第22話 お泊まり、同じ部屋、同じベッ
「あーヤバイヤバイ終わる終わってしまうヤバイ、ヤバイってこれ。俺まだ取り残されているって置いていかないでぇ!」
滅びの呪文を唱えて天空の城がさらに高く天へと昇っていく圧巻のラスト、それは怒涛の勢いであっという間にエンドロールが流れる。ラピュタが名作なのは言わずもがな。ラストシーンに目を奪われて気づけば『あの地平線~』と歌が始まっている。
待って、待ってくれ。俺を置いていかないで。俺はまだこの物語を観たいんだ。まだ天空の城に残っているんだ。
お願い、終わらないでぇー……あうぅ。
「ぐすっ、うぅ……これだからラピュタはすげーんだわ。最高に盛り上がったのにまだ不完全燃焼って凄すぎる。もう少し続いてほしいと願いつつここで終わるから最高なんだと思う」
「面白かったね」
「ゴルアアアァ久奈! なんだその質素な感想は! もっと語れよ!」
両目から涙、両穴から鼻水を垂れ流す俺に対して久奈は全く表情を崩さず通常運転の淡々と簡単といった具合。たった一言で語れないんだよラピュタはさぁ!
ふん! 久奈の馬鹿もう知らないっ。サツキちゃんみたく怒ってテレビを消す。
「十時だけどそろそろ寝るか?」
「んーん」
久奈は「んーん」と言う。否定の表れだ。肯定する時は「ん」と言う。
どうやら久奈はまだ寝たくないらしい。確かにまだ早いよねー。ゲームでもするか。
「俺の部屋行こうぜ」
「ん」
久しぶりの両親不在の一夜にちょいとテンションが上がり、ルンルン気分で部屋に向かう。
っと、その前に布団の用意をしなくちゃ。客間にお布団を敷いて~、ラララ~。
「何してるの?」
「久奈の寝床を準備してる」
「なお君の部屋で寝る」
「んああ?」
なーにを言っているんだね君は。同じ部屋で寝るつもりか。ライトノベルでよく見かける定型文を述べさせてもらおう。『それはマズイ』です。
「ガキの頃ならまだしも俺らもう高校生だるぉ?」
「ん」
「寝室を共にするのは良くないの。分かるでしょ」
「んーん」
「……駄目なんです」
「んーん」
久奈が拒否して布団を奪うと俺の部屋へと入っていく。まったくもぉ、この子ったら甘えん坊さんなんだからっ。もうっ、この~。
…………いいの!? さすがにマズイってこれ! いくら馴染み深い間柄とはいえ俺も一応男でっせ。襲っちゃうぞ~? ……嘘ですそんな度胸はないっす。
「なお君のお部屋で寝るの久しぶり」
「誤解を招く言い方をするな!」
テキパキと布団を敷く久奈に向けて声荒げるも効果はなし。俺の部屋、ベッドの横にはお布団敷かれてラララ~だ。
……ぐっ、心頭滅却したはずの邪念が再燃してきた。はい滅却! 急いで滅却! 天使仕事しろぉ!
「ぐおおおおおおぉ!」
「なお君おかしいよ。それが常だけど」
「それが常だけどって!? 俺はニュートラルで頭おかしいのかよ!」
「ん」
「出たよ肯定!」
初期ステータス状態で変態じゃないんだって! あなたを笑わせようと無茶やっているだけの平々凡々な学生、って誰が平々凡々じゃコラァ! せめて平凡だろ! 久土平凡直弥だ! ミドルネームかよ。
「ねえ、なお君」
「まーだ何かディスるおつもり~? アハ~ン?」
「……」
「え、ちょ、何その溜め? 大技放つの?」
「……私は、同じベッドで寝」
ぶぶぶ、と携帯の震える音で久奈が途中で口噤んだ。ん? 何か言いかけていたけど……んん?
「携帯取らないの?」
「え、取っていいの?」
久奈が「ん」と頷くので俺は机に置いてある携帯を手に取る。タップする画面には、金城からの何件ものの通知と通話回数。
「怖っ!?」
メンヘラ化したか!? ビックリして携帯落としかけたわ。うへぇ、何回も連絡してくるとか…………え、待てよ、
「っ!? まさか」
理解した時には画面を押し潰す勢いでタップする。金城へ電話をかけた。
一回のコールが鳴り、耳に密着させた携帯からは金城の声が聞こえる。
「金城か? 何かあったのか!?」
『……く、久土』
すすり泣くような声。俺が思い至った状況になっているとしたら……。
異変を察した久奈は俺の傍に寄って静かに耳を傾ける。俺も、息を呑んで金城の声を待つ。
『今日、ストーカーされた……っ』




