第14話 必殺・残飯晩飯
駅前で金城と別れ、エレベーター前で久奈とバイバイして家に帰る。たでーま。
食卓のお皿にはハンバーグ、があったであろう痕跡。皿に残ったデミグラスソースと小さなニンジンがそれを物語っていた。
「おうクソ息子、さっさと食べな」
母さんはこっちを見向きもせずテレビに夢中。画面には何年も前の韓流ドラマが移っている。お前それ大好きか。
はぁ、こんなことだろうと思ったよ。抗議しても無意味なので俺はおとなしくデミグラスソースでご飯を食べる。
「虚しい食事だ……。父さんは?」
「上司と食事会。おかげで私が三つもハンバーグ食べることになって大変やったわ」
「大変なら息子の分は食べなくて良かったんですがねぇ」
「嫌や。お前に嫌がらせしたかった」
「ハッキリ言っちゃったよおい!」
テレビから視線逸らさず言いやがって! 少しはこっち見ろ、息子の帰宅姿を見ろ!
基本的に母さんはこんな感じ。夜遅くに帰ってきても文句言われないのはありがたい面もある。ちなみに父さんも放任主義タイプ。母さんと比べると言葉遣いは荒くない。あとハゲてる。俺将来怖い。
「ごちそーさま」
「皿はテメーで洗え」
「はいはい」
「あ、そうだ。今日柊木さんと会った」
シンクには母さんの食器もあってイラッとした。二人分洗っていると、ようやく母さんがこちらを見た。柊木さんとは久奈の母親のことだ。俺は久奈ママと呼んでいる、心の中で。
「あの人ホント綺麗よな。そら娘の久奈ちんも可愛いわ」
「なるほど、俺がフツメンなのは母さんもフツメンだからか」
「私ちょー美人やろが」
「美人は易々と放屁しねーよ。で、何話したんだ」
「世間話と、ああそうだ、今度親同士で温泉旅行に行こうって誘われた」
温泉旅行か、いいんじゃね。父さんには仕事の疲れを癒してほしいものだ。あと育毛してほしい。
「じゃあ俺は留守番ってこと?」
「当然やろがボケがぁ!」
「そこまで語気荒げる!? 息子同伴の可能性を嫌がりすぎだろ!」
ん、待てよ? 親同士ってことは、久奈もお留守番ってことか。
「久奈ちんと二人仲良くな」
「別にいつも通りだろ」
「何言ってんねん。その日久奈ちんはウチに泊まるんや」
「……はい?」
風呂から上がって部屋に戻る。携帯を見れば久奈から返信が来ていた。
『うん。なお君の家に泊まるよ』
本当だったのか……。いくら家族間で仲が良くて幼馴染とはいえ、俺らももう高校生だ。若い男女が二人きりってのはマズイんじゃない? エロゲーなら確実にアレだよ。ほらアレ……アレだよ。言わせんなよ!
『久奈は温泉行かないの?』
『行かない』
既読がついてすぐに返信が返ってきた。向こうもお風呂上がりなのかな。
もわわ~ん、と想像してしまうが頭を左右にシェイクして掻き消す。幼馴染に欲情はあかんよ。
『行けばいいのに』
『行かない』
『なんで?』
しばらく待つも返信が来ない。既読はついているんだけどな。髪でも乾かしているのだろうか。暇なのでゲームをプレイ。水の神殿内を探索する。
『たまには子供抜きで旅行を楽しんでほしいから』
小さなカギが見つからなくて苦戦していると携帯が鳴った。久奈からの返信。
『なるほ(笑)』
『だからなお君の家に泊まる』
『別に泊まる必要ないじゃんか。家近いし』
向こうの親御さん、特に父親が一人娘のことが大事なのは分かるけど俺らって同じマンションの同じ階だぜ? 何かあればすぐに駆けつけられるし無理して同じ空間に寝泊まる必要はないと思う。
送信するとすぐに既読がついた。けれど返事はなし。ちょくちょく返信が遅いな。小さなカギ探すべ。
「ぐああ見つからねぇ! どこにあるんだよマジで!」
苦戦すること十五分、カギは見つからず携帯が震え鳴く。
『電撃旋回虫バリネードが倒せない! どうすればいい!?』
『泊まる』
前者には返信はしない。バリネードも倒せない雑魚に用はないです。
どうやら久奈は意地でも泊まるつもりらしい。ん、まあ、いいのか、な? 小学校高学年の頃まで互いの家に泊まることはあったし、俺らじゃ過ちは起きないでしょ。気にし過ぎるも良くないね。
『分かった(笑) んじゃよろしく(笑)』
『うん』
送信してすぐに返信キタコレ。返信が早いのか遅いのか分からん。
『お泊まり楽しみにしてる』
「続けて来たな。んー、俺もだよ、って返しておくか」
ついでに『今日のカラオケ楽しかった(笑) 久奈の歌、俺好きだぜ(笑)』とも付け加えて送信。
またしてもすぐに既読がついた。けれど返事はなく、しばらくの間待ってみたが返ってきたのは一時間後だった。しかもニッコリ笑うウサギさんのスタンプのみ。このスタンプみたく実際も笑ってくれたらいいのにな。
『助けて直弥!』
『こいつ強くね?』
『ねえ無視? ねえ直弥! ヘイリッスン!』
麺野郎からの通知をオフに設定、携帯を枕元に置いて俺は就寝した。