第23話 朝の久土家
紅葉の彩りと共に香り立ちそうな秋の空気とひんやりとした朝八時。俺の家にやって来たのは金城。
「いらっしゃい。上がれよ」
「……」
先程インターホン越しに見た時と同じだ。金城は俯いて顔を見せない。
……そりゃそうだよな。昨日、ストーカーされたのだから。怖くて怖くて、ここへ来るのにも精神をすり減らしただろう。
「久土……」
「金城、我慢しなくていいんだ」
俺がいる。お前の不安も恐怖も一緒になって受け止めてやるよ。両腕を広げ、とびきりの笑顔を金城に向ける。俺を頼ってくれ。だって俺達は友達だ。
金城は顔を上げ、視線を前へと移す。うんうん、泣いてええんやで。うんう……うん?
俺の視界には……歯をギリギリと軋らせて怒る金城の姿形。え、えっと、怒ってる……?
「早く電話に出ろし!」
「ひいい!?」
鳴り響く雷鳴の如く、怒り震える激昂した金城の怒号を前に俺は情けない声をあげると同時に尻もちをついた。金城がめちゃ怒ってるぅ!
昨夜、ストーカーされた金城はすぐに俺と久奈に連絡したそうな。でも俺らからの返事はなく電話しても出ない。
「何かあったらすぐ連絡してね(笑)って言ったのは久土でしょ。全然出ないもん!」
「わ、悪かったって。ラピュタに夢中だったからさ」
「舞花ちゃんごめん」
「久奈ちゃんはいいの。問題はこいつよ、こいつ! ホント頼りにならな~い!」
怒りが収まらない金城は俺をジロリと恨めしげに睨む。激おこだ。死語だ。
俺と久奈は非を認めて深々と謝罪する。と同時に朝ご飯を食べる。
「マジごめ、ごめごめんハイパー申し訳ありんす。久奈、醤油取って」
「ん。なお君お代わりいる?」
「いる」
「ん」
朝食はご飯に味噌汁、ほうれん草のおひたしとベーコンエッグだ。シンプルな献立の中に詰め込まれた温かみを味わって口も心も染み渡る。久奈の味噌汁超美味い。母さんが作るの余裕で超えた。
素晴らしきかな朝食を終えて、食器を洗って、テーブルを拭いて、洗濯機を回して、テレビで今日の運勢を占った。
「よし、じゃあ話を聞こう」
「遅いし! あたしが来て一時間は経ったからね?」
まあまあ落ち着いて。プリプリ怒ると美容に悪……あ、目が怖いので口も思考も噤みます。
「ふー……金城、話してくれるか?」
椅子に深く座り背筋を伸ばす。こっからはマジだ。本題に入ろう。
「昨日、ストーカーされたんだな」
「うん……友達と遊んで一人帰っていると後ろから……」
そして金城はフード付きの黒パーカーにマスクだったと付け加える。つまり同一犯。
なんてことだ、俺と久奈が尾行をやめた途端にストーカーが再発したのだ。……こんなタイミング良くストーカー出来るものなのか?
「どうも腑に落ちないな」
「なお君お茶いる?」
「頼むわ」
「ん」
久奈の淹れてくれた温かい茶を啜り、考える。
なんとなーく、犯人がどんな奴か分かってきた。俺は思ったことを伝えることにする。
「思ったんだが」
「あたしも思ったんだけどさー。先に言っていい?」
金城も何か思い至ったのかな。
ズズッと茶を啜り、どうぞと促すと金城は顔を緩ませてニヤリと笑った。
「どうして久土の家に久奈ちゃんがいるんだろうね」
「……あれだよあれ、お前がピンチと聞いて久奈が朝一で来てくれたんだよ」
「お父さん達が旅行だからなお君のお家にお泊まりした」
久奈ぁ! 俺がふわふわと言い訳をした直後に真実を暴露しちゃいけませんわよっ! なぜ言った、そんなこと言ったら金城が……
「へぇ~、あらら~、二人きりなんだ~。昨晩はお楽しみでしたな~」
ほら見ろすげーニヤニヤしているぞ! 語尾が伸びて冷やかす目がニヤニヤしている。ニヤニヤが止まらない!
「あたしが大変な目に遭っている時にイチャイチャしていたんだねぇ~……久土ぉー!」
ほら見ろすげー怒った! また説教タイムだよふえぇ。
金城にニヤニヤされつつ怒られて俺はげんなり。その間も久奈は忙しなく動いて俺の世話を焼いてくれた。いやいや、真面目に話し合いましょうよ……。




