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第129話 学園祭・当日

 誰かが言った。学園祭は準備している時が一番楽しいと。

 俺は違うと思います。だって……辛かったもんんん!

 すげー働いた。すんげー頑張った! 水流崎の無茶な要求にも負けずに遅くまで居残り、身魂をなげうって仕事をやり遂げた。社畜の気持ちが少しだけ分かった気がしたよ……。

 その甲斐あって今日を完璧な状態で迎えることができました。

 今日は学園祭当日でございます。


「今更なんだが……」


 俺は頭上を見上げる。

 教室のドアの上には『英傑の集い・X-麺』と彩り鮮やかに飾られた看板。深夜に会議したの?と思わせるネーミングセンスだ。

 あー……ま、まあ、こういう模擬店があってもいい。のかな?


「いよいよだね直弥! 僕は! 高揚している!」


 麺太はラーメン屋の店主のような姿でハイテンションだ。土日のジェントル麺で使った服だね。

 彼がはしゃぐ理由は至極簡単ご覧の通り。二年二組がする模擬店は、インスタントラーメンを振る舞うお店だからだ。


「『月刊 麺の道』を参考に僕がプロデュースしたこのお店! 東西南北! 全国の様々なカップ麺をご用意! 種類の豊富さは大型スーパー以上さ!」


 説明どうも。

 客は好みのカップラーメンを買い、お湯を注いで、テーブルで食べる。それだけの店。

 うんそうだね、手抜きだ。超がつく程に楽だよ。調理はしないので衛生面を気にする必要はゼロ、低コストだし少人数でシフトを回せる。


「下手に学生が作る品より遥かに安全! 慣れ親しんだ味もあれば! 知らないご当地カップ麺もある! なんということでしょう! ここはまさに! カップラーメンの! 楽園!」


 何より麺太が大活躍だった。カップ麺はこいつがほぼ全て集めた。さすが麺に関しては天才的。

 朝からトランス状態で、ずっと大声で喋っている。


「向日葵君うるさい。裏に回って指示でも出してろし」

「はぁーい!」


 金城に冷たくあしらわれても麺太は気勢を削ぐことなくウルトラ元気。準備を進めるクラスメイト達の元へ走力Aでダッシュ。

 で、金城は……おぉ。


「じゃ~ん。可愛いっしょ」

「そだねー。世界二位だよー」

「久土げんてーん」


 このやり取り以前にもあったような。

 金城はメイド服のような衣装を着ていた。やや短めのスカートやニーハイがエロイ。エロイって言っちゃったよ俺。

 模擬店の出し物にカップ麺が提案された時、女子から味気ないと大反発を受けた。そんな不満だらけだった女子達を金城がまとめ上げ、浮いた予算を衣装代に充てて可愛い衣装を作ろう♪と言った結果がこれ。

 正直、素晴らしい。服の可愛さだけで集客が見込めそうだ。


「ちゃんと褒めてるじゃん。偉い偉い」

「頭撫でるな思考読むな」

「そのツッコミ飽きた~。いい加減にしろし」

「いや金城がいい加減に飽きろよ!? 俺より俺の頭を触るな!」


 人生を通してだと俺の方が触っている時間は長くても、ここ一年で統計を取ると金城の方が上回っているかもしれない!


「く、工藤君」

「ん? ああ、火藤さ……えぇー……」


 火藤さんが涙目。その両サイドで女子達がキャピキャピ笑って騒ぐ。

 どうやら無理矢理着させられたらしい。身に包んでいる衣装は他の女子とは違い、ゴスロリってやつ? 黒を基調としたフリフリとヒラヒラが満載だ。似合っているし可愛らしい。お人形さんみたいだね。リカちゃん的な。


「こんな格好でお客様に『お湯と魔法を注ぎますね☆ きゅるるミラクルホットウォーター♪』って言わないと駄目なんですか……?」


 メイド喫茶か! @ほぉ~むか!

 やい金城、お前の仕業だろ。なんつー嘘を吹き込みやがった。ウチのテイストは萌え萌えキュンではない。


「えぅぅ」


 あ、火藤さんの泣き方が今にも大泣きに進化しそう。要フォロー!


「そ、そんなこと言わなくていいぞ。嫌ならその服も着なくていいから」

「え~? せっかく燈ちゃん専用を作ったのに」


 見てよこの細部に拘った衣装っ、と言って金城が火藤さんに抱きつけば火藤さんが「あうぅぅ」と啼泣する。

 二人が並ぶと露骨に目立つよね。何がって? そりゃ火藤さんのロリ体型や金城のお胸、げっふんげっふん!

 お世辞抜きで金城と火藤さんがいれば本当に集客率が上がるだろう。


「ほら久土、何か一言ないの?」

「一言ぉ?」


 金城に押されて一歩前に出てきた火藤さん。

 恥ずかしそうにしながらも、何か言って欲しそうな顔で小さく唸っていた。


「えーと、俺が言わなくちゃいけないのん?」

「当たり前っしょ」

「んじゃあ……火藤さん」

「は、はい! なんですか!」


 なんで火藤さんも大声なのさ。うるさいのは麺太だけで十分だよ。

 ゴスロリと呼ばれる派手な格好をした火藤さん。馬子にも衣装だ。


「あなたは嫌がっているけど、俺は良いと思う。とても似合っているよ」

「!? ……ふ、ふ……ふえええええぇ!」

「うるさっ!? 馬子が馬鹿うるさい!」

「ふああああああ!」

「声で全体攻撃すな! 『ほしのふるよる』か!」


 もしくは叫び声で相手の動きを封じる系の能力者かな? そればっかりすれば負けないってツッコミを入れられるタイプの敵キャラかな!?


「な、なな何を言って……あひゅうぅぅ」

「久土、違うってば」


 湯気を出して微振動する火藤さんの隣で金城が叱咤してきた。

 え、違うの? じゃあ、


「金城、世界二位って言ったのは本気だからな。そのくらい可愛いと思」

「っ、だーかーら違うっての。久土のアホ~。バカバカの馬鹿人間」

「悪魔の実みたいに言うな!」


 またしても違うらしい。な、なんだよ、何を言えばいいんだよ!

 俺は顔を真っ赤にした火藤さんに胸元をポカポカ叩かれ、困惑するしかない。

 すると金城がため息をついた後に髪をくしゃくしゃ撫でてきた。


「久土が実行委員っしょ。もうすぐ始まるんだから激励」

「あ、一言ってそゆこと」

「不意打ちしてんなし」


 ふぬぐ!? 撫でる手に力をこめにゃいで! 頭がお馬鹿になっちゃう。あ、元からだった。

 ポカポカと叩かれたり頭を鷲掴まれ、さらにクラスメイト全員から注目される。

 ……俺もさすがにそこまで馬鹿じゃない。金城の手を払い、火藤さんを宥め、腹の底から声を出す。


「みんな、今日は待ちに待った本番だ。俺らのテーマは『学園祭で何か食べたいけど良いのないかなぁ……あ、カップ麺って丁度良いかも』だ。ふざけたテーマと店名上等。目指すは、売り上げ一位だあぁ!」

「「おーっ」」

「ぬおおおおおおおおおおおおぉ!」


 俺が叫び、クラスメイトは一応テンションを上げ、麺太は俺よりも吠え叫ぶ。

 かくして学園祭は幕を開けた。

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