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第28話 説教シーンは見せないつもりが

 スイパラ満喫後は久奈とダーツを嗜んで帰宅。今日の晩ご飯はエビフライ、の尻尾とタルタルソースのみだった。


「逆に惚れ惚れする程の残飯だな……」

「残さず食えや」

「エビフライの尻尾残したくせに語るな!」


 仕方なしにエビフライの尻尾で白米を食らう俺の傍らを風呂上がりの父さんが通る。頭頂部が見事にハゲているなぁ……。

 実父の悲しい頭皮を嘆いて黙々と食べていると、母さんが訝しげに話しかけてきた。


「なんや、今日は晩飯に文句言うてこんのか」

「ケーキ食ってきたから腹いっぱいなんだ。残飯でも我慢出来る」

「ちっ、イジメ甲斐のない奴め」

「自分の息子をイジめるな」

「父ちゃんまたハゲたな~。その荒んだ毛根見てると田舎の畑を思い出すわ」

「自分の夫をイジるな!」


 とまあ家族団欒?を過ごした後、自分の部屋に戻ってゲームをしていたら電話がかかってきた。画面には『Maika』の文字。出会い系の類とか身構えたが、あぁなんだ金城か。


「はいこちら勇者ナオヤ、水の神殿を探索中です」

『よっすよす久土、さっきぶり~』


 ボケをスルーされて耳元からは金城の弾んだ調子の声。つい先程まで一緒にいたのに何か用があるのかね。


『いやさ~、改めて感謝の気持ちを伝えようと思ってさ』

「もういいってば」

『そうはいかないよ。久土には世話になったからのぉ』

「なら今日のバイキングを俺に奢らせるな」

『それはそれ~っ』


 悪びれた様子を微塵も感じさせない軽快で張りのある声音にげんなりなう! 電話でも金城の闊達であざといノリが伝わってくるっす。


『それでね、今度ちゃんとお礼がしたいな~と』

「お礼? んーとぉ、あたしがぁ久土の頭をナデナデしてあげる~っ! とか言うつもりかね」


 金城のあざとい口調を真似てみる。結構上手くね? ドヤ?

 俺が一人ドヤ~んと微笑んだ直後、携帯電話の向こうでピリッと空気が変わった。


『は? 何それあたしの真似? ちょーウザ、全然似てないんですけど』

「怖っ!? 声が低い! 怖いからやめて!」


 なんだこの子!? 番犬が敷地内に侵入した人間に対して威嚇するような低い唸り声だったぞ!


『次真似したらデコピンだかんね、女子全員で』

「倒置法でとんでもない条件付けするな! 確実に俺のデコがへこむだろうがっ」

『じゃあ女子全員で罵倒に変更』

「精神的にへこむわ!」


 分かった分かった声真似はもうしません! ですから女子の大群を引き連れるのは勘弁してください。数の暴力はあかんで。


「話戻そうや。お礼って何だよ」

『んーとぉ、今度っ一緒に服を見に行こーよ~』

「服?」

『あたしが久土の服を選んであげる~っ。女子高生にコーデしてもらえるなんてありがたいっしょ』

「わーお上から目線」


 自分にどれだけの価値があるのか分かっている奴の発言だった。現役女子高生ってそんなに偉いのかよ。……うん、男子高生よりは遥かにランクが上だな。脳裏にスッと浮かぶ『女子高生>>>>男子高生』の図。


『そゆことでオッケー?』

「まあいいけど。ファッションのセンス○を期待しております」

『任せるでやんす』

「おう。じゃ、また明日」

『あ、久土、待って』


 まだ何か言いたいことでも? バイキング奢る詐欺の直後だから裏があるのではと僕チン警戒しちゃうぞ。


『……ありがとね』

「もういいってば、何回言うんだよ。別に感謝される程のことは」

『ううん、すごく嬉しかったの。今日、久土が怒ってくれて』

「っ、あー……見てたの?」

『気になって久土の後を追ったら、ね』


 先程までの軽快な口調ではなく静かで真面目な、金城らしくない声の意図を察した俺はベッドに沈み倒れると無駄にサラサラの髪を掻きむしる。


「見られていたのは恥ずいな……」


 ……それは、今日、昼休みのこと。






「西大路橋君、ついて来い」

「あ、ああ、いいよ」


 昼休み、西大路橋君を連れて特別棟の美術準備室へと行った。誰にも見られないよう場所を選び、俺はどうしても言いたいことがあった。


「金城は許したけどさ、やっぱり俺としては納得がいかない」

「ど、どういう……?」

「お前が謝って金城が許してはい終わり、なんて許せねぇよ。……あいつがどれ程怖い思いしたと思っていやがる」


 簡単に言ってしまえば、俺は激怒していたのだ。


「事が大きくなると周りに気を遣わせてしまう、だから金城はお前を簡単に許した。笑ってニコニコしてさー……でもあいつはな、怖い思いをして辛い思いをしたんだ。それなのに笑ってお前を許した。だから俺は許せない」


