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第131話 最後の最後に

途中、水流崎視点になります。

 水流崎章宏。女たらしで悪い噂が絶えない。実行委員長の権限を使って言葉巧みに久奈に近寄り、よからぬことを企てている。

 準備期間中はみんなのおかげで最悪の事態を回避してきたが、学園祭当日にあいつが何も行動を起こさないわけがない。


「もしもし関さん? 今どこにいる?」


 走りながら携帯を取り出して電話をかける。

 聞こえたのは、関さんの取り乱した声。


『く、久土君。ごめん、見失った。他の人も探しているんだけど……』

「っ、そうか」

『ごめんね、久土君がクラスの用事を済ませるまで私達が監視する作戦だったのに……ごめんなさい』

「気にすんなよ。寧ろ今日までサンキューな。俺も探してみる」

『う、うん』


 通話を終え、俺は会議室に飛び込む。


「失礼します二年の久土です! 水流崎のクソ野郎、じゃなくて実行委員長はいますか?」


 会議室では最終チェックや備品の運搬が行われており、実行委員達が慌ただしく働いていた。

 一人が俺に気づき、困ったように肩を竦める。


「水流崎先輩? 見回りに行くと言って出たきり帰ってこないよ」


 その様子だと見回りに出たのは結構前なのだろう。

 肩を竦めた生徒に同調し、他の人も次々に不平不満を漏らす。


「いつ帰ってくるんだろう」

「実行委員長の確認が必要なことがたくさんあるのに」

「そろそろ来賓の方が来るからあの人いないとマズイんだけど」

「しかも副委員長も連れて行ったし」


 副委員長……久奈。

 手に力がこもる。汗が滲む。俺はお礼を述べてすぐ教室を出る。

 会議室に戻っていない、関さん達も見失った。……早急を要する事態になっている。俺がもっと早く動いていれば……。

 っ、反省は後だ。今は久奈を探すことを考えろ。

 どこに行った? 人で埋め尽くされた学園祭で、誰にも見つからずに隠れられる場所は限られている。

 考えるんだ。あの野郎の傾向、手口、人目につかず目的を遂行出来る場所は? 考えながら足は止めるな、走り続けて探し続けろ。


「っく、フラつくな……!」


 思う通りに足が動かない。齷齪と前に突き出しても上手く力が入らず、体勢が崩れる。

 今日までの疲れ。気力も体力も限界。今にも全身が止まってしまいそうだ。

 知るか! 限界を超えろ! 頑張ってきたのは今日の為だろうが。肺が潰れても、血やゲロを吐こうとも、絶対に足を止めるな。


「まだ間に合う。まだ……っ、ぁ」


 人混みを抜けて飛び出たその先には、階段。両足が床から離れる。

 ぁ……ぃ、ぉょ、この浮遊感はヤバイ。制御が利かない体勢で宙に……あああぁあ!?


「誰か止めて! 俺を受け止めて! あなたはパズーで俺がシー、ぶべぇ!?」


 顔面から階段に落下。音は聞こえなかったが、激しい痛みが刃物のように突き刺さる。

 そのまま削られるようにして何段も落ちていき、踊り場に叩きつけられた。




 意識が、消えていく。


「俺の、ア、ホがぁあ……!」


 今、自分がどんな体勢か分からない。分かるのは、全身を襲う痛みの酷さ。頭が痛い。痛い。激痛が顔面と全身に広がっていき、視界が滲んでボヤけ……っがぁ、駄目だ。

 目を閉じるな。意識を失うな。こんなところで倒れるわけにはいかない。

 俺が久奈を守……






『なお君、約束だよっ』

『もちろん! 約束は守ーる! 大きくなったら僕と久奈は』






「だ、大丈夫か!?」

「思いきり顔面から落ちたぞ」

「大変だ。急いで運べ!」


 周りから悲鳴が響く。辛うじて目を開き、たくさんの人に囲まれていることに気づく。

 体を起こされて肩を担がれ……やめろ、どこに連れていくつもりだ。俺は行かなくちゃいけない……!


「は、な……せ」


 声を出そうにも口が上手く動かない。痛みで体に力が入らず、抵抗することも出来ない。

 どうしてだよ、どうして俺はいつも大事な時に限って……!


「な、何か言わなかったか?」

「いいから運ぶんだ。すいません道を開けてください!」


 呂律が回らず誰にも伝わらない。

 待ってくれ。放っておいてくれ! 連れていかれてたまるか!

