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第24話 まさかの麺太

 黄ばんだ壁のこじんまりとした古い店内、紅ショウガを彷彿とさせる赤色のカウンター席でラーメンを食べているのは俺と麺太。


「ここ美味しいでしょ? 僕のオススメなんだっ」

「その台詞、今までに二十回以上は聞いた」


 麺類をこよなく愛する麺太はラーメン屋やうどん屋を紹介してくれる。どこに行っても美味いとしか言わないんだよなこいつ。実際美味いから文句はないけど。


「ご馳走様。じゃあ帰るか」

「えー、せっかくだしもっと遊ぼうよ」

「貴重な土曜をこれ以上お前の為に使いたくない」

「酷い!? 直弥が冷たいよぉ」


 いつもこんな感じですけど?

 今朝は金城が来て『ストーカーは 許しませんよ ホントだよ』の緊急会議を開いた。犯人を捕まえる策を講じた後、作戦決行は月曜にするとして解散。久奈と金城は遊びに出かけた。女子限定のお店に行くので俺は参加不可だってさ。ぐすん。涙が出ちゃう、だって男の子だもん。

 で、暇になった俺は麺太に誘われてラーメンを食らうことにしたってわけ。帰ろうとする俺を麺太が必死の形相でしがみついてくる。


「僕の家に来ない?」

「めんどい」

「来てよぉ!」

「行かない」

「来て」

「行かないってば」

「直弥、来て……?」

「何ちょっとセンシュアルに誘ってきてんの!?」


 そこから「来て……」と「行かない」のラリーを五分間みっちりやった。RPGの村長みたいなやつか! 官能的な嬌声やめろやキモイんだよ!


「マジでしつこいな!? 分かったよ、行ってやるって」

「うん、いっぱい来ていいよ……」

「お前それ次言ったらグーで殴るからな」


 最後は俺が折れて麺太の家へ向かうことになった。


「ここが僕の家!」

「普通だ」


 北方面の電車に乗って歩くこと数分、表札が『向日葵』と珍しいだけで外見はごくありふれた一軒家に着いた。

 いつも手打ち麺を作ってくるから実家はラーメン屋かと思ったが、普通だなおいー。


「まあくつろいでよ」

「中も普通だなおいー」


 麺太の部屋もこれまたごくありふれた部屋だった。ゲーム機や漫画、それらに混じって麺に関する本が何冊かある。


「飲み物持ってくるね。豚骨と醤油どっちがいい?」

「どっちも却下だよ馬鹿。緑茶か麦茶みたいなノリで聞くな」

「じゃあピルクルにするよ」

「お前のセンス俺の母さんと同レベルだわ」


 待っててねー、と言って麺太は部屋を出た。とりあえず座布団の上に座る。

 ……暇だ。何かないのか? 麺関連の書籍に全く興味がないし、漫画も読んだことあるやつばかり。ゲームは……お、そうだ。


「確かバリネードが倒せないとか言ってたな」


 ゲーム機を起動させる。ソフトは時オカだ。名作だよね。ニワトリさいつよ。

 どうせアホ麺のことだから未だにボスを倒せずジャブジャブ様のお腹の中を徘徊しているのだろう。しゃーね、俺が倒してやる。


「セーブデータは……って、んん?」


 暗転してセーブデータ選択画面に。そこには、ゾーラのサファイアを含めて全ての精霊石に加えて七つのメダルが表示されており、ハートは白の枠に囲まれて強化済み。

 パッと見て分かる、ほぼ完璧な勇者メンタのクリアデータ。


「どういうことだ。あの麺太が一週間でここまで進めたのか……?」


 一般人なら頑張らずともクリア可能だろう。しかし一般人ではなく麺太では話が違ってくる。無理だ。断言出来る。俺なんて水の神殿で迷っているのだから!

 仮に万が一クリアしたとして、あいつがそれを俺に自慢しないわけがない。どのタイミングかで「聞いて聞いて! 時オカ全クリした!」と喋るはずだ。


「お待たー」

「なあ麺太」

「ピルクルなかったからミルミルでいい?」


 類似品のストックはあったのかよ。ビフィズス菌を摂取出来るからいいけどさ。

 それより、


「お前、バリネード倒せたのか。つーか大人編も攻略済みなんだな」

「へ……あ、ああぁ!? そ、それは……!」


 意気揚々とミルミルを飲んでいた麺太が盛大に咽た。アタフタと漫画みたいに両手を宙でバタつかせて狼狽える。

 ……なんだこのリアクション。妙に引っかかる。


「た、倒したんだ。う、うんうんそうだよ。いやー、激戦だったなー、うはー」

「……なんか隠してね?」

「べ、べべべ別に!? 直弥に連絡を入れてアリバイを作ろうとしたわけじゃないよ?」

「自分から晒していくスタイル! なんだお前!?」


 アリバイ作りって、どうして俺にアリバイを……


 待てよ?


 こいつから『時オカが難しい!』と通知が来たのは月曜日。丁度、駅前で金城と会った時だった。金城がストーカーされる直前のこと。

 それに火曜日、麺太とはち合わした駅は南方面だった。麺太の家はここ、北方面側の方。家とは逆方向に麺太がいたのは不自然だ。

 ……え、まさか……嘘だろ?


「金城をストーカーしていたのは……麺太、お前か?」

「……」


 麺太は黙る。俺から視線を逸らして不自然に口笛を吹く。その顔からは滴となって噴き出る大量の汗。

 ……はああああああぁ!?


「おまっ、マジかよお前かよ!? 何してんの麺野郎おぉ!」

「ち、違うんだ! ストーカーじゃないよ! ちょっと金城さんの後を追って住所を特定しようと」

「それがストーカーって言うんだよ!?」


 まさかだよ! 犯人お前かい! 犯人お前かあぁい!? クラスメイトの誰かと目星はつけていたがまさかの麺太かよ!

 俺が胸ぐらを掴むと麺太は「あばばば」と奇声漏らして微振動する。その反応は、犯人は自分ですと白状していた。


「俺に連絡を入れたのはアリバイ作り。自分は家にいると演じたわけか。月曜、俺と久奈が偶然金城と会った時に、お前もあの場にいたんだな」

「……ごめんなさい!」

「あぁもう認めちゃったよ完全に犯人だよ、紛うことなくストーカーだよ! 向日葵ストーカー麺太じゃねぇか」

「ミドルネームに組み込まないでぇ!」


思わぬところで犯人を見つけてしまい、それは超身近の麺太で……ああ、虚しさが胸を埋め尽くす……。

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