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第2話 ゲロと麺とギャル

「お、おはようございますぅ」

「久土、一限は既に始まっている。なんで遅刻した」

「そ、その、両乳首の回復に時間を要しました」

「分かった。校庭十周走ってこい」


 おっす、俺の名前は久土直弥(くどなおや)。どこにでもいる普通の高校一年生の男子だ。


「ぶぼえええぇ……っ」


 現在はグラウンド十周を走り終えて途方もない疲労と吐き気に襲われているところです。あー、吐きそう……うっぷ。

 ふらつく足を必死の思いで齷齪と動かすも、階段を上がり廊下に出たところで力尽きた。なので床を這いずって自分の教室、一年二組を目指す。ズル、ズル、と。その道中、周りから女子の悲鳴が聞こえたんだが何かあったのかな?


「つ、着いた……早く机に突っ伏したい」


 『一年二組』のプレートが大砂漠で見つけたオアシスのように神々しい。残った力を振り絞って教室後方の扉を開く。


「やあ直弥! 生きているかーい!?」

「ぶぼぇ!?」


 開いたと同時に背を襲う衝撃。それは足。誰かが俺を踏みつけたのだ。

 沸き上がる殺意を上回る、圧倒的な吐き気。今の一撃が体に決定打を与えた。込み上げて込み上げて、口の中が酸っぱくなって……


「むむ? 直弥の気配がしたはずなんだけど僕の勘違い?」

「し、下だ」

「下?」

「あ、もう駄目……おぼぼぼぼっ」

「ぎゃああ!? 直弥が吐いたああぁ!?」











 昼休み、俺は自分の机に突っ伏す。耳を澄ます必要もなく辺りから易々と聞こえてくるは俺へ対する悪言。

 先程の一限終わりの休み時間、盛大に嘔吐した俺は見事『朝ゲロ男』のあだ名がつけられましたとさ。今なんて他クラスからも見学者が来ては罵ってすぐに逃げていく。


「あぁ、俺の高校生活終わっただろ……」

「まあ落ち込まないで元気出そうよ」

「お前のせいなんだけど!?」


 シャウトするも坊主頭の男子生徒は軽快に笑うだけで全く気にも留めていない。殴りたい、その笑顔。

 こいつの名前は向日葵麺太(ひまわりめんた)。同じ一年二組の生徒だ。常にアホ面を浮かべており、二組のアホと問えば大抵の人がこいつの名を挙げる程のアホだ。加えて名前のオンリーワン感は学校一。名字が向日葵な時点で珍しいのにダメ押しの麺太。俺なら親と祖先恨む。


「そうそう、直弥に話したいことがあるんだ。昨日行ったラーメン屋が最高でさ~」


 麺太は麺類が大好きだ。キャラを立てたいか知らんが常に麺を食べている。今だって弁当箱を埋め尽くす麺の上に水筒からスープを注ぐ。頭おかしい。


「やっぱお昼は麺だよねっ」

「いつも食ってるだろ」

「これが本当の麺食い」

「言うと思ったよ安直だなおい!」

「やっぱ麺ってすごいなよ。聞いておくれよ~」


 俺のツッコミなんて露知らず、麺太はペラペラと麺トークを始める。麺に関するどうでもいい情報と女子のキモイコールで耳はいっぱい。

 あぁ、なんで俺はこんな麺キチガイと友達になったのだろうか。


「同じアホだから惹かれ合うんでしょ」

「心の中読むんじゃねぇよ、金城。あと俺がアホだと言いたいのか?」

「え、久土ってアホじゃん?」

「……」


 言い返せない俺を見てケラケラと笑う女子生徒。金城舞花(きんじょうまいか)、クラスメイトだ。

 綺麗にセンターで分けられた前髪、ふんわりとカールさせた栗色の髪は小麦色の肌によく映える。濃すぎないアイメイクのパッチリとしたちょいタレ目の瞳はカラコンを入れて澄み渡る水色、薄い桜色の唇は色気があって着崩した制服はまさにザ・ギャル!って感じだ。


「はいはいどうせ俺はアホですよ」

「あ、拗ねんなし~」


 金城はニシシと笑うと、そっぽ向く俺の頭をシャンプーする美容師の如くワシャワシャと撫でてきた。またかよ……。


「やっぱし久土の髪ってすごい。なんでこんなサラサラなの?」

「知るかよ。あんま触るなっての」

「それは無理な相談だなー」

「なんでだよ譲歩しておくれ」


 平々凡々な俺にも一つ個性があり、それは髪の毛が無駄にサラサラなこと。シャンプーのCMかってぐらい滑らか艶やかだ。

 おかげで髪のセットとは無縁な十六年間を過ごしてきた。俺だってワックス塗りたくってオシャレヘアーに挑戦したかったよ……。ヘアジャムつけてもヘアジャムじゃない状態なんだぞ。助けてキムタク。


「そう悲観しないでよ。ワックス塗りすぎてもキモイだけだしいいじゃん?」

「だから心の中を読むなって」

「なんか髪触ってると久土の考えていること読み取れるんだー」

「サラッと怖いこと言うなよ!?」


 髪を触っただけで思考を読み取れるって何かしらの超能力じゃねーか。特質系かよ、パクノダかよっ。今すぐ幻影旅団に入れ!


「それで久土、今日遅刻したのってまた例のやつ?」

「……ああそうだよ」

「その様子だと失敗したみたいだねー」


 ちっ、そうですよ失敗でしたよ。俺は今日も久奈を笑わせることが出来なかった。

 惣菜パンを頬張りつつ久奈の方を見る。久奈はクラスの女子と一緒に昼食を食べて談笑して、時折小さく微笑んで楽しそうだ。……俺には笑顔を見せないくせに。


「まあそう落ち込まないで朝ゲロ男」

「落ち込むあだ名で呼ぶなよ……」

「やーん、久土が拗ねてて可愛い~」


 金城は楽しげな声を出すと髪の毛を触る速度を上げる。そりゃもうワシャワシャ、ワシャワシャと。わしゃ小型犬か!


「もういいだろ! そろそろやめい」

「だから無理な相談だって」

「じゃあお前の髪も触らせろよ」

「は? 簡単に女子の髪に触れると思うなし。セクハラで訴えるよ」

「自分は散々触るくせに!? 紛うことなき理不尽さ!」


 あたしはいいの、と言って金城はようやく満足したのか撫でるのをやめてくれた。こうも女尊男卑を思い知らされるとは……金城、恐ろしい子!

 その恐ろしい子は上機嫌にスキップして久奈の方へと向かっていた。金城と久奈って仲良いんだよなぁ……羨ましい。


「それで僕は分かったんだ。つけ麺には柚子風味が合うってね」

「まだ麺のこと喋っていたんかい!」

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