 休まず働き続け、水流崎に抗い続けたのは久奈を守る為。その為だけに頑張ってきた。こんなところで足を止めて朦朧としている場合じゃねぇだろ俺。ふざけるな。

 久奈が危ない。大好きな人が、大切な人が、今こうしている間にも危機が迫っているのに俺が行かなくてどうする!

 痛みなんかに負けるな……っ、体よ動け。口よ動け! 

 っっ、なんで、動いてくれないんだ……。






 久奈…………!











 今まで俺の言う通りにならなかった女はいない。

 最初は気さくに話しかけ、無理に距離感を詰めることなく優しく接し、最後は強引に攻める。俺がそうすれば必ず成功した。容易く落とせた。

 それなのに、こいつは違った。


「柊木、こっちに来てくれ」

「でもまだ見回りが……」

「ああ、来賓の方に挨拶しないといけないんだ。柊木も同伴してほしい」

「でも私は……」

「クラスの催し物が心配? 大丈夫じゃん、お友達が頑張っているじゃん」


 そう、お友達が頑張っている。……久土って奴が邪魔してきやがる。

 どれだけ無茶な仕事を押しつけても潰せない、俺に立ち向かってきやがった。

 準備期間中、俺は実行委員長の権限を使い、柊木と二人きりになれる機会を作ってきた。二人きりになれば簡単に襲える。

 そのはずが、久土が現れて邪魔をする。他の奴らも出てきやがった。女子が手を組んで明らかに妨害してきた。

 なんだ……なんだよこいつら。久土と柊木、この二人はどうして俺の思い通りにいかない。この俺が……!


「水流崎先輩?」

「なんでもないよ。さ、こっちだ」


 なんでもない。問題ない。俺が優しくして笑顔を振りまけば最終的には従う。そうやって何人も屈服させてきた。

 こいつも例外じゃない。俺のモノだ。


「空き教室は立ち入り禁止だけど、俺は通ってもいいんだ。こっちが近道なんだよ」


 今日も近くで女子が見張っているのは知っている。

 だから敢えて人混みが続く場所を通過し、使われていない教室を通って女共を撒く。今日、鍵を持っているのは実行委員長の俺だけだ。


「窓を通るのですか? 嫌です」

「……はは、大丈夫だよ。それより急がないといけないじゃん」


 ちっ……俺が言ったらおとなしく従えよ。今までの女はそうしてきたんだよ。


「……」

「早くして。来賓の方を待たせたら駄目だろ?」

「……」


 久土って奴もムカつくが、こいつもムカつく。

 柊木久奈。この俺が話しかけているのに一切なびかない。どんな誘いも迷わず断ってきやがる。

 生意気なんだよ。俺の言う通りにしろ。


「いいから来い」


 柊木を連れて空き教室を抜け、人目のつかない茂みを通って目的の場所へ。

 ここの主はしばらく帰ってこないし、やっぱり襲うならここが一番だ。


「あ、あの、どうしてここに」


 もうおせーよ。最後に笑うのはこの俺。俺の勝ちだ。

 鍵を施錠し、柊木を見下ろす。

 実行委員長に立候補して正解だった。こんな上玉が一つ下の学年にいたとはね。俺としたことが気づかなかったよ。

 あれだけ攻めたのに手しか触れていない。……やっとだ。やっとこいつの全てを触ることが出来る。


「私、なお君のところに戻ります」

「黙れよ」

「っ、きゃ……!?」


 突き飛ばし、押し倒す。もう遅いんだよ馬鹿が。

 お前が俺のことを好きにならないのはよく分かった。それは気に食わないが、代わりにとことん食ってやるよ。


「や、やめ……っ」

「声を出すな。まずはその口を黙らせてやる」


 服を剥がすのは後だ。

 両手を掴み、力で無理矢理押さえ込む。


「残念だったな。ここには俺と柊木、二人だけじゃん」

「い、嫌っ、な、なお君助けて」

「あいつは来ない。誰も来ない。さあ、楽しもうか……」


 ずっと狙っていたんだよ。お前の体、肌、唇。やっと、やっとお前の全てを奪い取れる。

 柊木、お前はもう俺のモノだ。唇を、全てを寄越せ。さあ……!





















「久奈ああぁ!」

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