第17話 撃退しちゃうぞ☆ストーカー討伐ミラクル特設本部
金城の人気は入学当初から際立っていた。見た目はギャルなのに、怖さは一切なくてコミュニケーション能力も高い。よく笑い程良く喋り、快活な姿は自然とクラスを明るくした。
可愛くてコミュ力高い、そりゃモテるだろうね。金城に告った奴がいると何度も耳にした。みんなフラれたらしいが。
要約すると、人気者の金城がストーカーされる可能性はあってもおかしくないってことだ。
「では今から『撃退しちゃうぞ☆ストーカー討伐ミラクル特設本部』の作戦会議を始める!」
「はーい異議あり、久土の考えたチーム名がダサイでーす」
え、タイトルコールからいきなり不満!? 俺が午後の授業全てを費やして考え抜いた自信作なのに……。
たまらず久奈へ助けを求めるも、久奈は首を縦に振って「ダサイ」と断言する。一対二、多数決の原理によりチーム名は改名されることに。うぅ。
「えー、では『ストーカーは 許しませんよ ホントだよ』の作戦会議を始める」
改めてタイトルコールすると他二名は満足そうに頷く。チーム名おかしくない? 五七五なんですけど!
だがこれ以上チーム名に拘っている時間はない。渋々妥協して本題に入ろう。
「被害状況は事前に伝えた通りだ。柊木副隊長、頭に入っているか?」
「ん」
「では金城隊長、改めて犯人の特徴を述べてくれ」
「承ったっ」
金城の口述によると、犯人は黒いフードパーカーを着て顔元に隠すようにマスクをつけていたらしい。テンプレか。身長は大体百七十センチで体型は中肉中背。テンプレか。
「ストーカー被害に遭ったのは日曜と月曜の二回だったな」
「うん」
「聞くが、ストーキングされたのは本当に間違いないのか?」
「なんで疑うのー!?」
憤慨してるところ失礼、そういう被害妄想激しい女子がいるってのは事実なんですよ。ヒステリック女による冤罪が増加の傾向にある現代社会、このチームで唯一の男の俺はそこを注視すべきなのだ。
「なお君それは酷いよ」
「そうだそうだー、久土平々凡々隊員に苦言を呈する」
「おいちょっと待てなんだその隊員名。俺だけ哀れじゃね!?」
平々凡々隊員!? だったら平凡隊員でいいだろうがなぜ平々凡々と強調した!
俺の方こそ苦言を呈したいが隊長と副隊長は聞く耳持たない。くっ、このチーム女尊男卑だよ。チーム名を『男子より 権利が強い 乙女だよ』変えろ!
「あぁもう俺が悪かったよ。とにかく! 一日でストーカーと決めつけるのは早計だ。まずは今日、様子を見る」
「了解です久土平々凡々隊員!」
「お前いつか仕返すからなおい」
会議を終えて俺ら三人は学校を出ると駅前で解散した。俺と久奈は引き返して徒歩で帰り、金城は電車に乗る。
と見せかける! 俺ら三人で考えた策略だ。
「ふふ、ジラフだぜ!」
「ブラフって言いたいのなお君?」
そうとも言うー。しんちゃん乙。
俺と久奈は近くの百円ショップで買ったサングラスをかけて物陰から金城を追っている。金城を追いつつ、その周辺に怪しい奴がいないか注意深く観察中。怪しい奴は俺らだって指摘は無粋なり。
「こちら久土、今のところ異常ありません。どーぞ」
「こちら柊木、舞花ちゃんが電車に乗りました。どうぞ」
「了解、俺らも電車に乗る。どーぞ」
「ではこちらへどうぞ」
スパイが無線を使ってやり取りするように会話する俺らの距離はゼロに等しい。いーんだよ、こういうのは雰囲気が大事なんだ。ヤッベ、スパイって楽しいテンション上がってきましたわ。
南方面へ向かう電車が来た。俺と久奈は金城とは一つ離れた車両に乗る。
「こちら久土、帰宅ラッシュらしく車内はぎゅうぎゅうです。どーぞ」
「なお君、大丈夫?」
「おいテイスト崩すな」
注意するも久奈は黙ったまま俺を見上げる。
座るスペースはないし立つのもやっとの車内で、俺と久奈はドアの隅に身を寄せている。久奈を壁際に立たせて俺はその前に立っているんだが、別に俺は平気だっての。後ろからおっさん達に押されるけど踏ん張っています。
「久奈こそ大丈夫か。苦しくない?」
ちなみに言っておくけど久奈の為に十分なスペースを空けているわけじゃない。そんな彼女溺愛の彼氏みたいな真似をしたら他の人にも迷惑だ。あくまで久奈が他の男性とくっつくのを防ぐのみ。
「ん、平気。……なお君ありがと」
「……こちら久土、異常ありませんどーぞ」
久奈と密着した状態、胸元では久奈が自然と上目遣いになってお礼を言ってきた。
べ、別に幼馴染だから大切に思っているだけなんだから勘違いしないでよねっ。久奈の上目遣いはズルイって、こんなん惚れてしまう。つーか既に惚れていまし、げふんげふん!