 金城本人が許したのだから第三者の俺がとやかく言うのは余計なことだとは分かっている。でも許せない。怒りが込み上げてくるんだ。


「金城は優しくてすっげー良い奴だ。俺はそれを知っている。だからあいつの辛そうな顔が、周りに気遣わせないよう隠して無理している姿がたまらなく嫌だった。辛そうな顔をさせたお前が、すっげぇムカつく!」


 身勝手な怒りに任せて俺は西大路橋君を叱り散らして怒鳴り散らした。自分でもどこを向いているかも分からずに無茶苦茶に叫んで叫んで、西大路橋君の胸ぐらを掴んだ。


「ひ、ひぃ!?」

「あいつの優しさに本気で感謝しろよ。もし、もう一度、金城に嫌な思いをさせてみろ。俺がテメーをぶん殴る!」






『久土があんなこと言うなんてビックリした』

「ぐうぅ、やめて、面映ゆいってば」


 昼の出来事を思い返して赤面コースを受講中。ベッドの上で悶え苦しんでいます。

 分かっている、分かっているよ。俺らしくない真面目な発言だったと分かっているから! どうしたの俺、胸ぐら掴んで怒鳴っちゃいましたよ!? 説教タイムかよ上条さんかよ!


『俺がテメーをぶん殴る』

「やめろめろ! 俺ちょー恥ずかしいじゃん!」

『違うよ。久土は、ちょーカッコイイんだよ』

「ぐぬぬ、またそうやって俺をからかうつもりか」

『からかってないし。あたしの為に怒ってくれた久土は本当にカッコ良かったんだから。……マジ嬉しかった』


 っ、そ、そっすか……でも、できれば見られたくなかったです。金城にバレないようわざわざ特別棟にまで移動したのに。は、恥ずかしぃ! ちょっとした黒歴史だよ、英語にしたらミニブラックヒストリーだよ! なぜ英訳した?


「なるべく早めに忘れてください」

『無理、録音しちゃった。何度も聴き直してる』

「消してえええぇ! リプライしないでええぇ!」

『あはは、冗談じょーだん、録音してないよ。でも、忘れない。忘れられないよ』


 か、勘弁してくれ。


『……あーあ、四月に決めたのにブレちゃいそう』

「ん? 金城?」

『なんでもないよ』

『四月って何だよ。今は十一月だろうが』

『うるさーい。もう切るね、バイバイ』


 最後はよく分からなかったが、まあいいか。

 金城との通話が終わっても引かない顔面の熱に悶えつつ携帯をタップすると、画面に大量の着信履歴が表示された。

 ……うわぁ、麺太か。何件もかかってきている。キモイな。一応かけ直しておくか。


「もしもし、こちら勇者ナオヤ」

『こちら勇者メンタ、今ハマっているのは極細ストレート麺です!』


 知らねーよ。


『うおぉん、やっと繋がった』

「まだ怒られ足りなかったか?」

『か、勘弁してよ。ストーカー行為はもうしないから殴らないで!』


 ちなみに麺太にも西大路橋君同様めちゃくちゃキレてやった。


『直弥って怒ると怖いんだね。僕ちびりそうだったよ』

「黙れ。で、何か用か」

『実はお願いがあるんだ。……金城さんのことについて』


 俺が先程まで通話していた女子の名が出てきた。


『今日一日ずっと僕をパシリにしていたんだ。どう思う!?』

「お前がストーカーしたからだろ」

『昼休みに二駅向こうの駄菓子屋にまで買いに行ったんだよ!? 許せない! これは復讐するしかないでしょ!』


 俺は頭を抱える。自分が悪いのに復讐したいってどゆことだよ。うちは一族よりタチが悪い。


『ストーキングはもうしないから次は痴漢しようと思う。期末考査が終わった後にさ、あの艶めかしい足をナデナデしちゃうぞ~、げへへっ。でね、直弥に協力してもらおうと電話を』


 通話を切る。すぐに金城へ電話をかけて、麺太が懲りていないことを伝えた。


『報告ありがと~。向日葵君は明日懲らしめるよ、女子全員で』


 金城は怒っていました。明日は麺太が精神的に死ぬシーンが拝めそうだ。

 ストーカーが駄目なら痴漢ってどんな思考回路してんだ。やはり久奈が過度に書いた不等号の数は適正数だったと言える。ったく、俺が上条さんよろしく説教したのに反省してないのかあの馬鹿。


「明日会ったらマジで殴っ……ん、期末考査?」


 電話している時に嫌な単語が聞こえた。期末考査、と……。

 手に持った携帯をそのまま操作して予定表を見る。もうすぐ、期末考査だ。……あ、ヤバイ。

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