおぉい!?」

「あ、久土がプールサイドで倒れている写真がある。これが潜水五十メートル挑戦で溺れたやつっしょ?」

「それ中学のアルバム! まだ見るのか!?」


 その後も二人でアルバムを閲覧し、満足した金城は帰っていった。


「バイバ~イ、また来るねっ」

「やっぱり勉強しなかった……」

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