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第127話 お見舞いに行く

 今日一日、金城が傍にいたおかげで男子から攻撃を受けることはなかった。

 命を救われた感が果てしない。彼女がいなければ俺は……うー、おっそろすぃ。


「実行委員の仕事を手伝ってくれてありがとな」

「ノープログレムだよ久土少年~」


 より一層キツかった仕事。金城が手伝ってくれて本当に助かった。今日は金城に助けられてばかりだ。今日というか毎日だね。

 水流崎の対処法も作戦も、ほとんど金城が考えたもの。

 いつも金城に頼ってばかりです。……友達に恵まれた。心の底からそう思う。


「必ずお見舞い行くんだよ」

「金城も来いよ」

「あたしはいいの。ほら、バイトがあるし」

「今からバイト?」

「そーそー。じゃね~」


 正門で金城と別れる。

 バイバーイと手を振って、振り終えて……俺は全速力で走る。


「逃げたぞ追え!」

「とっ捕まえてリンチだ!」

「今朝注文して届いた金槌で頭蓋骨砕いてやる!」

「さすがお急ぎ便!」


 殺気に満ちた男子達が追ってきた。

 顔は般若の如く、手にあらゆる武器を持って……ぎえええぇ!? どんだけ今朝の俺の発言に怒っているんだよ!


「二組のギャル天使を独占しやがって」

「計測したら奴は累計で一時間以上も頭を撫でられていた」

「許すまじの人は手を挙げろ」

「「はああぁい!」」


 全員が武器を掲げて咆哮。ああぁあ怖い怖い怖いっ! FFF団か!

 奴らは本気で俺をしばくつもりだ。なんとしても逃げ……くっ、駄目だ、追いつかれてしまう……。


「僕に任せて」

「麺太!?」


 麺太が俺と並走しながら歯をキラリと輝かせて満麺の笑み。集団を追い抜いたのサラッとすげぇな! 走力A!?

 ズザザァ!と踵を返して麺太は男子の大群と相対する。


「たまには直弥の為に一肌脱ぎ脱ぎしないとね……。僕が相手だ、一人として後ろには通さない!」

「邪魔だどけ向日葵ぃ!」


 男子達が突撃。一人では無茶だ、多勢無勢。

 ところが、


「どかぬーっ! うおおおぉ!」

「な、なんだこいつ」

「一人で全員を……うわぁ!?」


 走力はA、パワーはS。麺太は男子全員を押さえ込んだ。

 横を抜けようとする奴や、まずは麺太の動きを止めようと多数で切り込む奴ら。麺太はそれら怒り狂う集団をたった一人で完璧に受け止めて、どこからか長い棒を取り出すと華麗に振るい、全員まとめて薙ぎ払った。


「めーん! これぞ向日葵流・麺棒術! 麺を伸ばす前に君らを伸ばそう! ふっ、未来のメンクイジャーの力を思い知ったか」


 巧みで凄まじい棒術で場を蹂躙する様は最早アクション映画さながら。

 さすがフィジカルだけは一流の体力馬鹿! 一対多数であの圧倒ぶりは見事と言わざるを得ない。

 いつもは気抜けたアホ面で麺を啜ってばかり、デリカシーのない発言で女子から中傷リンチを食らって泣いている麺太が……な、なんだろう、今はカッコイイ。うっそ、あいつがカッコイイ!?


「何をぼさっとしているのさ、早く柊木さんのお見舞いに行ってあげな。この場は、麺許皆伝の腕前を持つ僕に任せなさーい!」


 元気いっぱい、麺のし棒で豪快に男子を吹き飛ばす麺太は秦の大将軍の如く。


「向日葵流・麺棒術『昇竜烈波』!」

「「ぐああああ!」」


 あ、ありがとう。俺は麺太の雄叫びと男子の悲鳴を背にして帰路を歩く。

 金城も麺太もお見舞いに行けと言った。行ってもいいんだけど、問題がなぁ。











 エントランスで暗証番号を入力、故障していた頃とは打って変わってスムーズに開いた扉を抜けてエレベーターに乗ると七階のボタンを押す。ウィーンと七階へ到着。


「あら、直弥君……ぷぷっ」


 エレベーターが開くと久奈ママがいた。俺を見て、ぶわっははは!と笑いだした。


「エレベーター開いたら直弥君が、あひひっ、オープンザ直弥君、あっひひひぃ!」

「俺、困惑です」

「良かったらウチに寄ってね。久奈が待ってるわあはははは!」


 顎が外れんばかりに笑いっぱなしの久奈ママは俺と入れ替わりでエレベーターに乗った。買い物に行くようだ。

 ならば今、久奈は家で一人。

 ありえなーい。そんなわけないですわな。あの父親が、風邪をひいた娘を置いて会社に行ったわけがない。


「あ、久奈ママにも言われてしまった。……しゃーない、顔を出すか」


 柊木家のインターホンを押す。顔を覗かせたのは予想通り久奈パパ。何十歳も老けたようなやつれた顔面は蒼白、普段の朗らかで柔和な笑みは見る影もない。

 俺が言った問題とはこれ。はぁー……久奈ラブ状態のこの人と会いたくなかった。


「な、直弥君か。大変なんだっ、久奈が……久奈がああああ!」


 声が大きいです。耳を塞ぐ俺の前には、のたうち回る久奈パパ。今朝父さんの髪を引き抜いた手で今は自分の頭皮を掻き毟っている。

 あの、落ち着いてください。久奈が風邪なんでしょ。ただそれだけのことですよね?


「久奈の容態はどうなんですか」

「聞いてくれ。いいかい、心して聞いてくれ」

「は、はい」

「実は……熱が……三十七度もあるんだあああ!」


 微熱! 微かな熱略して微熱! 心して聞く必要なし!

 しかし久奈パパにとって娘の七度超えは世界崩壊並みに深刻な事態らしい。


「久奈は今この瞬間も苦しんでいる。私は心配で心配で心配で心配で心配で」

「あー……見舞いに来たんですが、体調が優れないならやめてお」

「静かに!」


 えー……?

 久奈パパに制されて口を噤む。久奈パパは目を閉じて耳を澄ます。


「今、久奈が何か言っている」

「何も聞こえないですよ」

「間違いない。私の能力『愛娘からのSOS(シグナル・久奈・ラブ)』が確かに聞き取った」


 謎の能力を発動させましたね!? 遠くの小銭が落ちる音を聞き取るきり丸を彷彿とさせる。


「私は久奈の元へ向かう」

「は、はあ。どうぞ。俺は帰るので、久奈によろしくお伝えく」

「静かに!」

「えー……?」

「なお君、と言っている。久奈が直弥君を呼んでいる」


 そうなんですか?

 俺も耳を澄ませているけど聞こえるのは久奈パパの荒い息遣いのみ。おっさんの吐息を聞いてもなー……。

 と、久奈パパは俺の肩を掴んだ。おっさんの爪が制服を貫通して皮膚に食い込む。


「久奈が! 君を! 必要としている! 今すぐ行ってあげたまえ!」


 うごごご!? 揺らさないでください!


「俺は帰」

「行きなさい。さもなくば」


 久奈パパはポストから新聞紙を引っこ抜くと即座に丸めて俺へと突き立ててきた。

 恐ろしいのは、ただ丸めて棒状にするのではなく角度をつけて丸めることで先端をレイピアのように鋭利にしていること。

 断れない。拒否したら、刺され……!?


「は、はひぃ」

「うむ。では行きたまえ」


 久奈パパに先導、もとい連行されて久奈の部屋へ向かう。

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