「き、金城が降りる駅だ! 行くぞ!」
「ん」
駅に到着。降りて金城を見つけて後を追う。あまり近くで追うとストーカーにバレるので距離を空けておく。
理想は二重尾行だ。金城を追うストーカーを追いたい。
「まあ本当にストーカーがいるならの話だが」
「きっといるよ」
「君らは断言するよねー」
「女の勘」
「出たよオールマイティカード」
セコイわ~。それ言われたら反論出来ないよ。一応反撃してみよっか?
「女の勘で久奈は当たったことあるのかよ」
「あるよ」
「マジかよ。例えば?」
「前回のワールドカップのブラジル戦の結果」
「そういうの当てる勘だっけ!? 予想屋か!」
というか久奈ってサッカー好きなの? あなたが熱中してるのダーツだけと思っていました。
「とにかく当たるの」
「えー? でもなー、ストーカー被害ってあんま聞いたことないぞ。久奈はないだろ」
「それはなお君がいるから」
「……なるほどね」
「ん、いつもありがとう」
「照れるから急にお礼言うのやめてぇ」
幼馴染だからね! 同じマンションだからね! ちょ、何この子、タイミングどうした。今言わないでよ、準備してないから悶えてしまうじゃんか。
ふう、落ち着け俺。今は金城を追うんだ。……金城どこだ?
「ヤバイ、ホストしちゃった」
「なお君ロストって言いたいの?」
「そうとも言う」
「なお君はホストしないでね」
「悪かったなフツメンで!」
フツメンの俺にホストは無理ってか? 急にお礼を言ったと思ったら今度は急にディスるんかい。心揺れるわ、ゆり籠のように揺れているわっ。
「ホストしたらなお君モテちゃうから」
「そーか? というか俺はモテちゃ駄目なの!?」
「……」
「え、な、なんすかその目」
いやいや、ありえない未来設計を論じてどうする、遊んでいる場合じゃないだろ。急いで金城を探さなくては。
「あ、あれれー? 直弥と柊木さんだ!」
「この声は麺太」
偶然なのか、麺太がこちらへとやって来た。お前の家この辺だっけ? 興味ねーからどーでもいーけどー。
「ふ、二人して何してるの? 直弥達はいつもバスで帰っているじゃないか」
なんでお前は俺らの帰宅ルート把握しているんだよキモイな。
思わぬ人物と再会。麺太はやけにテンションが上がっているらしく、早口にペラペラと喋って異様に笑っている。対して俺と久奈のテンションはがくーんと下がった。なんで学外でもこいつと会わなくちゃいけないのやら。やれやれ。
「って、そうじゃねぇよ!?」
金城を探さないといけないんだった。早くしないと……あ、無理っぽい。
作戦一日目、俺と久奈は金城をポストした。
「お前のせいだ麺男ぉ!」
「へへっ、麺男だなんてそんな」
褒めてないからっ。しんちゃんか!