第16話 美術準備室で女子とランチはレアイベント
モグモグとホットサンドを食べる。普通に美味し。金城の母親に感謝だ。
「美術準備室で飯を食う日が来るとは思いもしなかった」
「たまにはいいじゃん。それにぃ~、女子と二人きりでご飯なんてレアイベントだよ~」
「だから感謝しろと?」
「イエスっ」
「高須クリニック」
「は? 意味分かんないボケしないで」
「急に辛辣!」
金城とお喋りしながら食べるも、サンドイッチ一個はあっという間になくなり腹はまだ膨れない。昼休みが終わるまでにパン買って次の授業中に食うか。
「そろそろ戻ろうぜ」
「……ねえ、久土」
俺が立ち上がっても金城は立ち上がらない。ん? どした?
「ちょっと相談していい?」
不安げに揺れる金城の瞳。いつもの快活さのなさに、何やら大事な相談なのかと身構えつつ座り直して金城と向き合う。
「久土……」
「おう。もしかして俺に告白か?」
「違うし。死ねし」
「違うしと同じテンションで死を告げるな!」
冗談だよ冗談。少し期待したけど。
詫びた後に、ちゃんと聞くからと言って真剣な顔をする。金城はじとぉ~、と訝しげに見つめてきたが、一度目を閉じて開くと俺を見つめてゆっくりと口を開いた。
「……実はね、ストーカー被害に遭っているの」
「お、俺じゃねぇぞ!?」
「分かってるし。一昨日と昨日は久奈ちゃんと一緒に帰ったじゃん」
「一昨日?」
「うん……日曜日からなの」
そこから金城は詳しい状況を話してくれた。
ストーカーの気配を感じたのは日曜日、ハロウィンパーティーの帰り。男が一人、後ろからついて来るて振り返ると物陰に隠れる。フードを深くかぶりマスクをつけて顔は分からないらしい。
「すごい不気味でさ……それで……っ」
一通り話し終えた金城は青ざめた顔で怯えていた。話すうちに恐怖が蘇ってきたのだろうか、目に涙を浮かべて、いつもの元気な姿はどこにもない。
……さすがに今は茶化すべきじゃないな。俺は努めて明るい声を出す。
「教室ではいつも通りに振る舞っていたな。偉いぞ」
「う、うん」
「怖かったよな。頑張ったよ、金城」
「怖かった……」
午前中も、ついさっきまでも、金城は普段と変わらず明るく振る舞っていた。周りを心配させたくなかったのだろう。
金城の気遣いと、今の彼女が泣きそうに俯く姿が健気で可哀想に思えた。だからこそ俺は気丈に振る舞おう。金城の頭をポンと撫で、これでもかと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。なんとかしてやる」
「久土……」
「俺に任せろっ」
怖かっただろう、辛かっただろう、だから俺は笑おう。金城が安心出来るように、ニッコリニコニコ笑いかける。それが今、俺に出来ることだから。
俺が笑い、金城も微笑む。そして俺の手を思いきり弾いた。
「ごめ、勝手に髪触んなし。ストーカーの前に久土を訴えるよ」
「うおぉい!?」