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第21話 三連一発ギャグと辛口審査

 熱くてトマトな夕食を終えて俺はリビングでテレビを観る。久奈は今、入浴中だ。ウチの風呂で。

 ……近いんだから自分の家に戻って入ればいいのに。勘弁しろよ、悶々するだろうが。


『げへへ、覗きに行こうぜ』


 俺の中で悪魔が下卑た笑い声で誘惑してくるのを耐えながらテレビに集中し、CMになっても必死に思考を巡らせて浴室を意識しないようにする。赤井さんはなんで大きくなったのか真剣に考える。本当なんでやろなぁ? 真面目さ一点のみで巨大化に繋がるわけないよなぁ!

 無意識になろうと意識して、ふと一人になって思った。そういや最近、久奈を笑わせようとしていなかったと。

 ここ一週間は忙しくて忘れていたが、そうだよ俺は久奈を笑わせたいんだった。ならば今日は絶好のチャンスじゃないか! やってやる、この二人きりのお泊まりであいつの笑顔を見てやるぜ。


「よっしゃ頑張ろう」

「なお君上がったよ」

「なんで大きくなったんやろなぁ!?」


 急に声をかけられてビックリしたわ! 背筋がピーン!ってなったわ。なんで関西弁?

 変にドキドキしてしまったが気持ちを立て直して後ろを振り返る。そこにはパジャマ姿の久奈。湯上がり特有のホカホカ感が出ており、濡れた髪の毛は色気っぽく清楚な普段の彼女とは違う印象を俺に与えた。

 湯上がり美人ってこういうことを指すんだろうなぁ。……なんか新鮮。パジャマ姿、良い。やっぱ何着ても似合う。最強かよ。


『ぐひひ、エロイよな』


 おい悪魔出てくるな! その下卑た笑いやめぇい! 邪な考えを促進させんな馬鹿っ。

 頭をブンブンと振って悪魔を追い払う。さっさと風呂に入ろうそうしよう!


「じゃあ俺も風呂」

「待って」

「んあ?」

「髪」


 俺を呼び止めた久奈はソファーに座るとドライヤーを手に持つ。しばらくドライヤーを見つめて「ん」と言うと俺に差し出してきた。


「何?」

「ドライヤー」

「見たら分かる」

「髪」

「……俺に乾かせと?」

「ん」


 何そのご名答と言わんばかりの「ん」は。あなたよく「ん」って言うよね。無口キャラを演出したいのかな?

 ……久奈が俺に髪を乾かせとお願いしている。いやいや、


「それくらい自分で出来るだろ」

「……」

「んな見つめられても」

「……」

「えー、えーと……」

「……」

「風呂入りゅうぅ!」


 なんとか目を逸らして脱衣所へ逃げ込む。あ、あぶねー、あのまま見つめられたら頷くところだった。ナイスラン俺。

 さすがにマズイ、よね……? 髪を乾かしてあげるってなんすかその同棲カップルがしそうな行為は。イチャイチャ度が高い。恋愛漫画か。こちとら変にドキドキしている状態なんだから今そんなことしたら


『ぐほ、ぐほほっ、乾かしたばかりの髪の毛むしゃむしゃしようぜ』


 ほら悪魔来ちゃった! ノリノリで悪魔が再臨だよ。登場する度に下衆な笑い声あげてるよこいつ。おい天使っ、普通は天使と悪魔がセットで召喚されるはずだろ。天使はどこだおい!


「っ、落ち着け直弥。何を変に意識しているんだ。相手は久奈だぞ」


 小さい頃から一緒に過ごしてきた間柄。二人きりのお泊まりがなんだ、兄弟のような関係なのだから気にする必要も緊張する必要は皆無でしょーが。

 湯船に口元まで浸かり、ブクブク泡立てて心頭滅却。湯で体は温まっても心はクールダウンだ。


「よし、邪念消えた! さあ目的達成に向けて頑張ろう」


『その調子ですよ、直弥』


 天使が現れた。出てくるの遅いわ!






 たっぷりとかいた汗を流して風呂から上がるとソファーには久奈。俺を見て、ぷいと目を逸らした。ご機嫌が麗しくないらしい。


「さっきは悪かった。照れ臭かったんだってばよ」

「……」

「お詫びに一発ギャグを披露しようっ」


 そっぽ向く久奈の前に回り込む。しっかり目を合わせていざ始めん。

 俺は久奈を笑わせる為に日夜ギャグを考えている。一発ギャグのストックは溜まりつつある。その中でも今から見せるのは一番の自信作。見て驚け、見て笑え!


「世界にひーとつだーけの、鼻フック!」


 歌に乗せて自身の指を鼻穴に差して持ち上げる。目を開いて歯も剥き出し。ふふ、どうだ!


「ん」


 久奈は顔色ひとつ変えず全然笑っていない。寧ろいつもより白けている。

 ……これが自信作って俺どんだけギャグセンス低いんだよ。歌芸と思ったら結局顔芸だし。変顔はこの前失敗しただろ。俺の馬鹿! アホ! 間抜け! 知ってる!


「え、え~と続きまして……いないいなーい、バーバリアン! いないいなーい、バーバリアン!」


 両手で顔を隠して、バァ!と手を開いてバーバリアンのような顔をする、ってこれも変顔じゃねぇか!?

 どうした、俺には変顔しかギャグがないのか? 案の定、久奈は全然笑ってないし。つーかバーバリアンのような顔ってどんな顔だ!


「なお君一緒にラピュタ観よ。DVD持ってきた」

「待って、あとひとつやらせて。ワンモアチャンス!」

「ん」

「え、えっと……」


 変顔以外に何かギャグは……ラピュタ、そうだ!


「モノマネしまーす。シータとパズーの加入が決まった時に食べたい料理をリクエストするドーラ一家の三男。『俺はね、えっと、うんと……なんでも食う!』」


 どうだこのイマイチ分からないモノマネ! どこのシーンを演じているのか分からない、故にシュールでおかしい。

 さあクスッと笑うがいいさーっ……うん。久奈ぜんぜーん笑っていなーい。


「四点」


 それどころかモノマネの審査をする始末。四点て、採点めちゃ厳しい!


「千点中の四点」

「限りなくゼロ点じゃねぇか!」

「もういいからラピュタ観よ。早く」

「く、クソぉ。特務の青二才が!」

「一点」

「分かったよ観るよ! 観て勉強するわ!」


 久奈の辛口審査に心折れた。俺は諦めてDVDをセットする。

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